母の実家は、祖母が
母の実家は、祖母が一人で暮らしていた。
広々とした日本家屋で、これから三人で暮らすには十分すぎる広さがあった。
祖父が健在だったころは、米農家として生計を立てていたらしい。
今でも、祖母はそれなりの規模の畑で野菜を栽培している。
年末、俺は慌ただしく中学校に転入し、翌年には高校入試を迎えることとなった。
学力には偏りがあり、特に国語力は小学生レベルで止まっていた。
しかし、家から近い公立の農業高校を受験し、無事に入学することができた。
高校生活の三年間はわりと充実していた。
食品加工や家畜の世話、作物の栽培を楽しむことができた。
一方で、制服を加工していた生徒や、鶏のような髪型をした生徒、葉っぱで「逝っている」ような生徒は苦手だった。
そのため、クラスメイトとの関わりはほとんどなく過ごしていた。
代わりに放課後は、祖母の知り合いのすし屋でアルバイトをしたり、夏休みには近くの農家で働いたりしていた。
そんな俺に唯一近づいてきたのが、同じクラスのトオルだった。
誰にも話していないはずなのに、トオルは俺がアメリカに住んでいたことを知っていた。
どうやら英語を話せるようになりたいという意図があったようだ。
ただ、彼はそばにいるだけで話せるようになると勘違いしているようだったし、ノートに名前を書くだけで勉強した気になるタイプのようにも見えた。
いつも付きまとうようになったトオルは、俺がとっさに発するFワードや悪い言葉ばかりを覚えていた。
しかし、彼と付き合う中で気づいたのは、彼がとても正直で、感情がすぐ顔に出ることだった。
思ったことはすぐに口にし、想像力が豊かであることもわかった。
彼の思考の中心には、常に「モテたい」という強い欲望があった。