今朝の空は、どんよりとした鼠色
今朝の空は、どんよりとした鼠色の雲が、空いっぱいに広がっていた。
朝粥の給仕を終え、妙心さんが庵を出て行った後、小六は待っていたかのように籠から味噌団子を取り出し、「史郎、今日はどうするつもりなんだ?」と、むしゃむしゃ食べながら尋ねてきた。
空は淀んでいる。
それでも、俺の気持ちは晴れやかだ。
今日は、ついに鎌倉の大仏を見に行く予定である。
以前、トオルと訪れたときに持って行ったガイドブックには、「大異山高徳院清浄泉寺」という寺の名前と、周辺の地図が描かれていた。
その長ったらしい寺名と、場所の記憶は鮮明だった。
今朝、妙心さんにその寺の名前を尋ねると、「それは清浄泉寺のことでしょうか?」と、首をかしげた。
記憶にあるガイドブックに記された寺名とは、完全に同じではないが、名前の一部が同じなので、おそらくその寺なのだろう。
歴史の変遷の中で、名前が変わったのかもしれない。
妙心さんに所在地をたずねると、今大路を南へ道なりに進み、坂を登れば清浄泉寺だと教わった。
記憶にある地図とも、方角も場所もおおよそ一致している。
さらに詳しく話を聞くと、その寺の縁起によると、清浄泉寺は聖武天皇の勅願により、菩薩と称えられた行基が開基した寺であるという。
ますます期待が膨らむ。
緑青に染まった古い大仏ではなく、金色に輝く大仏を目にできるかもしれない。
俺が大仏を見に寺へ行くつもりだと告げると、小六は「寺よりも、昨日訪れた賑わいのある町中へ行きたい」と言い、花里も一緒に行くという。
そうして、俺は今日、ひとりで行動することになった。
俺は小六に、花里から目を離さず、十分に注意するよう言いつけて、二人を送り出す。
小六は胸を一つ叩いて元気に出かけて行き、俺も後から出発した。
高鳴る気持ちを抑えつつ、通りをどんどんと歩く。
自然と足取りは早くなる。
途中、何度か人に道を確認しながら進んでいく。
息を切らしながら坂を上り、目的の寺の門前にようやく到着した。




