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目の前に朱色の鳥居

 目の前に朱色の鳥居が近づいてくる。


 ゆっくり散策するつもりだったのに、自然と足が早まっていた。


 その鳥居が立つのは若宮大路。


 参道の奥には、もう一つ鳥居が見えている。


 通りの両側には石灯籠がずらりと並び、その間を、刀を腰に差した武士たちが胸を張って颯爽と行き交っていた。


 カメラがあれば、旅の思い出として一枚撮っておきたい光景だ。


 せっかく三人でここまで来たというのに、小六や花里の姿を写真に残せないのが、なんとも残念でならない。


 そんな若宮大路を通り抜け、目的地である小町大路へと辿り着く。


 こちらの通りは若宮大路とは違い、雑多な雰囲気に包まれていた。


 武士をはじめ、商人や町人、老若男女が物の売り買いに励み、慌ただしく働く様子が見受けられる。


 俺たち三人は、物珍しげに辺りを見回しながら、通りを南から北へと歩いていく。


 やがて、板に「茶」と書かれた文字が掲げられた、店構えの立派な茶舗を見つける。


 俺たちは紺色の暖簾をくぐり、中へ入った。


 質素な店内には、ほのかに茶の香りが漂い、違い棚には、茶臼などの茶道具が丁寧に飾られていた。


 愛想のよい店番の男が近寄ってきたので、賢光さんがしたためた書状を差し出す。


 男は藤吉ふじよしと名乗り、さらに顔をほころばせながら、賢光さんや妙心さんとは顔なじみだと教えてくれた。


 寿福寺は幕府との関係が深く、幕府の御家人と呼ばれる武士たちは、茶を介してこの店の顧客となっている。


 そのことで、寿福寺の僧たちとも自然なつながりが生まれたのだろう。


 俺は早速、棚に飾られた白い茶臼を見せてほしいと藤吉さんに頼んだ。


 それはいくつか並ぶ茶臼の中でも、ひときわ美しく、どこか品があったからだ。


 彼は茶臼を手に取り、台の上にそっと置くと、「これは名人の手によるもので、お勧めの商品です」と紹介してくれた。


 それから、彼は上石を慎重に外し、中の構造を見せてくれた。


 そこには繊細に彫られた美しい幾何学模様、「八分画六溝はちぶがろっこう」が刻まれていた。


 だが、今回の買い物の目的は茶臼ではなく、穀物を挽く石臼である。


 この白い茶臼のように、精緻な仕上がりの石臼があれば、どれほど細かく小麦粉や米粉が挽けるだろうか。


 俺は藤吉さんに、そのような石臼があるかを尋ねた。


 しかし藤吉さんからは思うような答えは得られず、そうした石臼は鎌倉中を探しても見つからないだろうとのことだった。


 残念そうな表情を浮かべる俺に、藤吉さんは言った。


 「もし名人に頼めば、特別に仕立ててくれるかもしれません。」


 ただし、その名人はすでに鎌倉には住んでおらず、故郷に戻って茶臼を作り、不定期にこの店へ送ってきているのだという。


 聞けば、その名人は重兵衛という名で、安房国の北に位置する常陸国ひたちのくに稲田郷に暮らしているのだという。


 藤吉さんはそう話すと一度店の奥へ入り、重兵衛さんから届いた手紙を持ってきて見せてくれた。


 そこには、重兵衛さんが稲田の草庵と呼ばれる寺の近くに住んでいることが記されていた。






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