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ちょいと偉人に会ってくる  作者: 鈴木ヒロオ
それぞれの道
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年が明けた貞永二年

 年が明けた貞永二年は西暦では何年になるのだろう。


 今年、俺は二十歳になり、善は十二歳になる。


 あれから新右衛門さんを通じて、鎌倉幕府から正式な通知が届いた。


 まず、現在住んでいる山が所領として与えられ、税金は免除されることになった。


 さらに、今後三年間にわたり、二十石の米が支給されるとのことだった。


 一人の人間が一年間に消費する米の量が一石と聞いたので、俺には十分すぎる量だった。


 最近は贅沢になり、精米された白米ばかり食べている。


 また、何か問題が生じた際には鎌倉幕府ではなく、下総国の国府台へ申し出るようにとの指示があり、在庁官人である下総権介しもふさごんのすけの千葉介に依頼するようにとのことだった。


 要するに、俺のことは鎌倉の中央政府ではなく、地方政府の行政担当官に任せられたようである。


 おそらく、鎌倉の地には近づくなという意図があるのだろう。


 あれから善は、誘われていた道善坊の寺に足を運び、寺が所蔵する経典や書物に強い興味を抱いている。


 道善坊や若い僧に教えを受けながら、それらに夢中になっている様子だ。


 彼は五月から正式に寺へ住み込み、学びを深めるつもりのようだ。


 すっかりその気になり、早くも丸めた頭で「心配するな、史郎。三日に一度は山の寺から下りて会いに行く。おまえの知恵は計り知れないし、一緒にいることで得られる経験は貴重だ。書物からは学べないことをお前から学ぶ。帰りは舟で寺まで送ってくれ」と言う。


 あれから新右衛門さんは、すっかり善に心酔し、俺よりも善に寄り添っている。


 善が何か話すたびに感銘を受け、腕を組んで一人で何度も頷いている。


 あれから俺は、経済的に余裕が生まれ、釣り道具を整えた。


 釣り糸は、パンドラの箱に満たされていた青いゲルから作ったテグスである。


 何気なく手にした一塊のゲルを引き伸ばしたり引っ張ったりしているうちに、どこまでも細くすることができた。


 ひらめいて、それを電子レンジで加熱すると、硬化し、強靭で透明な釣り糸が完成した。


 さらに、竿先もゲルを用いて形成し、熱を加えることで、しなやかなものが出来上がった。


 釣り竿は竹細工師に多様な注文をして、ゲルの竿先と竹、漆、麻糸を組み合わせて仕上げてもらった。


 釣り針は鍛冶屋に依頼し、鉄片をたたいて製作してもらった。


 時間と費用がかかり、経済的には全く割に合わないことは分かっていた。


 浜辺に足を運び、魚を購入する方が遥かに安価であることは理解していた。


 それでも海へ行く理由が欲しかった。


 いつの日か、海にいることで帰る機会が訪れるかもしれないという淡い期待を抱いていた。


 あれから七か月、あれから七年、あるいはあれから七十年。


 そんな思いを抱きながら、港の桟橋の先から、俺は三月の海に釣り糸を垂らしている。


 国府台は、現在の千葉県市川市の北部に位置する高台であり、かつては下総国の国府が置かれていた場所です。

 西側には江戸川が流れており、古代から陸上交通と水上交通が交差する重要な交通の要所でした。

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