「おい、史郎! 返事をしろ!」
「おい、史郎! 返事をしろ!」善に肩を揺さぶられて、我に返った。
放心状態のまま何もできない俺を見て、善が先に行動を起こした。
「まずはおまえの着るものと食べ物を持ってくる。それから、おまえはあの洞窟に舟を隠しておけ。」
善によれば、ここは小高い磯に囲まれた小さな砂浜で、干潮の際に岬を回って来ることができる場所らしい。
めったに人が訪れることはないうえ、隠れ家として利用できる洞窟もあるため、善にとって絶好の遊び場となっているようだ。
「ああ、分かった。すまないが頼む。」そう返事をしたものの、その後のことはよく覚えていない。
舟を洞窟に移動させ、操縦席でそのまま気を失うように眠り込んでしまった。
目が覚めたのは夕方。善に起こされてやっと意識を取り戻した。
「史郎、おまえには少し小さいが、父の小袖と袴を持ってきた。これを着ろ」
善がそう言いながら差し出してきた。
ずっとウェットスーツだった俺は、ありがたく受け取った。
すぐに着替えようとしたが、着付けがよく分からない。
善に手伝ってもらいながらなんとか着ることができた。
その後、竹皮に包まれた玄米のおにぎりを食べた。
味噌と海苔が入っており、竹筒の水を飲むとようやく落ち着いた。
その間、善は黙って俺の様子を見守っていた。
じっと見ている善へ俺はいくつかの質問を始めた。
「まず、ここはどこなんだ?」
「安房の国だよ。岬の向こうには俺の住んでいる小湊村がある。」善はそう答えた。
「善、俺は貞永元年がいつか分からないんだ。何か手がかりになることを教えてくれないか。」
俺が尋ねると、彼は少し考えて答えた。
「そうだな、二年前には大飢饉があって、たくさんの人が亡くなった。その結果、幕府は悲しいことに人身売買を解禁したんだ。」
「その幕府の一番偉い人は誰なんだい?」
続けて問いかける俺に、善は少し驚いた様子で言った。
「それは鎌倉に幕府を開いた源頼朝様に決まっているじゃないか。今は執権の北条泰時様かな。」
その言葉を聞いて記憶を遡る。
高校受験の際に覚えた歴史の知識がよみがえる。
---イイクニ(1192)作ろう鎌倉幕府---
到達した答えに思わず笑いが込み上げてきた。
無意識に漏れる笑い声が止まらず、涙がこぼれた。
---父さん、こんなことになるなんて、気を付けようがないよ。---
善をよそに、俺の笑いは止まらない。
そして、涙も止まらない。
---ジャック、サム。おまえたちの好きな冒険の始まりだ!---
善は心配そうに俺をじっと見つめていた。




