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大広間から役人たちは引き上げて

 大広間から役人たちは引き上げて、俺たち三人だけが残された。


 善は砂糖が使われた甘い饅頭に、まだ夢中だった。


 そこへ役人がやってきて、新右衛門さんを呼び出し連れて行き、静かになった広い部屋には、俺は善と二人きりになった。


 俺は善に聞けなかったことを尋ねた。


 「おまえは取り調べが、こういう結果になると分かっていたのか?」


 彼は饅頭を手にしたまま、「そんなこと分かるはずがないだろう。それに、話のきっかけを作ったのは史郎じゃないか」と返した。


 ---何かおかしい。嘘をついたのは俺だが、嘘をついた俺が騙されている。---


 俺はどんな表情をしていたのだろうか。


 「どうした、史郎。狐につままれたような顔をしているぞ」


 「善、俺は嘘をつかれているような気がして、どうにも納得がいかないんだ」


 善は少し考えた後、口を開いた。


 「仮に俺が嘘つきで、史郎に『俺は嘘つきだ』と言った場合、俺は史郎に嘘をついているのか、それともついていないのか。どちらなんだ?」


 俺も少し考えてから答えた。


 「それは、善が『嘘つき』なら本当のことは言えず、もし本当のことを言えば『嘘つき』という仮定が崩れるから、矛盾が生じる」


 善は考え込む俺に交換条件を出してきた。


 「もし、史郎の皿にある饅頭を俺にくれるなら答えを教えてやる」


 俺が了解すると、善は皿の饅頭を手に取り、食べながら答えた。


 『嘘の中にだけ真実は存在する』


 ぽかんとした表情の俺に、彼は続けた。


 「今日の取り調べの中で、おまえの嘘と俺の嘘、さらには義尚の嘘も重なり合い、その結果、史郎は助かったという真実だけが残った。これが答えだ」


 やはり俺は嘘をつかれ、騙されているようだ。


 善はただ単に、饅頭が食べたかっただけのようだった。


 そのことを彼に指摘すると、「嘘も方便」と言い、最後の一口を頬張った。



「嘘も方便」は、法華経の譬喩品ひゆぼん第三「三車火宅」に由来し、目的達成のために用いられる智慧を示す教えです。



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