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明日の棟上げ

 明日の棟上げ、上棟式に向けて準備をする。


 もっとも、俺がパンを焼いて、それをみんなに配るだけだ。


 特別、何かの行事を行うわけではない。


 これで、善と交わした「美味しいパンを食べさせる」という約束も果たせる。


 今回は中種法でパン生地を作る。


 酵母液を使って起こしたパン種に、小麦粉、牛乳、卵、蜂蜜を加えてこねていく。


 高校時代、搾りたての牛乳は熱処理をしないとお腹を壊すと、酪農家の同級生が言っていた。


 だがその同級生は、未処理の牛乳を飲んでも平気だと自慢していた。


 今回は生地に混ぜて焼くので、問題はないだろう。


 蜂蜜をたっぷり練り込んだせいで、生地をまとめるのに少し苦労した。


 一次発酵、二次発酵を経て、小さく丸めた生地をダッチオーブンの中に丁寧に並べる。


 そして、家の外の焚火で、ゆっくりと焼き上げていく。


 この工程を三度繰り返し、建築現場の人たちに十分に行き渡る量のパンが焼き上がった。


 ひとつ、味見に食べてみる。


 しっとりとした舌触りと蜂蜜の香り、仄かな甘みが口の中に広がる。


 コンビニの菓子パンに慣れていた俺には、少し物足りなさもある。


 それでも、この素朴で飾らない味には、どこか素直に落ち着くような安心感があった。


 

 コンビニで買った、クリームパン、アンパン、メロンパン。


 明るい店内、LED照明の下、透明なプラスチックに包装され、陳列ケースに並んでいる。


 遠い未来に、俺が生きた時代の懐かしい味。


 俺がダッチオーブンで焼いた蜂蜜パン。


 うす暗い家の中、木の皿に盛られて、覆い布が掛けてある。


 遠い過去の、俺が生きるこの時代の未知の味。



 明日、初めてパンを食べる人たちは、どんな気持ちになるのだろう。


 喜んでもらえれば、ただ嬉しい。


 未来を生きた俺の記憶と、過去に生きる俺の記憶が、交互に現れては交錯していく。

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