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11月最終日曜日。帰国の日 

 11月最終日曜日。帰国の日。


 父が車で空港まで送ってくれた。もちろん、地方の小さな空港から日本への直行便はない。


 サンフランシスコを経由して、母の実家がある千葉へ向かう予定だ。


 長らく会話の少なかった父と、車中で久々に話す機会が生まれた。


 会社を辞めた父は、彼女の父親が経営する造園会社で働いているそうだ。


 もっとも、その会社は庭の手入れや芝刈りを行う小さな個人経営のものだという。


 彼女の父親とは年齢も近く、二人はわりと楽しく仕事をしているらしい。


 以前の父といえば、シャツにネクタイ姿でオフィスで働く堅いイメージが強かった。


 ところが最近は、日焼けした肌に鼻の下のヒゲを蓄え、服装も妙にラフになった。


 何か吹っ切れたような様子で、父は陽気なメキシカンになりつつある。


 彼女とは、今すぐではないがいずれ正式に結婚するつもりらしい。


 「まあ、いわゆる、できちゃった婚…いや、授かり婚ってやつだ。ウヒヒ。」


 父は鼻の下を伸ばし、浮かれた様子でそう語る。


 ---いや、俺に言わせればそれはズッ婚バッ婚だろ---


 俺の不機嫌さに気づいたのか、父は急に真面目な顔に戻り、こうのたまった。


 「人生ってのは、まったく予想外のことが起きるものだな。でも、それはきっと何か答えを得るための過程なのかもしれん。おまえも気をつけろよ。」


 ---おいおい、何を気をつけるのか教えてくれよ---


 それが、父との最後の会話だった。


 ターミナルには、ジャックとサムの二人だけが見送りに来てくれた。


 カウンターでチェックインを済ませると、あとはベンチに座った男四人。


 会話もそれほど弾むわけではない。


 搭乗時間が近づき、立ち上がる。


 「それじゃ、俺、そろそろ行くわ。」


 ジャックとサムに拳を突き出す。


 「Yo! ジャック!」拳を合わせ、「Ya! サム!」同じように拳を合わせる。


 父は俺に「頑張れ」とだけ告げて握手を交わし、別れた。


 手荷物検査を済ませて振り返ると、三人が手を振ってくれていた。


 なんだか、この街で過ごした日々の現実感が薄れていく。


 三人の姿も、次第に霞んでいく。


 ---あれ、もしかして俺、今泣いてるのか---


 離陸した飛行機の窓から、クーズベイの街並みを眺める。


 七年間過ごした景色が過去となり、どんどん離れていく。


 十五歳の国重史郎、波のように押し寄せる感情を抑えながら、空を渡る。





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