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新右衛門さんの監督のもと

 新右衛門さんの監督のもと、建築工事が開始された。


 棟梁である又左さんの、厳しくもよく通る声により、各所で工事は順調に進んでいる。


 建物の建つ場所では、職人たちが杵や突き固め用の器具を使い、幾重にも分けて土層を叩き固めている。


 そばでは、大工たちが斧や鋸を用い、野積みにされた材木から柱材を削り出していた。


 総勢二十名ほどの職人たちが、忙しく立ち働いている。


 棟梁の又左さんによれば、この現場以外にも、港通りにある作業所で細かい支柱や梁が製材され、屋根に使われる柿葺こけらぶきの板材も、そこで製作されているという。


 まず最初に完成するのは、俺がお願いした舟用の倉庫だ。


 この建物については、彼らには先祖を祀るためのものだと説明してある。


 突き固めた土台に柱を立て、外壁を板張りで仕上げるため、比較的早く完成するとのことだった。


 二、三日のうちには、そこに礎石そせきを据え、柱を立てて梁を渡す作業が始まるという。


 同じく、少し離れた場所に建てられるかわやも板張り造りのため、早期の完成が予定されている。


 一方で、主屋や離れ、そして台所にあたるくりやは土の外壁になるため、壁塗りの作業は梅雨明けに行われる運びとなる。


 そうした説明を又左さんから受けていると、善が壺を抱えて様子を見にやって来た。


 「よう、史郎」


 「やあ、善。その抱えてる壺は何だい?」


 善は悪戯っぽい目をしながら壺の蓋を外し、中を覗かせて見せた。


 「史郎、これでパンを作ってくれ。食べるのは俺が一番だぞ」


 そこには、以前に頼んでおいた牛乳が入っていた。


 俺は昔、アメリカへ渡る前の幼い頃に、母と一緒に、どこかの家の餅まきに参加した記憶がある。


 まだ柱と梁だけが組まれた建物の上から、紅白の餅が撒かれ、人々がそれを拾い集めていた。


 皆と一緒になって餅を手にした、遠い記憶だ。


 その思い出を再現したくなった俺は、今回は餅の代わりにこの牛乳を使ってパンを焼き、皆に配ろうと思った。


 そんなことを考えながら、俺は善に言った。


 「善、パンにはたっぷりの蜂蜜を入れて、甘いパンを焼くから、楽しみにしておいてくれ」


 その横で聞いていた又左さんは、「甘いもの」という言葉に反応し、眉間の皺が緩んでいた。



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