重兵衛さんの家は
重兵衛さんの家は、他の民家から離れた場所にあり、防風林に隠れるように建っていた。
その家に近づくと、コツコツと規則正しく石を叩く音が聞こえてきた。
間口の広い入り口は開いており、俺たち三人はそっと外から中を覗き込む。
すると音が止み、土間に座り込んでいた中肉中背の初老の男が、入り口に立つ俺たちを見てから、ゆっくりと立ち上がった。
手には槌と鏨を持っている。
足元には、枠に嵌め込まれ、動かぬように留められていた白い石があった。
俺は、この人が重兵衛さんに違いないと確信した。
挨拶を交わすと、重兵衛さんは俺たちを家の中に招き入れ、用件は何かと尋ねる。
俺は籠から、鎌倉で買った彼の作った茶臼を取り出し、手渡した。
そして、この茶臼と同じような形で、もっと大きな穀物を挽ける臼の製作ができるかを尋ねた。
重兵衛さんは、渡された茶臼をその分厚い手に包み込むように持ち、優しく撫でていた。
それはまるで、遠く離れた子供が故郷の家に帰ってきたように、温かい目で迎え入れているようだった。
しばらく、帰ってきた茶臼を眺めていた彼に石臼の作成をお願いすると、「作りたい気持ちはやまやまであるが」と言いながら、材料となる石材を取りに行くのが困難だと話す。
腰を痛めているという彼は、小さな茶臼ならまだしも、大きな臼の材料には、それなりの大きさの石を山から切り出す必要があるという。
俺が「その山はどこか」と尋ねると、重兵衛さんは俺たちを家の外へ連れ出し、北の方角を指さして「あの山だ」と教えてくれた。
それは山というより、緑に覆われた小高い台地のようだった。
そして彼は、小さな石の欠片を俺に手渡しながら、石材を手配できれば作れることを約束してくれた。
渡された欠片は、臼の材料となる石片だった。
そこには白地に黒と灰色が細かく散らされ、きらめいていた。
その後、俺はお願いして、彼の作業を見せてもらった。
土間に据えられた石は、木枠でしっかりと固定されていた。
もうほとんど完成しているのか、丸く削られた石には、中心から八本の溝が放射状に刻まれ、さらにその八本の溝から斜めに六本の溝がそれぞれ刻まれていた。
それは、美しい幾何学模様の「八分画六溝」だった。
重兵衛さんは、その溝に鏨をわずかに斜めに当て、小刻みに槌で叩く。
強くもなく、慌てるでもなく、慎重に叩いて細い線を刻む。
その作業には無駄がなく、長年培ってきた経験がにじみ出ていて、自然体の美しさがあった。
動きのすべてに、目的と意味が宿っていた。
小六も、石ではないけれど木を刻む者として、重兵衛さんの分厚い手に添えられた鏨と、太い節の指に握られた槌の動きを、興味深く見つめていた。
しばらく、静かな中で一定の間隔で響く石を打つ音の軽快さが、心地よかった。
重兵衛さんが一筋の刻みを終えたところで手を止め、俺たちに目を向ける。
引き込まれるように見ていた俺たちに、照れたような笑みを浮かべていた。
それを潮にして、静かな落ち着きを崩さぬよう、俺は「また伺います」と小さく告げて、家を出た。
子供たちの姿は、もうどこにもなかった。