夜明け前、月明かりのおかげで
誠に申し訳ございません。連載中の作品を誤って全削除してしまいました。現在、復旧作業を進めております。せっかく評価していただいた方々には、改めてポイントをお願いできれば感謝申し上げます。
夜明け前、月明かりのおかげで房総の海は暗闇から救われている。
俺は海に一人プカプカと浮いている。正確には、昇る前の太陽に向かって、サーフボードに乗り、波を待っていた。
なぜこんな状況になっているのかと問われれば、それは高校三年生の時、サーフィンを始めようとしつこく誘われたのがきっかけだ。
帰国子女としてアメリカから日本へ戻ってきた俺の数少ない友人、いや、唯一の友人からの懇願だったからである。
「帰国子女」という言葉の響きは良いが、住んでいたのはニューヨークでもなく、サンフランシスコでもない。
オレゴン州の片田舎の港町だ。
そこはアジア人が少なく、日本人に至ってはほとんどいない土地だった。
知り合った日本人と言えば、学校のボランティア活動で訪れた介護施設の藤さんくらいである。
その藤さんは戦争花嫁として沖縄から渡米し、それ以来一度も帰国したことがないという。
使う機会のなかった日本語は怪しくなり、方言交じりでほとんど会話が成り立たなかった。
それでも百歳近い藤さんにとっては久しぶりの同胞であった。
彼女は俺の手を握りしめ、涙ながらに何かを一生懸命に語りかけていた。
その光景を見ていたクラスメートは、次の日から俺を「大王」と呼ぶようになった。
どうやら日本のアニメファンであるジャックが、どこからかその言葉を引っ張り出してきたらしい。
英語が母国語でない俺、「Nerd」と呼ばれていたオタクのジャック、そしてインドから養子として引き取られていたサム。
白人が多いこの地域で、俺たちはクラスの中でも浮いた存在だった。
だからこそ、俺たちは友情を築くことができたのかもしれない。
だが、そんな俺に突然、帰国の知らせがやってきた。