「家を建てませんか?」
「家を建てませんか?」それは突然の提案だった。
しかし、それは仁右衛門さんにとって、どうやら前々から考えていたことのようだ。
彼は俺の出自を誤解しており、俺が住んでいる一間しかない粗末な家で、今では四人で暮らしていると人づてに聞いて、密かに心を痛めていたらしい。
仁右衛門さんは、建築費用については、自分が貸し付けても構わないと申し出てくれた。
俺が舟で快適に寝起きしていることを知らない仁右衛門さんの、心からの優しい言葉だった。
考えてみれば、小六たち三人は、あの板張りの家で暮らしている。
それを思うと、急に彼らが不憫に思え、俺は仁右衛門さんに手をつき、「よろしくお願いします」と頭を下げた。
それを聞いた仁右衛門さんは、俺に頭を上げるよう促し、にっこりと笑った。
俺はその笑顔に、「一生懸命働いて、できるだけ早く借金は返します」と、柄にもないことを言った。
その言葉に、「なあに、返せないときは、山を担保にいただこうと思っています」と、冗談とも本気とも言えないことを言う。
俺はまるで住宅ローンを抱えた父親の気分だ。
あとは、今後の打ち合わせだった。
すぐにでも始めたいという仁右衛門さんに、俺は椎茸の栽培のことをあまり人に知られたくなかったため、その収穫後、四月の終わりごろから始めるようお願いした。
それに快く応じてくれた仁右衛門さんは、実際の工事はその頃から始めるとして、その前に宮大工に手配をさせたいので、近々、家へ挨拶に向かわせるとのことだった。
のんびり過ごしてきた俺に、急に大きな責任が重くのしかかるような気がした。
それと同時に、あの三人がどんな顔をするのかも楽しみになってきた。
俺はそんなことで頭がいっぱいになり、仁右衛門さんに見送られた後も、ぼんやりしたまま舟で家に帰った。
舟から降りると、花里が莚に広げた椎茸を集めて籠に納めている。
明日も同じように広げて乾燥させる予定だ。
彼女に二人の居場所を尋ねると、小六は家にいて、真之介は林へ入り、ほだ木の様子や椎茸の成長具合を見に行っているらしい。
俺はみんなに話があるので、花里に真之介を家へ戻るよう頼み、俺は家の中へ入った。
そこには、干し椎茸が入った籠を抱えた小六がいた。
相変わらず、三白眼の悪党じみた顔をして、椎茸を見ながら口元を歪ませて笑っていた。




