俺は、当日に新築の家で
俺は、当日に新築の家でどんな仏事が行われるのか、具体的に尋ねてみた。
善は飲んでいた茶椀を置くと、少しだけ姿勢を正して語り始めた。
まずは、家の中でももっとも陰が籠る厠を祓うのだという。
もっとも、それは畑の肥料にもなり、五穀の輪廻を支える一つの摂理でもある。
ここでは、不浄や罪障、邪気を焼き尽くして清浄にする烏枢沙摩明王に祈る。
トイレは水で流すものだと思っていた俺の固定観念は、あっさりと焼却処分になった。
次に厨へ移り、家の生命を起こす儀式として竈の初火が行われる。
これは、すでにある火ではなく、新しく熾した火を竈にくべる。
火は清浄にして穢れを焼く。
火は神仏の力の象徴にして家を守る。
竈の神である荒神に祈る。
元々は災いをもたらす荒神であったが、調伏され、仏法を守る護法神へと転じた。
ゆえに、竈の初火は家の清めと繁栄を祈る大切な儀式となるのだという。
いつも火を熾すことに苦労している俺は、どこかそのありがたみに共鳴する。
それから離れ、主屋と巡り、家内安全を願う。
そして最後に、舟を格納する建物を祓い浄める。
格納庫は、棟梁の又左さんをはじめ皆には「先祖を供養するための建物」と説明してあるため、一番大切な場所とされる。
先祖云々はともかく、舟は俺がこの時代に生きるために最も大切なものなので、嘘ではない。
善は一連の流れを俺たちに分かりやすく伝えてくれた。
俺は寝物語でも聞くように流していたが、三人はそうではない。
いつの間にか姿勢を正し、当日にどうすれば良いのか、準備するものがあるのかを善に尋ねている。
家主のはずの俺の気楽さと三人の真剣さに、俺は一人おかしくなった。
そんな含み笑いをする俺を、小六が三白眼でじろりと睨んでくる。
俺もとりあえず、襟を正すように座り直した。
善は気にする様子もなく、「細かい式次第は義浄房さんや新右衛門さんに任せておけばよい。気楽にしていろ」ととりなしてくれる。
三人はそれからも善に当日のことをいくつか尋ねていた。
何も知らない俺は、話に出てくる神様に興味を持ち、善に尋ねる。
「その竈の神様の荒神も、厠の神様の烏枢沙摩明王も、同じ火を扱う神様なのに違うのか」
小六が、何も知らないのかと呆れた目をして俺を見る。
真之介と花里の目が、善の返事を待っている。
善は少し考えて、「分かり易く言えば、荒神は火そのものであり、烏枢沙摩明王は火を浄化の法力として使う五大明王の一尊である」と話してくれた。
重ねて俺は尋ねる。
「二人はどんな姿をしているんだい」
すると小六が、善を差し置いて自慢げに口をはさむ。
「俺が教えてやる。荒神様は火男の面をつけて、いつも火に息を吹きかけているんだ」
……それって、もしかして、ひょっとこ。
ここで笑うと、また小六に怒られそうなので我慢する。
誤魔化すように茶碗を持ち上げ、一口含む。
善は小六の話を否定するわけでもなく、諭すわけでもなく、「またそれも一つの姿。本来の姿は、三面六臂の忿怒相をし、火焔を背負っている」と語る。
善が小六の話を優しく包んだおかげで、小六は俺に顔を向け、どんなもんだと鼻を膨らませている。
俺は口を尖らせ、ひょっとこの真似をする。
突然の俺の意味のない変顔に三人は笑った。
善だけは理解したのか、三人とは違う微笑を俺に向ける。




