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額の汗を麻布で拭い

 額の汗を麻布で拭い、竹筒の水で喉を潤す。


 俺は、昼から小六とふたりで、山の中に蜂の巣箱を設置する作業に汗を流している。


 今年設置する巣箱の内側には蜜蝋が塗られており、昨年よりも蜂の捕獲率が向上するのは間違いない。


 背負子しょいこに巣箱を載せ、両手にさまざまな道具を持って山を渡り歩く。


 あらかじめ、小六が設置場所を下見して決めてくれていたおかげで、作業は順調に進んでいく。


 やがて、十カ所目の設置が終わる頃には、日が傾きかけていた。


 俺と小六は、帰路につく前に木陰で腰を下ろし、しばしの休息をとる。


 そうして、いざ帰ろうとすると、小六が俺を呼び止める。


 何かを話そうとするが、なかなか言い出せず、様子がおかしい。


 「史郎、実はおまえに聞いてもらいたいことがあるんだが……」


 いつもははっきりとした物言いをする彼が、なぜか言い淀んでいる。


 「何だ、小六、おまえらしくないな。はっきりしなよ」


 促すと、小六は少し頬を赤らめながら言った。


 「その、なんだ、歌を作ってみたんだが、聞いてもらえるかな」


 「なんだ、そんなことか、小六。歌ってみろ」俺は気軽に応じた。


 だが、彼はもじもじとして、なかなか歌い出さない。


 焦れた俺は、「小六、男らしくないな。早く歌えよ」と促した。


 どうやら、小六は意を決したようで、大きく息を吸い込んだ。


 風向きのせいか、遠くの寺から鐘の音がひとつ、しんと長く尾を引いた。


 

 ♪すきすきすきすき すき すき 愛してる

  すきすきすきすき すき すき 花里さん


 ♪ 黒髪あざやかだよ 一級品

  からだは 満点だよ 一級品

  いたずらしたいよ 一級品

  だけど勇気は からっきしだよ 小六さん


 ♪ あぁー ふぅー 情欲だー

  カチコチ ハアハア

  カチコチ ハアハア

  気にしない 気にしない

  気にしない 気にしない


 ♪ 欲望ふかく 果てしなく

  わからんチンども とっちめチン

  カチコチ ハアハア 小六さん


 

 俺は、一体何を聞かされているのだろう。


 そして、何を見せられているのだろう。


 小六の三白眼は血走り、宙を彷徨うように泳いでいる。


 全身から立ちのぼる邪な気は、ほむらのように燃え上がり、小六は仁王立ちで歌い続けている。


 世が世なら通報レベル。


 いや、村の治安を守る新右衛門さんに報告すべき案件である。


 呆然とまっ白になった俺に構わず、さらに歌い続けようとする小六。


 俺は何とか、自分自身を取り戻し、彼の歌声にねじ込むように割って入った。


 「小六よ、それは、ただの替え歌じゃないか!」




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