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8 神龍様

とうとう俺は登校禁止になった。

襲撃が段々大規模になって警備の手が回らないとの理由。

登校禁止となった俺はのんびり魔法の研究をしようと思っていたが、朝から晩まで侯爵様の屋敷に閉じ込められて貴族教養やダンス、マナーの練習。

どれも学院では辛うじて合格点という苦手科目ばかり、毎日ぐったりしていた。

早く登校禁止が解かれて欲しい。

“どうしたらいい?”

キンちゃんに相談した。

“困ったのう。天馬が会いたいというから、気軽に引き受けたのじゃが”

お前かい!

馬神様騒動の原因はキンちゃんだった。

“神獣は好きだけど、宗教は苦手だよ”

キンちゃんに愚痴を零す。

“う~ん、王都にも神獣を呼ぼうか”

“呼べるの?”

“暇してたら来ると思う”

神獣っていつも暇な訳じゃないんだ。

“聞いてみて”

俺も神獣が見たい。

“王都に神獣が現われればマヤへの攻撃も収まるか?”

“攻撃しているのは唯一神を信じている連中だから多分収まると思う”

“じゃあ声を掛けてみる”



王都上空に巨大なドラゴンが現われた。

王家の守護神はドラゴン。

王都は大騒ぎ。

ドラゴンは王都上空をゆっくり旋回すると王城の背後にある岩山に降り立った。

王城の背後にある岩山の頂上には神座が設けられ、麓には神殿が築かれている。

30mを超える巨大なドラゴンは王都のどこからでも見える。

岩山の麓にある王宮は大混乱。

陛下が王族と共に岩山を登り、龍神神殿の神官達も後についていく。

神龍様の前に陛下が跪き、後ろには王族や神官たちが跪いた。

神龍様が一同をゆっくりと見回す。

「天上では数多の神が仲良く暮らしておる。仲良くいたせ。」

それだけを告げると神龍様は飛び去って行った。

と、王子殿下が教えてくれた。



「神はそれぞれの思いで民に恵みを与えておる。それらは決して相争うものでは無く、神殿同士の争いは神の思いに背くものである。特に神の名を騙って利益を得ようとする神殿ほど他の神殿を悪し様に言うとも聞く。」

宰相が会議を司っている。

「しかしながら、騙りの神殿かどうかを見極めるのは難しいかと。」

「王家の守り神は龍神様、王国内では龍神神殿のみとするのはいかがでしょうか。」

「馬神様も我が王国内であるぞ。」

「騙りであろうとも神殿に仕える神官は治癒魔法によって民を癒している。神殿を無くせば民が混乱する。」

高位貴族や大臣達の議論は延々と続いた。

陛下は1段高い所から黙って議論を聞いている。


「マヤの考えを述べよ。」

宰相が俺の方を見て発言を促した。

突然指名された俺はビックリ仰天。

馬神様と直接話した者として会議に呼ばれていたが発言の機会があるとは思わなかった。

高位高官達の目が一斉に俺を見る。

「・・・、今のままでよろしいかと存じます。」

「何故じゃ?」

「神龍様と馬神様の存在が明らかになった以上、唯一神への信仰は自然に無くなります。陛下のお力で無理になくすべき時では無いと愚考します。」

「うむ。馬丁爵殿に異論の有る者はおるか?」

「流石は馬神様が認めた者。もっともである。」

「良き考えかと。」

「陛下、お言葉を。」

「皆の者、苦労であった。」

良く判らないが会議が終わったらしい。



「あの、何か決まったのですか?」

控室に戻った俺は一緒に出席していた侯爵様に聞いてみた。

「マヤが伯爵待遇になった。」

「伯爵待遇?」

「宰相が陛下の前でマヤを馬丁爵殿と呼んだ。公式の場における敬称は侯爵以上が閣下、伯爵は殿、それ以下は爵位に敬称を付けない。マヤは伯爵相当と皆が了解した。それが会議の結論だ。」

何のことかさっぱり解らない。

登校禁止以来の貴族教育はこの為?

侯爵様の企み?

判らぬ、貴族は難しい。



叙爵と同時に屋敷を下賜され、家臣を雇うことになった。

卒業したら侯爵領で厩舎の仕事をするから放置するつもりだったが、陛下に頂いた屋敷を放置する訳にはいかないと侯爵様に諭されて屋敷の維持に必要な最低人数を雇う事となったのだ。

とりあえず役人の案内で屋敷を見に行った。

陛下に貰った屋敷は王城や公爵屋敷からの距離はあるが貴族街の中程で治安も良いらしい。


役人に乗せられた馬車から見えるのは大きな屋敷ばかり、何となく不安になる。

「はぁ。」

嫌な予感が的中する。

前世の中学校くらいの敷地に石造りの立派な3階建て。周囲は高い塀で囲まれ、小さいが馬場も作られている。

敷地内の草刈りだけでも数人は要りそうだ。

役人から屋敷の維持には家臣が最低で4~5人、使用人が10人程度は必要と説明されたが、そもそも家臣と使用人の違いが判らない。

家臣は終身雇用で嫡男が後を継ぐ。使用人は期限を定めない1代限りの臨時雇用らしい。

困った時の侯爵様。丸投げした結果4人の家臣が決まった。

執事長は男爵家2男のルタカ。熊事件の時に怪我を負いながら最後まで仲間を盾で守った男。

執事がアオバ。商家の3男。同じく、巨大熊に剣で立ち向かった男。

侍女がハグ。服飾工房の2女。熊事件で顔に大怪我をした治癒魔術師。

メイド長がハルナ。食堂の長女。熊事件で矢が尽きてもハグをかばっていた娘。

4人とも魔法学院のクラスメイト。

後継ぎではないので卒業後の就職先を探していたらしい。

俺が学生なので家臣も若い方が良いと侯爵様が学院長と話し合って選んでくれ、4人も喜んで応じたらしい。

他にメイド3人と使用人6人。

人を雇う金など無いと思ったら、領地の無い法衣貴族には年金が出るらしい。

金の事は全く判らないので給与や経費など財政関係はルタカとアオバに丸投げした。

馬の事なら自信があるが、貴族の事などさっぱり分らない。

俺は言われるがまま書類にサインをするだけ。

ルタカとハグに言われた通り動いているだけで毎日が過ぎていった。



休学しているうちに冬の社交シーズンとなっていた。

「アキ様、もっと背筋を伸ばして。」

ハグちゃんに怒られた。

「お、おう。」

今日は侯爵家の大広間を借りて俺の叙爵記念パーティー。

大広間には既に多くの招待客が集まっている。

初めて貴族服を着たが、馬丁のツナギと違ってどうにも着心地が悪い。

侯爵家御用達の服飾工房で仕立てて貰った高級品なのに似合っている気が全くしない。

「マヤ=ミョウコ馬丁爵殿の入場で御座います。」

アオバの声が響き渡る。

騒がしかった広間が鎮まった。

正面の舞台横から舞台に登場すると万雷の拍手。

舞台中央で挨拶。

「馬神様のご意向で爵位を頂くこととなりました。若輩者ですが宜しくお願いします。」

長い挨拶は覚えられない。

舞台下に降りると貴族達が挨拶に寄って来る。

「良く似合っておるぞ。まあ頑張れ。」

侯爵様が笑顔で挨拶に来てくれた。

挨拶は貴族の格が高い順。侯爵様の後ろには既に何人かの貴族が並んでいる。

短く終わった侯爵様とは違い、他の貴族達は殆どが娘の売り込み。

馬丁爵は1代限りの爵位だが、血筋の者を伯爵とする叙任権付きなので俺の子供は伯爵となることが決まっている。

娘を売り込みたい貴族が殺到しているらしい。

知らんがな。


来客たちは知り合い同士が歓談しながらお酒と軽食を楽しんでいる。

挨拶が終わるといよいよ問題のダンス。

最初は何度も練習の相手をしてくれた伯爵夫人。

おばちゃんだし、少し慣れたから何とかなった。

その後は次々とやって来るご令嬢達のお相手。

下手でごめんなさい。

若い女性と手を繋いだことすら無いのに腰に手を回して抱き着くなんて無理。

ガチガチに緊張した俺は何度もお嬢様の足を踏んでしまった。

もう嫌。

こっそりと逃走を図るが直ぐに発覚してダンスの相手。

相手のお嬢様が色々と話しかけてくるが、ステップが気になって話すどころではない。

途中で何度も自分に回復魔法を掛けるが、精神的なダメージはどうしようもない。

侯爵領の厩舎に帰りたい。


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