立っていた善は、強い潮風に
立っていた善は、強い潮風に吹かれながら、口を開いた。
「このことを知る者は、他にいるのか?」
「それは俺には分からない。宋の天文学者の中にいるかもしれないし、いないかもしれない。もしかすると天竺にいるかもしれないし、さらに東の地に行けば、そこで見つけることができるかもしれない。」
善はその答えを聞いて、笑いながら言った。
「このことは、誰かに話しても信じてもらえないな。話したとしても狂人扱いされるだろう。もし清澄寺の入門の際、こんな話をしたら仏教観の全否定と取られて、その日のうちに破門されるに違いない。」
続けて善は言う。
「おまえは偉い。俺はおまえと知り合えて、本当に良かった。」
俺はその言葉を肯定できずに答えた。
「善、それは違うぞ。俺は偉くなんかない。ただ、知っているだけなんだ。本当に偉いのは、海を渡り、大陸を横断して地球が丸いことを実証する人たちなんだ。血を流しながらも地球の運動を証明しようとした人たちなんだ。俺は、そういうことを営々と積み上げてきた人々の尽力の上に、ただ安穏と乗っかっているに過ぎないんだ。」
俺はそう話しながら、歴史の中で奇人変人と蔑まれながらも真実を追い求めた人々、あるいは命の危険を顧みず迫害を受けた人々の姿が思い浮かんだ。
俺は自分の存在が、そういった人々の積み重ねによって成り立っていることを強く自覚した。
俺は桟橋に係留されている帆船を指さして言った。
「善、あの船も過去の人々が何もないところから生み出したものだ。そして、誰かが発見した北辰を目印に航行している。やがて、地球が丸いことを証明する人が現れるだろう。これらすべては、過去の人々が築き上げてきたものの結果なんだ。」
俺の言葉に善は何かを思い深く考えている。
そして彼は、決心したように宣言した。
「俺は、未来を知るために過去を知る。これから万巻の経典を読み、日本第一の智者となる。『晦渋』で理解されず埋もれてしまった経典、あるいは『深奥』の経典から沈められた法を読み解けるほどの智者となる。」
熱く語る善は、太陽のせいではなく本当に眩しかった。
未知の海へ乗り出し、新しい大陸を発見し、新たな航路を開くのは、こういう男なのだなと思った。
その後、善は清澄寺に入門する際、「日本第一の智者となし給え」との願を立て、虚空蔵菩薩に祈ったという。
そのことについて、俺は何も知らなかった。
「晦渋」とは、言葉や文章が難解で、意味や論旨が分かりにくいこと




