眼下には、俺たちを
眼下には、俺たちを探し回る武士の焦りの色が、次第に濃くなっていく。
小声で話していた彼らの声も、やがて怒鳴り声へと変わっていた。
俺たちは、そんな彼らから逃げるように舟を出発させる。
自動運行に切り替えると、舟はゆっくりと動き出し、座標を設定した目的地の一つ、清澄寺を目指して速度を増していく。
無事に動き出した舟に安心した俺は、ハンドルから手を放し、操縦席にもたれかかった。
善が少し不安げに尋ねる。
「手放しで大丈夫なのか」
俺はシートにもたれたまま答える。
「自動運行にしているから、大丈夫だ」
「自動運行?」
善は、それが理解できないようだった。
説明のため操縦室を出て部屋へ向かい、蝋燭の完成品を一本手に取る。
再び操縦室へ戻り、善の前に蝋燭を掲げながら語り始める。
「仮に俺が清澄寺に蝋燭を立てて灯をともすとする、舟はその明かりを目印にそこを目指す。本当は、ここから稲田郷まで直接行ければ、おそらく距離的には近い。だが、稲田郷にはその蝋燭が立てられていない。だから遠回りになるが、一度清澄寺を経由して、稲田の草庵を目指す。清澄寺から先は、おまえが描いた絵図が頼りだ」
善は蝋燭を見つめながら、すぐに理解を示した。
「つまり、無明の世界で、この舟は明かりを見つけることができる。一直線にそこを目指せるわけか」
俺は黙って頷き、蝋燭を手渡す。
善は、明かりの灯らない蝋燭を見つめながらつぶやいた。
「無明の明かり。その先は、俺が明かりか」
その言葉に、操縦席から前面に広がる窓の景色を眺めながら答える。
「大きく出たな、善。まあ、そんなところだ」
操縦室の後ろの方では、小六と花里が疲れのせいか床に座り、二人寄りかかって安心したように眠っている。
「無明の世界に、俺が日の光」
いつの間にか、蝋燭の小さな明かりが日光に変わっている。
善はその言葉を繰り返し呟く。
どうやら気に入ったようだ。
俺は振り返り、気軽に言った。
「ああ、そうだ。後は頼んだぞ、善」
そこには、灯らない蝋燭を窓から差し込む日光に掲げる善の姿があった。
蝋燭の先に太陽を重ねるように掲げる。
まばゆい光に目を細める善。
「いつかは本当の灯を灯す」
俺から見る善は、その光に照らされている。
舟は風の音を切りながら、三浦半島を越えていく。




