43 やらかしました
一方、前線を外された私は母である王妃から“遊んでおいで”と送り出された。
祖父が使う大魔法の隕石。
イメージは理解しているが使ったことは無い、というより使える場所など無い。
「1度試しておいで。どれくらいの魔力でどれくらいの威力になるか、実験しておかないといざという時に使えないからね。」
と言う訳で、新しく覚えた飛行魔法で敵の王都上空を飛んでいる。
空の上の、上の、上、たっか~い所から大きな岩を落とすのが隕石。
落ちてくる隕石の軌道を目標に合わせるのがめっちゃ難しい。
隕石から目標に向かって大きな重力の流れを作って、その流れに隕石を乗せるのだ。
魔力を練って、練って、練って、大きな岩を作る。
遥か上空に作っているせいか、なかなか大きな岩にならない。
頑張って大きくするが、まだまだ小さい。
めっちゃ頑張ったがちょっと大きくなっただけ。
実験だからまあいいか。
岩を重力の流れに沿って落とした。
落ちてこない。
じっと見ていると少しずつ大きくなって来た?
結構大きい?
見る見るうちに空一杯の大きさ。
やばい!
転移魔法で遠くに見えていた山の上に逃げた。
“結界“
山の上に着くと同時に結界を張ったが暴風で結界ごと吹き飛ばされた。
めっちゃ遠くまで吹き飛ばされて漸く止まる。
王都の方向を見ると、空高くまで土煙が上がっている。
ドゥグォ~ン。
今頃になって大きな音が聞こえて来た。
ひょっとしてやらかした?
あまりにも遠かったので隕石が実際よりも小さく見えていたらしい。
地上に近づいたらめっちゃ大きかった。
圧し潰されて死ぬかと思った。
いや、転移魔法が使えなかったら死んでいた。
空に浮かんだまま王都から上がる大規模な土煙が収まるのを待つ。
なかなか収まらない。
突然また土煙が上がった。
えっ、何?
王都の向こうにある山が土煙を上げながら崩れ落ちていく。
どうなってるの?
ドドドドド。
暫くすると地鳴りのような音が聞こえて来た。
急速に煙が収まっていく。
目が点になった。
王都の後ろ側から大量の水がこちらに押し寄せている。
空に浮かんだ私の下にある山に当たって大きな水しぶきが上がった。
眼下に広がっていた森は水に飲みこまれて跡形もない。
眼下の山も半分削られて切り立った崖になっている。
煙が収まった後には広大な湖?
水面まで降りて水に指を付ける。
舐めてみた。
しょっぱい。
王都を囲んでいた山の向こうは海だったらしい。
山が崩れて大量の海水が流れ込んだようだ。
王都どころか近郊の街もあちこちにあった領主の城も農地も森も何もない。
見渡す限り広い海が広がっているだけ。
やっちまった。
ドラゴ国の戦場になった侯爵領都に飛んだ。
兵に案内されてお母様や陛下、師団長、参謀達がテーブルを囲んでいる部屋に入る。
戦後処理の会議中らしい。
「どうだった?」
お母・、妃殿下に聞かれた。
「えっと、・・国が海になった? テヘッ!」
「・・・・。」
皆が首を傾げている。
「ちょっと隕石が大きくてぇ、ドカ~ンっと落ちてぇ、裏の山が崩れてぇ、ドドドドって水が来て、海になった? テヘッ!」
「アラレが“テヘッ”って言うって事はかなりの事をやらかしたって事ね。」
お母・、妃殿下はアラレの事を良く判っている。
その時、伝令が駆け込んで来た。
「砦の向こうが海になっております。」
皆がアラレをみる。
「エヘッ。」
笑顔で答える。
「笑って誤魔化さない。王都だけじゃなくて、王国全体を吹き飛ばしたの?」
「煙で見えなかった。」
「で、国が海になったってこと?」
「現状はそんな感じ?」
全員で砦に向かう事になった。
まだ残っていた外交官たちも一緒。
国境砦の城壁に立った参謀も外交官も唖然としている。
麓にあった敵の城塞は勿論背後に広がっていた農地も街も何もない。
遥か彼方に見えていた敵の王城も無い。
大波が荒れ狂う広大な海が広がっていた。
5万の兵が10分で壊滅したという衝撃は、大国が丸ごと海になったという追加報告で偽情報と言う事になった。
数日後、海を確認した周辺諸国は大混乱。
ドラゴ国が敗れた時には攻め込もうと配置していた軍は全て引き上げ、友好の使者が続々とドラゴに到着している。
私がいると却ってややこしくなると言われて学院に戻った。
「姿絵が凄く売れているらしいですわ。」
「使節団の方が大量に買い込んでいるのですって。」
「使節団が?」
「警備隊に姿絵を配るそうです。」
???
「“絶対に手を出すな”という但し書きをつけるそうですわ。」
「“触るな危険”の札を付けた国もあるそうよ。」
あちゃ~。
指名手配の人相書き?
「国を守りたいならそれが1番ね。」
いや、そういう問題では無いと思うぞ。
「5万の大軍を壊滅させた陛下や王妃殿下の活躍が霞んでしまったようですね。」
「そうそう、普通ならすっごい活躍なのにね。」
「アラレは普通じゃないからね。」
「エヘッ。」
笑って誤魔化した。
秋が深まり、年末の長期休暇が始まった。
私は工作隊を率いて港湾作業。
ドラゴ国側は標高が高いので問題ないが、水が引いた後の敵国は広大な荒れ地となっている。
塩分が高いので耕作には向かない。
だが、海の無かったドラゴ王国にとっては降って湧いた幸運。
港が出来れば船による大規模輸送が出来る。
他国を通らなくても遠国と貿易が出来る。
という訳で港を作ることになった。
国費を投入しての大規模開発。
私の役割は港の構築。
外交シーズンに王都にいれば碌なことは無いので逃げ出したともいえる。
探査魔法で水深を測り、大型船が寄港出来る港を作っている。
今は港を護る防波堤を建造中。
と言っても海底の泥を土魔法で盛り上げて固めるだけ。
港には大型船を建造するドックも建設中。
遠浅の所には商人達が塩を作るための塩田を作っている。
高給が約束されているので技術者も続々ドラゴ入りしている。
港の構築は魔法の練習になるし、トッキ~も思う存分走れるので喜んでいた。
ついこの間までは。
今はセイちゃんを頭に乗せて機嫌よく泳いでいる。
トッキ~は泳ぐのも好きらしい。
冬の最中に水遊び、私は絶対に嫌。
王都には私の帰りを待ち構えている外交使節が大勢いると言う事で、学院の授業が始まっても港湾建設を続ける事になった。
1ヶ月程してふと気が付いた。
ひょっとしてお母さんが私を便利に使っているだけ?
セイちゃんに王都の様子を見て貰った。
各国の公館は平常通り。
頭に来て王都に帰った。
「お母さん、外交使節はいつお帰りになったのですか?」
「つい先日よ。確認が取れたから今連絡の使者を出そうとしたところ。丁度良かったわ。」
祖父が”蕎麦屋の出前“と名付けたミョウコ家伝統の言い訳。
「防波堤や港は私かアラレでないと無理だからね。ご苦労様。」
全然反省していない。
このくらい平然としていなければ貴族達の相手など出来ないのだろう。
王宮を出て学院に戻った。
試験が終わって無事に進級が決まった。




