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対岸に陸地が見え

 対岸に陸地が見え、舟は海岸へ近づいていった。


 俺は、その海岸線を右手に見ながら舟を進める。


 波間に陽が差し、舟が立てる波しぶきがキラキラと光っていた。


 途中、大きな島があったが、地理に詳しくない俺にはその島の名はわからない。


 さらに進むと、帆を下ろした大小の船が停泊し、数多くの人が行き交う街並みが見えてきた。


 おそらく、そこが鎌倉の町なのだろう。


 早朝に家を出発し、何の障りもなく、昼頃には到着した。


 海から眺めると、鎌倉の町は複雑に入り組んだ地形にあり、緑の山々に囲まれていて、舟を隠す場所には困ることはなさそうだ。


 舟をその地に着けたのち、上空へと昇って様子を確かめる。


 遠くに、春霞の中にうっすらと浮かぶ富士の稜線が見えた。


 目を落とすと、山と森に囲まれた大きな寺らしき建物が見え、民家もちらほらと見える。


 俺はその建物群から少し離れた、ひっそりとした森の中に舟を降ろした。


 それから俺は今回、売るために持ってきた品々を背負子の籠に詰めた。


 麻袋に小分けにした干し椎茸、壺に入った蜂蜜、それに少量の蜜蝋のローソクである。


 そして、有時さんと義尚さんの連名で書かれた身分保証の書状が入った木箱を持ち、いよいよ出発した。


 迷彩モードにした舟から、四人揃って外に出た。


 「史郎、まずは上から見た大きな寺を訪ねてみよう。俺の読んだことのない書物があるはずだ」


 善はそう言うと、俺たち三人の先頭に立って早足で歩き始めた。


 俺たちも慌ててそのあとを追った。




 寺の山門は、清澄寺に比べて格段に大きかった。


 門をくぐると、道の中央には不規則な形をした石が敷き詰められ、その両側には長方形の石が縁取るように整然と並べられ、石畳は細く奥へと続いていた。


 落ち着いた佇まいの石畳の上を、善は臆することなく、どんどん奥へと歩を進める。


 やがてもう一つの門が現れ、その前には一人の若い僧が立っていた。


 善はその僧に、安房国の清澄寺から来たと自己紹介し、書庫にある経典や書物を読ませてほしいと交渉を始めた。


 いきなりの話に、僧は面食らった様子だったが、彼は善にこの寺のことを知っているかと尋ねた。


 善は知らないと答え、俺たち三人もただ、首を傾げるばかりだった。


 少し呆れた様子の僧だったが、彼は妙心みょうしんと名乗り、俺たちに諭すように、やさしく話し始めた。


 彼によれば、ここは寿福寺といい、源頼朝の正妻だった北条政子により開基され、天台密教葉上流の流祖にして南宋に留学し、日本における臨済宗の宗祖でもある明菴栄西みょうあんえいさいにより開山された由緒正しき寺であるという。


 そして、北条政子の墓もここにあり、菩提を弔っているのだという。


 つまり、妙心さんの返答は丁寧に断るものであった。


 それは当然だろう。


 いきなり、坊主頭の善に加え、怪しげな風体の俺、それに小六と花里も連れ立って現れ、「中を見せろ」と願い出たのだから、断るのも無理はない。


 むしろ、やさしく説明してくれる妙心さんは、心根の優しい僧である。


 そんな心の広い妙心さんに、俺は手に持っていた木箱を開け、そっと書状を取り出した。



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