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6 キンちゃんの活躍?

後期の授業が始まった。

選択実習では薬草学実習を勉強することになった。

従者には選択科目を選ぶ権利は無い。

主が学びたいと選んだ科目を一緒に学ぶ。

だがアタゴ様は俺達の意見も聞いてくれる。

アタゴ様は冒険者実習を提案したが、魔獣も動物。

襲われたなら仕方ないが、わざわざ倒しに行くのは気が進まなかった。

そんな俺の様子を見て、アタゴ様は冒険者実習と同じ森で採取をする薬草学実習にしてくれた。


選択実習は休日前の午後。

1泊2日や2泊3日での実習も出来るような時間割になっている。

薬草学では4人以上の班で活動する。

各班には護衛の冒険者が1名付くが、俺達には護衛が付かない。

何故か冒険者実習を選択したはずの殿下が同じ班だから。

殿下、いつも一緒のお嬢様、アタゴ様、アタゴ様の護衛であるタカオと俺。

5人の班に殿下の護衛が二人、冒険者は不要と判断された。

まあそうなるな。


殿下は冒険者実習に登録したが、お嬢様とアタゴ様が薬草学実習を選んだと知って急遽変更したらしい。変更しなくていいのに。

俺を先頭にタカオ、アタゴ様、お嬢様、殿下、護衛の2人という順で森を進む。

俺は魔力探査と素材探査の2重展開。

脳内マップには魔獣の赤い点と人間の白い点、稀少薬草の黄色の点が広がっている。

目的の薬草があればそれだけ違う色に出来るが、今回は稀少で探索しているのでどれも同じ黄色。白い点は6~7人の塊で森を進んでいる冒険者実習と薬草学実習の班。

ちらほらと見える赤い点は俺達が近づくと逃げるように離れていく。

“キンちゃんのお陰?”

“我の威厳に恐れをなしておる。安心して採取をするが良い”

やっぱり神獣様の御威光だった。


今日は5回目の薬草採取。

素材探査を極稀少にして森の奥に進んでいた。

少し先で8つの白い点が少し大きな赤い点を取り囲んでいる。

大型魔獣の討伐中らしい。

邪魔をしないように避けようとした時、取り囲んでいた二人が逃げ出して陣形が崩れた。

「右前300m8人組、4名逃走、4名交戦中。」

「救助に向かえ。」

アタゴ様がすぐに指示を出した。

右前方に道を急ぐ。

二人が血まみれになって倒れ、男女二人が必死に防戦している。

4人の前には3mを超える巨大なグレートベアー。

“バリア” “バリア” “バリア” “バリア” “バリア” “バリア”

熊が前足を振る度にバリアで弾き返しながら4人の所に走る。

キンちゃんが肩から飛び上がり、枝を跳びながら熊に向かっていく。

「コォ~ン!」

熊の前の枝に飛び乗って大きな鳴き声を上げた。

熊が枝を見上げて固まる。

キンちゃんを見ながらゆっくりと後ずさり、一瞬で後ろを向いて猛スピードで逃げ去った。

俺は血まみれの二人の所に走る。

男は肩から腕が血まみれだが致命傷ではない。

女の子は顔の右半分を熊の爪で抉られている。

この深さだと普通の治癒魔法では大きな傷跡が残ってしまう。

“睡眠”

暴れる女の子を眠らせて動かないようにする。

”魔糸“

俺の体から無数の細い光が女の子の顔に伸びる。

なるべく跡が残らないように治してやりたい。

精神を集中し、魔糸を使って破れた皮膚をおおよその位置に戻す。

”クリーン“

傷が見えるように汚れを落とす。殺菌作用もあるので化膿止めにもなる。

傷の奥を治癒魔法で治し、魔糸で支えている皮膚を寸分違わぬ位置に戻す。

表面の皮膚同士を丁寧に治癒魔法で張り付ける。

少しでもずれていると跡が残るので細心の注意が必要だ。

長さ10㎝以上の深い傷が3本。2本は骨まで抉っている。

ミリ単位で治癒魔法を操っていく。角度を変えて正確な位置かを何度も確かめながら治癒していく。誰かが額の汗を拭いてくれる。有り難いが傷から目を離せない。

丁寧に、丁寧に。

慌てずに、ゆっくりと。

無数の魔糸を操作しながら治癒魔法を操るのはさすがに辛い。

焦らない、焦らない。

丁寧に、丁寧に。

体を動かし、何度も診る角度を変えて確かめる。

「ふうっ。」

ようやく終わった安堵感で尻もちをついた。


目の前に水筒が差し出された。

「ありがとう。」

ごくごくと水を飲む。

今更ながら喉が渇いていたことに気が付いた。

「やったな。」

「ああ。」

「疲れている所を済まないが、あの男も治してやってくれ。」

忘れてた。

肩から、腕にかけて酷くやられていたんだった。

「クリーン。」

「ヒール。」

服も傷も奇麗になった、まあいいだろう。

皮膚が厚い所だから問題は無い、男だし。

「女の子は3時間、男は10秒か。」

殿下が呟く。

「・・・・。」

治ったのは一緒だ。

眠らせていた女の子が目を覚ました。

横で見守っていた女の子に話を聞いてすぐに俺の所にやって来た。

「神獣様、有難うございました。」

「コ~ン。」

まあそうなるな。

熊を追い払ったのはキンちゃん、1番手柄はキンちゃんだ。

「マヤ様、ありがとうございました。」

「うん。」

“マヤ様”にはまだ照れてしまう。


「元気になったようだから帰るぞ。」

殿下が何故か怒っている。

横に大きな盾で皆を護っていた生徒がいる。こちらもお怒りのご様子。

俺、何かまずい事をした?

アタゴ様を見る。

「戦いの様子を聞いた。貴族の息子が制止を振り切って熊に襲い掛かった挙句、熊が強いと判ったとたんに護衛と共に仲間を見捨てて逃げたそうだ。」

貴族の護衛がいたので冒険者は不要と判断されたらしい。

「はあ。」

殿下のお怒りは逃げた貴族の息子のせいと判ってホッとした。


「神獣様の一鳴きで大きな熊が逃げ出したそうですわ。」

翌週の教室はキンちゃんの話題1色。

「神獣様ですから。」

「そうですわね、神獣様ですもの。」

キンちゃんの人気が一層上がった。

お菓子を貰って、キンちゃんは満足気。

良きかな、良きかな。



俺はキンちゃんから貰った大量のミスリル鉱石を製錬して剣を作っている。

錬金魔法の単位認定制作をミスリルの製錬と剣の製作にしたのだ。

コツコツと製錬したミスリルを一つに纏めて少しずつ剣の形に整えていく。

キンちゃんに貰った何かの爪を柄の形に整え、剣を差し込む穴を開けて魔導回路を組み込む。

製作を始めて3か月。

一応の形にはなったものの、まだまだ思ったほどの効果が出ない。

訓練場で剣を振って微調整。剣を振って微調整。何度も何度も繰り返す。

「出来ました。」

期限の1週間前、完成した剣を先生に提出した。

「魔導具にもなっているのか。」

先生が柄に刻まれた魔法陣を見つめる。

「はい、攻撃は嫌いなので相手の力を吸収する魔法を組み込んでいます。」

衝撃吸収魔法と武器強化魔法を組み込んでいる。

強力な打撃でも剣が折れる事無く衝撃を抑えてくれる。

ある程度の打撃ならば受け止められる筈だ。


「タカオ、思い切り打ち込んで来い。」

先生が剣を構え、タカオが打ち込む。

カキ~ン!

危なっ!

タカオの剣が折れて天井に突き刺さった。

あちゃ~。

やらかした?

切れ味を二の次にした分防御力が強くなっていたようだ。

先生とタカオが口を開けたまま固まった。

「やった~!」

一瞬の静寂の中で復活したタカオが喜んでいる。

「???」

「入学した時にこの剣が折れるほど練習に励めって父上に言われたんだ。夏休みに父上に折れた剣を見せつけてやる。」

タカオは嬉しそうに脚立を持って来て天井に刺さった剣を抜いていた。

何か違うような気もするが、まあ良かった?



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