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ちょいと偉人に会ってくる  作者: 鈴木ヒロオ
夏の末、秋のきっかけ

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小六が縁側の踏み石に

 小六が縁側の踏み石に桶を置くと、三白眼にどこか野卑な笑みを浮かべた。


 舌なめずりするように、ゆっくりと蓋をずらして中を覗かせる。


 四尾の鰻が泳いでいる。


 花里の瞳の輝きが、鶏たちを見る時と鰻を見る時とで同じだと、改めて気づかされる。


 真之介は何も言わず、じっと桶の中を見つめていた。


 善は三人のかもし出すただならぬ雰囲気に、思わず身をすくませる。


 小六が口を開いた。


 「史郎、もう泥は吐かせてある。すぐに蒲焼で食べられるぞ」


 真之介と花里が、若鶏が啄むように、タイミングを合わせて何度も頷く。


 どうやら梅菊さんの所から貰ってきたらしい。


 三人の“早く作れ”という無言の圧が、じりじりと迫ってくる。


 俺の鼓動が、鈍く打たれる。


 事情を知らない善が、何気なく口をはさむ。


 「鰻をぶつ切りにし、串に刺して焼くだけだろう」


 その言葉に、三人の動きが一瞬で止まった。


 俺も思わず息を呑む。


 強い視線が善に集まる。


 物に動じない善が、さすがにたじろぐ。


 口火を切ったのは小六だった。


 

 捌かれた鰻に串を打つ。


 香ばしい匂いの白焼きは蒸して、ふっくらと仕上がる。


 さらにここから蒲焼は、炭火と甘だれで真髄を極める。


 滴る脂と甘だれ。


 いぶされる身、はぜる皮。


 ほかほかの白米に乗る熱々の蒲焼。


 そして山椒の粉が頂に振りかけられて、すべてを支配する。



 小六は、鰻丼への深い思いを抑えきれず、まるで詩を口ずさむように讃え上げた。


 じゅる。


 小六が自ら、合いの手をいれる。


 すんすん。


 花里が鼻を鳴らして伴奏する。


 ごくり。


 真之介が一打の音を打つ。


 話を聞いていた善の喉が短く鳴る。


 ぐっ。


 一拍遅れて、腹もなる。


 ぐぐっ。


 そうして、善は鋭い視線を俺に向ける。


 その目は語っている。


 俺の知らないところで食べていたのか。


 今度は俺が身をすくませ、たじろく番だった。


 蛇に睨まれた蛙のように固まる。


 縁側に腰かけたまま、動けない俺に小六が活を入れる。


 「何をしているんだ、史郎、早くしろ」


 真之介が炭の準備に焼き台へ向かう。


 花里が炊飯のため家へ戻る。


 小六が俺の尻を叩く。


 「早くしろ、早くしろ」


 善も一緒に急かす。


 「早く史郎、早く史郎」


 ツクツクボウシが、はやくしろはやくしろと鳴いている。


 俺は三重奏で追い立てられる。



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