潮風を受け止めるように立つ善に
潮風を受け止めるように立つ善に、俺は無言でそのクレジットカードを手渡した。
善は初めて手にするクレジットカードをじっと見つめている。
そのデザインにどんな思いを巡らせているのだろうか。
俺自身は、どこから説明を始めればよいのか分からず、戸惑っていた。
そのクレジットカードには、気象衛星が撮影した地球の写真が印刷されていた。
柔らかく広がる線状の雲や、繊細に散らばった雲、さらには塊のようにまとまった雲が、青い地球を包み込む様子を美しいデザインで表現していた。
呼吸を忘れたかのようにカードを見つめる善に、俺は静かに語りかけた。
「善、おまえが見ているそれが、俺たちが住んでいる世界の姿、地球の姿なんだ」
しばらく考えていた善だったが、意外にも素直に受け入れてくれた。
「史郎が言うことなら、きっと本当だろう。いまだに信じられないうつろ舟だって存在するのだから、俺は史郎の話を信じる」と力強く答えた。
「善、俺は上手く説明することができないんだ。だから、おまえから何か聞いてくれ」
俺がそう言うと、善はまるで初めてうつろ舟のことを調べたときのように目を輝かせ、楽しそうに質問を始めた。
「まず、小湊村はどこにあるんだ? 鎌倉は? 京は?」
その問いに答えるべき俺は、これから始まる説明の難しさを思い、慎重に言葉を選びながら、最初から話さなければならないと覚悟した。
「善、よく聞いてくれ。この青い部分、これは全部が海なんだ。そして、この緑色や茶色の部分が土地なんだ。」
カードを指さしながら、俺は説明を続けた。
「世界はとてつもなく大きくて広い。俺たちが住んでいる場所は、こうして弓なりに島々が連なるこの部分だ。そして、ここが日本なんだ。」
そう言いながら、俺はカードのデザインの一角を指さした。
次に、中国や朝鮮半島を説明しようとしたが、この時代、それらが何と呼ばれていたのか分からず、もどかしさを覚えた。
知恵を絞り、「日本に仏教を伝えた大陸の国は、ここだ」と指さすと、「そこが宋か。よっぽど日本より大きいな」と善が答え、中国が「宋」と呼ばれていることを知った。
次に、善が「天竺はどこにある?」と尋ねてきたが、俺は天竺が何を指すのか分からなかった。
そんな俺に善が教えてくれた「お釈迦様が生まれ、仏教が生まれた国だ」
その言葉で、それがインドだと気づき、デザインの左端にかろうじて載っているインドを指さした。
さらに善が「では、俺が立って見ている、この海の彼方には何があるんだ」と尋ねてきたが、カードにはアメリカ西海岸は写っていなかった。
俺は説明を続けた。
「善、聞いてくれ、ここには載っていないんだ。隠れて見えないんだ。そのわけは、一番最初に言った通り、俺たちが住んでいる世界の姿は地球。地の球、つまり球体なんだ」
俺たちの迷宮は続く。どうやら案内役のうさぎは登場しそうにない。




