一定の温度に保たれた操縦室
一定の温度に保たれた操縦室。
床に寝ていた俺は善に起こされた。
外はまだ薄暗い。
「史郎、まずは飯を食え」と言いながら、弁当と水筒を手渡された。
食べながら、彼に一つの質問をした。
「なあ善、これのことをおまえはうつろ舟と呼んでいたが、他にも舟があるのか?」
彼の話によれば、このあたりには「虚舟伝説」が語り継がれているという。
大昔、やはり海辺に舟が漂着し、中から奇妙な服装の人が現れたという。
しかし、その姿は人かどうか疑わしかった。
何でも髪は赤く、眼は灰色、毛むくじゃらで言葉が通じなかったという。
これは角を失った鬼ではないかと村人は恐れ、簀巻きにして舟に押し込め、海へ流したそうだ。
「この舟の形は俺の聞いた話どおりだ。おまえも奇妙な服を着ていた。これは間違いなくうつろ舟だ。さあ、早く舟を調べよう」
急かされるように食事を終えて操縦席に着いた。
右側のドームに手を置くと、立体ホログラムが操作方法を示してくれた。
英語で表示されているため、操作方法は善には理解できない。
まず初めに、夜明け前で洞窟内は暗いので、船体を光らせてみることにした。
最初は小さく、徐々に大きく輝かせた。
大きくすると、目を開けていられないほどまぶしかった。
次に「Transformation Optics」をよく分からないが試してみる。
舟が微振動したようだが、特に変わった様子はない。
善に船外へ出て確認してもらう。
驚いた様子で、すぐに戻ってきた。
開いた出入口から内部が見えるだけで、舟自体が全く見えないという。
俺も善も、だんだん楽しくなってきた。
今度は左側のドームに手を置いた。
アームの操作方法が示された。
早速、作動させると舟の上から八本の爪を持つ巨大な多関節ロボットアームが出現した。
そのサイズを考慮すると、舟に収納できるスペースがあるとは到底思えない。
それは工事現場で見る重機のようでもあり、黄色く塗装されていた。
操作してみると、それは生き物のように自在に動かすことができた。
八本の爪もまるで指のようにしなやかな動きができる。
手のひらに相当する部分には赤い灯が点灯している。
おそらく「暗黒放射砲」と直訳されるものを試してみることにした。
出力を最小に設定し、アームを洞窟の壁に向けて撃ってみた。
赤い灯に光の粒子が集まりだし、赤い光の球体が空気を震わせながら発射された。
暗黒物質(dark matter)とは、私たちが目にする光や、質量を持つ通常の物質とは異なり、直接観測はできません。そして正体は未解明のままです。
暗黒放射(Dark radiation)とは、その暗黒物質の相互作用によって生じると考えられている仮説上の放射です。




