姥様が膳を整えている時
姥様が膳を整えていると、寄り合いの堂に男が戻ってきた。
しじみ汁、焼いた魚。
村にできる、わずかなもてなしである。
刻んだ塩漬けの青菜が膳に載る。
男は重たげに籠を床へ下ろし、中から大皿に盛った飯を取り出した。
連れの若者は何の衒いもなく、自ら椀によそい、食べ始めた。
飯はまだ、ほのかな温もりを保っていた。
稚児も少女も驚く様子はなく、行儀よく男が膳の前に座るのを待っていた。
座っていた私は、すぐに立てる自信がなかった。
腰が抜けるほどに驚き、恐怖に似た畏れにとらわれ、籠から目を離せなかった。
姥様の口から経がこぼれた。
男と稚児、そして少女も食事を始めた。
しかし、すぐに男の箸が止まり、視線が一点に凝った。
椀の中で、しじみの殻がカサリと鳴る。
何事かと思い、私はその視線の先を追った。
板戸の隙から、村の子供たちがこちらを覗いている。
見つめる黒い目、ひくつく鼻、咥えた指。
無言のまま「食わせろ、食わせろ」の気配が迫る。
胸の奥を鷲づかみにされた。
立てぬと思っていた足が、勝手に動いた。
思わず、子供たちを追い払ってしまった。
村の乙名としての矜持。
満足に食べさせられぬすまなさと悔しさが、胸の底を鋭く刺した。
男の前に座り、羞恥にまみれながら頭を下げた。
心の置きどころもなく、握りしめた拳がわずかに震えた。
男の目に憐憫が宿り、そのまなざしが私をいっそう追い込んだ。
小さくなった私の前に、麻袋がそっと置かれた。
男の目に促されるまま、固く縛られた麻袋の口紐を恐る恐る解く。
ざらりと擦れ合う音と、糠の匂い。
中には、米が詰まっていた。
「お世話になっていますので、これ、よければ食べてください」と、男は遠慮気味に言葉を添えた。
畏れが、胸の奥で畏敬へと転じた。
稚児は慈悲深き眼差しで私を包んだ。
ただ、何が起こっているのか、どうすべきか分からず、言葉を失った。
耳に入ってくるのは、横に座る姥様の「南無」の声と、遠くからの蛙の声。
二つの声は一つの音となり、私の胸奥を鼓のように打ち続け、どこまでも澄みわたり、透き通るように響く。




