第110話 香織のためなら…
香織が退院した。
退院までも毎日上村隼人は香織に会いに来ていたようだった。
香織が退院する前に年が越してしまった。
まあそんなことはおいといて…
香織は退院してうちに帰ってきた。
俺はうちを見て香織の記憶がもどってくれないかと願い続けた。
…が香織の記憶はもどらなかった。
「そういえばお母さんは?」
香織が聞いてくる。
「たしかに帰ってきてねえ…」
飛行機の席が空いてないからと言っていたがさすがにもう帰ってきてもいいだろう…
ピンポーン
うちのインターホンが鳴る。
俺は立ち上がり玄関に行きドアを開ける。
「お兄ちゃん!!」
「ぐふっ!!」
いきなりなにかが飛びついてくる。
「あけましておめでとうです!」
「お…おめでとう…蘭」
「「ただいま~」」
「やっと帰ってきたか…」
蘭のあとに父さんたちが入ってくる。
「香織が記憶喪失なんだって?」
「ああ」
「どれ、本当かどうか見てくる」
そう言って父さんたちはリビングに行く。
しばらくして父さんたちが泣きながらでてくる。
「本当に忘れてました…」
「記憶喪失なめてました…」
なんなんだこの2人…
「香織お姉ちゃん!」
「わっ!」
蘭が香織に飛びつく。
「香織お姉ちゃん久しぶりです!」
「えっと…」
「蘭だよ香織。俺の従妹。香織は蘭と買い物にも行ったんだ」
「そうなんだ」
「本当に忘れちゃったですか?」
「ごめんね…」
「どうやったら思い出せますか!?蘭は悲しいです!また来てねって言ってくれたこともわすれちゃったなんて…うわああああん!!」
蘭は泣き出してしまった。
俺だって悲しいさ…
どうやったら香織の記憶が戻るのか…
それを俺は何度も考えた。
しかしいい案が見つからない。
そして何日か経ち香織が上村隼人とデートしてしまうこととなってしまった。
もしかしたらそのデートで香織はキスをしてしまうかもしれない。
いや、もうしたのかもな…
理沙にはああ言われたけどやっぱり俺は香織が幸せならそれでいいさ…
俺だけが知っている香織の表情、俺と香織が過ごした思い出、そして俺が香織のことを好きだった気持ち。
全てを俺の心の中にしまおう。
それが香織のためとなるなら…
「なんで…だろうな…香織のためで…自分も…それでいいって…思った…のに…なんで涙なんかでてくるんだよ…おかしいじゃねえか…本当に笑えちまうよ…笑えよ竹中悟…涙を止めてみせろよ…香織のためだろ…なんで止まんねえんだよ!!止まれよおおおおお!!」
そう言っても涙は止まらなかった。
逆にもっとでてきた。
俺は部屋にこもった。
そうやって自分を抑えないと香織に抱きついてしまいそうだったから。
そんなのを今の香織は望んでないってわかっているから俺は自分を抑えた。
それが香織のためだと自分に言い聞かせながら…




