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俺はゆっくりと書状を

 俺はゆっくりと書状を開き、妙心さんに差し出しながら、中の見学を改めてお願いした。

 

 妙心さんはその書状に目を通すや否や、「しばらくここでお待ちください」と俺たちに告げ、書状を返すと、どこか慌ただしげな様子で門の奥へと姿を消した。


 それほど待たされることもなく、妙心さんは角張った体つきの僧を伴って戻ってきた。


 優しげな雰囲気の妙心さんとは対照的に、その僧にはどこか野性味が漂っていた。


 僧は俺の前に立つと「賢光けんこう」と名乗り、「あなたが国重史郎殿ですか」と尋ねた。


 俺は少しもったいをつけて「応」と答えると、書状をもう一度見せてほしいと丁寧に求められた。


 今度は、俺は木箱から書状を取り出さず、箱ごとおもむろに隣の善に差し出した。


 すると勘の良い善は俺の意図を察したらしく、芝居がかったように「はは」とうやうやしく箱を受け取ると、そのまま頭を下げ、捧げ持って賢光さんに両手で手渡した。


 賢光さんは緊張した面持ちで箱の蓋を開け、壊れ物を扱うように書状を慎重に取り出し、その文面に目を走らせた。


 読み終えた賢光さんは、「この書状にある人物は、特別な銅銭を所持するとありますが、それをお持ちですか」と尋ねた。


 俺は無言で頷き、首から下げた財布からゆったりと十円玉を取り出して、善に手渡そうとした。


 すると善はまるで恐れ多いというように手を合わせ、片膝立ちで両手を添えて受け取った。


 俺は善の大げさな演技に吹き出しそうになるのをこらえて顔を歪める。


 それがまた、歌舞伎の見得を切るような仕草となり、虚と実の不思議な雰囲気を醸し出していた。


 小六と花里は、何が始まったのかも分からず、舞台の観客のようにただ見ている。


 賢光さんが善から十円玉を両手で受け取ると、妙心さんと顔を寄せ合い、じっとそれを見つめていた。


 磨かれた十円玉は、日の明かりの下、得も言えぬ光を放つ。


 いつしか十円玉に見とれていた賢光さんは、はたと我に返り、俺に十円玉を返して手を合わせ一言、「眼福です」と礼を言った。


 善は得意顔でニヤリと笑い、俺に目で合図を送る。


 しかし観客である小六と花里は、いまだ終幕に気づいていない。


 どうやら俺たちは門の中に案内してもらえるようだ。


 重々しい石畳が軽やかな花道に変わっていく。


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