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善は有時に対して

 善は有時に対して、深々と一礼する。


 「漁夫なる貫田次郎重忠の児、善日の事にて候。」


 了解を得た善が申し開きを始める。


 「史郎は、最初から我々に手がかりを与えていました。まずはその銅銭です。それに彼の言動は常に何かを示唆しています。」



 善がまっすぐ見据えた先に、すべてを吸い込むような義尚の目があった。



 「では、善日なる者よ、己の考えを申し述べてみよ。」と義尚が促す。


 「先ほど申し上げたとおり、史郎は手がかりを提供し続けています。しかし、彼には、よくよく素性を明かせぬ事情があるのでしょう。明かしたくても明かせず、答えたくても答えられない。そのためか、我々に『自らの素性を察せよ』と、強く求めているかのように見受けられます。」



 義尚の目が善の言葉を吸い込んでいく。



 「史郎はここへ来る際、白旗を掲げて参りました。これは、自分の出自が源氏であることを明確に示しています。」



 義尚の目が鳳凰堂と源氏を吸い込んでいく。



 「さらに、先ほどの義尚様とのやり取りにおいて、銅銭の発案者、すなわち発起人は十円という人物です。史郎は、義尚様に何かを伝えようと強く見つめながら、『発案者、つまり発起人。発起人でございます』と答えました。すなわち、すべての謎はその言葉に隠れていました。察するに、発起人という言葉は当て字であり、意味するところは法華人。義尚様と同じく天台法華人であることを暗示していました。さらに深く推察すれば、十円なる人物もまた当て字の人物と見なされるでしょう。」



 義尚の目が全ての事象を吸い込んでいく。



 「発起人は法華人であり、法華人で十円。十円という言葉もまた当て字なり。じえん、じえん、ほっけにんのじえん。」


 義尚の白い眉毛がピクピクと動いている。


 まぶたが激しく痙攣している。



 すべてを吸い込んでいた義尚の目から、今度はすべてを噴き出した。



 義尚は、これでもかと目を見開き、中啓が折れるほどに床へ叩きつけて立ち上がり、叫んだ。


 「十円とは慈円のこと。天台座主になられることは、四たびに及ぶ。前大僧正の慈円様か!」


 仁王立ちになった義尚は、善を見据えて再び叫んだ。


 「善日よ、すべての謎は解けた。すべては日の光の下にさらされた。」


 ---すみません、白旗は源氏。そんな意味があるとは知りませんでした。---



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