一人暮らしは忙しい
一人暮らしは忙しい。
舟は何もしなくても片付けられ、清潔な状態が保たれているが、家では食事の準備や掃除、洗濯などの家事をこなさなければならない。
畑では作物の植え付けから収穫まで、やるべきことはたくさんある。
早朝から作業を始めても、海へ釣りに出かけるのは午後になってしまう。
今日は一人で、いつもの桟橋から釣り糸を垂らしていると、背後に人の気配を感じて振り返った。
すると、善と同じくらいの年齢の男女の子供が立っていた。
二人は痩せており、着ているものは汚れていた。
最初はじっとこちらを見ていると思ったが、実際には俺ではなく、そばに置いてあった竹の皮に包まれた弁当を見ていた。
無視して釣りを続けていたが、無言で見つめる女の子のおなかが鳴るのが聞こえ、我慢比べに負けた俺は、その包みを彼らに渡すことにした。
中には醤と生姜で味付けした魚の切り身と彩りに茹でた菜の花、梅干し入りの大きなおにぎりが二つ入っている。
包みを開けた瞬間、白米の輝きを見た二人の驚きと喜びに満ちた表情は、いつまでも忘れられない。
食べ終わった後も、彼らはその場を離れず、俺が帰る際には後ろからついてきて、山の中の俺の家までやってきた。
さすがに家の中には入ってこなかったが、四月とはいえ夜は肌寒い。
俺は二人を家に招き入れ、名前を尋ねた。
すると、彼らは土間に正座し、両手をついて今日の食事に感謝し、それから自己紹介を始めた。
男の子は真之介で、十二歳。女の子は花里で、十歳。彼らは兄妹だという。
三年前に発生した寛喜の飢饉により、家族は放浪せざるを得なくなり、その間に両親を失った兄妹は、さまざまな場所を転々としながらこの地に辿り着いた。
彼らは山や海辺を住処として、農民や漁民の手伝いをして食料を得たり、自然の中から食べ物を探しつつ、何とかこの冬を乗り越えたという。
この辺りには、兄妹と同じような境遇の子供たちが多くいるらしい。
俺は彼らにすっかり同情してしまい、まずは板張りの部屋へ上がってもらって、この家に泊まることを提案した。
それから、米を含めた食料や調味料を自由に使うことを許可した。
経済的に余裕のある俺は、どこかで兄妹を助けたいという気持ちがあったからだ。
もし彼らが、数日間でもこの家に滞在するのであれば、俺の事情を説明しなければならないし、場合によっては舟についても話す必要がある。
明日、善に相談しようと考えながら家を出ようとすると、日が暮れて出て行こうとする俺を、板の間に正座した兄妹は不思議そうに見つめていた。




