37 セイちゃんが来た
「アラレも鳥さんが欲しい。」
サンちゃんのような手紙を運んだり視覚共有が出来る召喚獣が欲しいらしい。
サンちゃんは鳥じゃないんだけどな。
アラレと一緒に小さな飛行系召喚獣の可能性が高くなる魔法陣を描いた。
練兵場に魔法陣を広げる。
「”小さき鳥、我の召喚に応えよ”、って念じるのよ。」
「うん判った。」
私が離れるとアラレが跪いて両手を組む。
アラレの魔力がどんどん膨れ上がってくる。
私の波長とは違う柔らかな波。
魔法陣が金色に輝いた。
金色?
見た事も無いし、本で読んだ事も無い。
でも聞いた事はある。
父さんが神獣様を召喚した時、金色に光ったらしい。
嫌な予感がした。
眩い光が収まると、魔法陣の中央には20㎝程の可愛いお人形?
長い金髪を揺らめかせ、背中に羽が生えている。
これ、絵本で見た事がある。
「お母様、セイちゃんだよ~」
セイと名付けたらしい。
アラレが両手の上にセイちゃんを乗せて私の前に来た。
「初めまして、アラレの母、カスミです。セイ様は精霊様ですか?」
挨拶は大事。とりあえずご挨拶。
「バレちゃった、キャハッ!」
キャハッじゃねえ。
どうして召喚魔法で精霊が出てくるんだよ。
「精霊様が召喚されることは無い筈なのですが。」
「美味しそうな魔力だったから来ちゃった、テヘッ。」
来ちゃったって、そんな事でいいの?
テヘッって舌を出すな。
「可愛いでしょ。セイちゃんは光の精霊なんだよ。」
それは絵本で見たから知っているけど、精霊様にしてはめっちゃ軽くね。
見学に来ていた国母殿下や重臣たちが唖然としている。
召喚魔法で精霊が召喚された事は一度も無い。
召喚魔法に詳しくない侍女やメイド達は可愛いセイちゃんを見て大騒ぎ。
とりあえず国母殿下と一緒に客間に行った。
「精霊様は・・」
「可愛いからセイちゃんって呼んで。」
私の精霊のイメージが崩れていく。
「・・セイちゃんは送還出来るのですか?」
「無理。送還したら魔力食べ放題が無くなるでしょ?」
送還出来るんだ。
「精霊は砂粒のように小さいと伺っていましたが。」
精霊は見えるか見えないかの小さな存在で極稀に数センチの精霊が目撃されると書物に描いてあった。
「う~ん、1㎝大きくなるのに早くて500年位かな。その間に魔獣や虫に吸い込まれたり食べられたりして死んじゃうから大きくなることは殆ど無いわ。」
鍾乳石でも50年で1㎝大きくなるぞ、500年に1㎝って・・・
「女性の歳を考えちゃ、ダ・メ・ヨ。」
精霊様は心の中が判るらしい。
「・・・どうして召喚に応じたのですか?」
「大きくなると目立つから危ないの。私くらいの大きさになると普通じゃ死なないけど、ドラゴンのブレスを浴びたら蒸発しちゃうもん。この頃ドラゴンを見かけるようになったからアラレの所に避難してきたの。召喚中なら死んでも再召喚で生き返れるでしょ。」
セイちゃん召喚は神龍様が原因だった。
ともあれ危険は無いようなので召喚主であるアラレに任せる事にした。
私は知らなかったが、王国には精霊信仰があるらしい。
人や樹木や作物に癒しを与え、水を清めてくれるそうだ。
アラレが精霊様を呼び出したという噂が広まり、翌日から人々が王城に押し寄せた。
一目で良いから精霊様を拝ませて欲しいというのだ。
あまりにも多くの人が来たので王宮前の広場を開放し、セイちゃんを肩に座らせたアラレがバルコニーに立つこととなった。
「「「うぉ~!!」」」
バルコニーが揺れる程の凄い大歓声。
アラレが手を振ると観衆も一斉に手を振る。
セイちゃんが羽根を広げて揺らすと歓声がひと際大きくなる。
アイドルのコンサ~ト?
10分ほどでセイちゃんが飽きたので終わりにした。
情報部が王都住民の評判を集めて来た。
“杖を突いて拝みに行った爺さんが杖を放り出して走って帰って来た”
“車いすの娘さんが立ち上がった“
昔父さんに聞いた奇跡か?
“神経痛が嘘のように消えた”
“垂れた乳がプルンプルンになった”
乳がプルンプルンになるなら私も拝んでみようかな。
念の為に言うが、まだ垂れてはいないぞ。
本当かどうかは不明だが噂が広がって人々が王宮に押し寄せた。
仕方が無いので今週は1日1回、来週からは週に1回バルコニーで挨拶を受けると布告した。
国民が喜んでいるのだから王家にとっても良い事。
挨拶を受けるのは私じゃないし。
アラレは“え~っ”って言っていた。
アラレは演習が好き。
王都郊外の演習場では毎日参謀及び参謀見習いによる演習が行われている。
平日は100人隊同士の演習。2週間前に参加部隊名と参謀名が発表される。
参謀は1週間で相手参謀と部隊の特徴を資料室で調べて作戦を練る。1週間前から訓練。
演習当日は4km離れて演習開始。参謀旗を取った方が勝ち。刃を潰した模擬戦用の武器を使い、赤いビブスを来た審判員が生死判定を行う。
参謀や参謀見習いはこの演習成績が出世に大きく係わって来るので必死に頑張る。
日曜日には千人隊による演習。
セイちゃんと視覚共有が出来るようになったアラレは連日のように演習を視察している。
アラレが見ている日は参謀や指揮官もいつも以上に気合が入る。
軍のトップである将軍の視察なので当然。
演習後はアラレと一緒に作戦の意図や勝因、敗因の分析をする。
将軍と直接話せる機会なので皆が意欲満々。
優れた戦功をあげた兵士は直接お言葉を頂けることもあるので兵士も気合が入っている。
「何故奇襲を選んだの?」
「成功すれば一気に勝負を決められるからです。」
「逆に言えば失敗の確率が高い。あなたは過去に何度も奇襲を仕掛けています。当然相手も頭の片隅には奇襲を予測して備えをします。参謀として不勉強すぎます。」
「申し訳ありませんでした。」
「あなたは相手の奇襲を読んで兵を配置、奇襲部隊を打ち破りました。」
「はい。」
「ですが、相手が正面から押し出して来た場合、この配置では配置転換が遅れ正面突破されます。相手の作戦を1つに絞り込み過ぎです。奇襲と同じで単なる賭けです。兵の命を賭けに使ってはなりません。」
「申し訳ありませんでした。」
「10人隊長、あなたの判断は適切でした。敵の配置に気づき、奇襲を援護するために陽動作戦に出ました。部下の半数は失いましたが、奇襲部隊の大半は撤退して立て直すことが出来ました。褒めて取らせます。」
「有り難き幸せ。」
空から見ているので兵士達の動きが良く判る。
参謀や指揮官はアラレによる地図を使った動きの再現を見ながら説明を聞くのでほとんどの場合は納得してくれる。
アラレの解説も含め、資料室には膨大な演習結果が蓄えられ、次々と新戦法、新対策が生み出されている。
戦術面だけでなく、士気も向上した。
アラレが将軍となってから王国軍は急速に強くなっている。
平和とはいえ、大きな山や川の無い国境での小競り合いは多い。上流の国と下流の国の水争いもある。領主同士の争いで終わるときもあるし国軍が睨み合い、時には小競り合いに発展することもある。正面衝突が無い時ほどこうした小競り合いが増える。
争いを好まないドラゴ王国が敵国の領土に攻め込むことは基本的に無い。
だがそれを良い事に何度も同じ盆地に侵略を仕掛けてくる国があった。
情報部から“隣国王が戦に勝って取った領地は攻め取った者に与えると布告していた”と聞いて激怒し人物がいる。
陛下? まさか。
私? 違う。
正解はアラレ。
“王国軍を舐めとんのか”、と怒った。
昨日投稿操作のミスで、第5作 ”吾輩は猫(仮)である 第1話” をフライング投稿してしまいました。
竜騎士完結後に第2話を投稿する予定です。
ミスばかりで済みません。




