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早朝、善が洞窟の舟に迎えに来て

 早朝、善が洞窟の舟に迎えに来て、二人で港へ向かった。


 新右衛門さんが、大網主の屋敷へ行くために舟を手配しているという。


 港に到着すると、一本の帆柱を持つ小さな舟が桟橋に係留されていた。


 三人が舟に乗り込むと、船頭が舵を取り、帆手が帆を張り、小湊の港を出発した。


 舟は海岸線に沿って進み、やがて松林の浜が見えて、その砂浜に舟を上げた。


 松林の向こうには、善の家よりさらに立派な屋敷があり、塀に囲まれたその屋敷は、門のそばに物見櫓があり、小さな砦のようだった。


 俺たち三人は大広間に通された。


 すぐに白髪混じりの男が現れ、俺たちの前に座って自己紹介を始めた。


 彼の名は平野仁右衛門。


 彼の話によれば、約50年前、石橋山の戦いで敗れた源頼朝が安房へ逃れた際、初代仁右衛門が彼を匿ったという。


 その恩義として、頼朝から「平野」の姓と、房総の海に浮かぶ島、およびその周囲の漁業権を与えられたとのことだった。


 彼はその四代目の当主で、代々「仁右衛門」の名を継承しているという。

 

 「初めまして、国重史郎と申します。浜に流れ着いて、貫名重忠さんにお世話になっています。しばらくはこの辺りに暮らしたいと考えています」


 俺の挨拶を聞いた仁右衛門さんは、穏やかな物腰でいくつかの質問をした。


 まず、十円玉が本当に俺の所持品なのか、何枚持っているのかを尋ねられ、さらに家族についても聞かれた。


 俺は正直に「あと二枚持っています」と答え、家族については、この時代に存在しないので「いません」とだけ答えた。


 不思議なことに、俺の出自については尋ねられなかった。


 何か配慮があったのかもしれない。


 どうやら、重忠さん、新右衛門さん、仁右衛門さんの三人の話し合いで、俺の処遇は既に決まっていたようだった。


 重忠さんが身元保証人となり、新右衛門さんが監視役として定期的に俺と連絡を取ることになっていた。


 仁右衛門さんは住む場所を無償で提供してくれた。


 それは善の家の近く、山の中腹にある家で、冬には炭焼きの拠点として使われるが、夏の今は空いているとのことだった。


 また、食べ物については為替を用意してくれた。


 それを港の問丸へ持っていけば、米などの必要な品と交換してもらえるという。


 さらに、海岸に行けば漁民から、一人分の魚を分けてもらえるよう手配もしてくれた。


 しばらくの間は、三人で俺の面倒を見てくれるという話だった。


 最後に、十円玉については、しばらく預からせてほしいとのことで、俺はそれを了承した。


 この日の会談はこうして終わった。




 この日あった当主以後も、この家の家長は代々「仁右衛門」の名を継ぎ、海岸から少し離れた仁右衛門島に住んでいる。


 しかし、それについて俺は何も知らない。


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