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日が昇り始め

 日が昇り始め、鈍い銀色の船体はその光に照らされる。


 清澄寺から少し離れた林間に舟を停め、俺は寺の門前へ善を迎えに向かった。


 すでに善は門前に立ち、今か今かと俺を待っていた。


 「よう、善」「やあ、史郎」拳を合わせた。


 善は目を輝かせながら、今回の小旅行を楽しみにしている。


 俺は善とともに舟に乗り込み、操縦席に腰を下ろした。


 善はその後ろに立ち、さらにその背後には少し不安げな小六と花里が控えている。


 「史郎、どうやって鎌倉へ行くんだ?」善が尋ねる。


 「まずは、ここから房総半島を西に横断して海に出る。それからさらに西へ進み、三浦半島が見えたら、海岸線に沿って進んで鎌倉に上陸する。まあ、きっと大丈夫だろう」


 俺は曖昧な関東地図を思い出しながら答えた。


 舟を迷彩モードに設定し、ゆっくりと浮かび上がらせた。


 山を越え、川を越え、ときには民家や水田の上空を、風を切る音だけを残しながら進む。


 小六や花里は、どんどん移り変わる景色に目を丸くしている。


 善はそんなふたりの様子に構わず、心から楽しそうに景色を眺めていた。


 俺も初めての遠出に、気分が高揚している。


 やっぱり、こういうときには口ずさみたくなる歌がある。


 ♪丘を越え 行こうよ 口笛 吹きつつ

  空は澄み 青空 牧場を さして


 その歌を教えて、緊張している小六と花里の気持ちをほぐそうとした。


 ♪ララララ アヒルさん ガーガー

  ララララララ ヤギさんも メーメー


 繰り返し歌っているうちに、ふたりの表情がやわらいでいく。


 ♪ララララ アヒルさん


 小六が鳴き声をまねて「ガーガー」


 ♪ララララララ ヤギさんも


 今度は花里が、かわいらしい声で「メーメー」


 俺たちはすっかりピクニック気分だ。


 「ところで、史郎。アヒルとかヤギって、どんな生き物なんだ?」と善が尋ねる。


 もしかすると、この時代には家鴨や山羊が存在しないのかもしれない。


 俺は、あえて深く考えないことにした。


 やがて、舟は東京湾口に入ると海に着水し、今度は船として海面を滑り出した。


 あとは対岸に陸が見えてきたら、海岸線沿いに進むだけだ。


 俺は善に鎌倉で何をしたいのか尋ねた。


 すると「まずは清澄寺にはない経典や書物を読みたい。どこか大きな寺の書庫を訪れたい」と言う。


 善の目がキラキラと輝いている。


 観光気分で大仏を見たいという俺とはだいぶ違うようだ。

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