朝起きて家に戻ると
朝起きて家に戻ると、善と兄妹の三人が朝食をとっていた。
「やあ!史郎」と、すっかり兄妹と打ち解けた様子の善が声をかけてきた。
「よう!善」と返事をし、兄妹にも挨拶をして善の隣に座ると、妹の花里が朝食を用意して持ってきてくれた。
鯵の開き、蕪の味噌汁、そして山盛りの玄米ご飯が並ぶ一汁一菜の食事だった。
食事を終えた兄妹は、手際よく後片付けを済ませ、畑仕事に出かけると告げて家を出て行った。
どうやら、世話になっているお礼に家のことを手伝ってくれるようだ。
二人になると、善は「で、史郎。おまえはどうするつもりだ?」と尋ねた。
俺は「二人にはこの家に住んでもらうのが一番いいと思う」と答えた。
そして、多くの人に助けられてきた自分だからこそ、兄妹の面倒を見ることで、その恩を返したいという強い気持ちを語った。
善もその考えに賛同してくれたので、あとは舟についてどのように説明するかが課題となった。
「俺の方が年も近いから、俺が舟に案内し、話をしておく。そうすれば、二人も安心できるだろう。その間に、史郎はあの二人の着物や、これから必要なものを買ってきてくれ。今日は港の通りで定期市が開かれているから、そこで仕入れてきてくれ」
食事を終えた後、俺は山を下りた。
賑やかな定期市の店や屋台を通り抜け、幕府から支給された米の為替を預けている問丸のところへ向かい、紐に通した銅銭に交換してもらった。
かなりの重さがあったが、兄妹のための古着や農具、日用品などを買っているうちに軽くなった。
いつものように海辺で魚を分けてもらい、荷物を抱えて家へ帰ると、善と疲れた様子の兄妹が出迎えてくれた。
善の話によると、舟に案内された兄妹は初めは恐れを感じていたが、冷蔵庫や冷凍庫に驚き、さらに蓄音機から流れる音楽に感嘆していたという。
少し安心した様子の兄妹に交代で浴室を利用させ、その間に善はそれぞれを診察台に乗せて歯の治療を施した。
そのため、二人はぐったりとしていたのだ。
翌朝、二人が舟や俺のことを恐れて家から逃げ出すのではないかと心配したが、実際にはそのようなことはなく、食事の準備や畑仕事を続けてくれた。
ただ、二人は舟に近づくことを避けるようになった。
兄妹が家で生活し、俺は舟で寝起きする日々が始まった五日目の朝、俺は家の周りをうろついて様子を伺っている一人の少年と出くわした。
さらに、彼は家に近づき、中を覗こうとしていた。




