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岬を回り、しばらく歩くと

 岬を回り、しばらく歩くと、田んぼや畑に囲まれた簡素な造りの家々が見えてきた。


 田んぼでは稲穂が風に揺れ、畑では人々が黙々と作業に励んでいる。


「俺の家はあの道の先にあるが、海の方へ行けばもっと広い道があり、見世棚もあるぞ。」


 この風景が珍しくて、俺はキョロキョロとしながら、小屋のような家々が並ぶ道を進んだ。


 まるで、古い白黒映画の中に迷い込んだような気分だ。


 すれ違う人々は手を止め、善と共に歩く俺をじっと見つめた。


 道の突き当たりに板塀で囲まれた立派な家があり、それが善の家だった。


 「両親には、浜辺に漂着した男で、何か事情があるようだから、あまり詮索はしない方が良いと伝えてある。何かあれば目配せしろ、何とかする。」


 そう指示されて家の門をくぐった。


 家のかまちに腰を下ろすと、中年の女性が水の入ったたらいを持ってきて、俺の足元に置いた。


 これで足を洗えということだ。


 善が母親の梅菊だと紹介してくれた。


 会釈をして水を使わせてもらうと、二人は俺の様子をじっと見つめていた。


 やがて善が口を開いた。


 「史郎、おまえの足の裏は赤ん坊のように柔らかそうだな。今まで土の上を歩いたことがないみたいだ。気がつかなくてすまなかった。後で草履を用意する。」


 その言葉に、母親は何かを誤解したようだった。


 板張りの広間に通され、俺は一人でしばらく待たされた。


 すると奥からがっちりした体格の中年男性が善と一緒に入ってきた。


 彼は俺の目の前にドカリと座り、自己紹介を始めた。


 「貫名重忠にそうろう。網主を仕候つかまつりそうろうふ。村の取纏役とりまとめやくの一人に御座候ござそうろう。」


 ---貫名重忠と申します。網主をしております。村の取りまとめ役の一人でもあります。---


 日焼けした顔には深いしわが刻まれ、口元は引き結ばれているが、目元は善に似て優しい。


 「あの、国重史郎と言います。よろしくお願いします。身分を証明できるようなものは、こんなものしかありません。すみません。」


 そう言いながら、十円玉を差し出した。


 善の父である忠重さんは、ごつごつした太い指でそれをつまみ上げ、ピカピカと光る十円玉を細めた目でじっと見つめていた。


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