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馬丁爵 我が家はお馬さん優先です  作者: 免独斎頼運
第2章 男どもは・・・
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34 王妃直属隊

王家には陛下直属の情報部がいる。表には出ない影の存在。

現在は王妃直属となった私の手足。

外国局、国内局、王都局、王宮局、統括局の5局、そして暗部と呼ばれる暗殺や裏工作を専門とする部隊がある。

彼らは影の存在なので顔を知られる訳にはいかず、直接動く事は出来ない。

「下級官吏でもいい、平民でもいい、男でも女でもいい。侍女でもメイドでも執事でもいいから能力と決断力のある誠実な人間を探しなさい。」

情報部隊から推薦された者を私とトッキ~が面接する。 

トッキ~は邪な心に敏感。

念話できちんと教えてくれる。

計算の早い者、世情に詳しい者、文章を書くのが上手い者、アイデアが豊富な者、気配りが出来る者、色々な分野で優れた者を20人選抜して表で働く直属隊を作った。

交代で侍従や侍女の役割もする王妃直属の側近部隊、名付けて直属隊。

まんまじゃん。

父さんのネーミングセンスを笑えない。


大臣や部門の責任者を集める。

「この者達は王妃直属隊である。不正僕滅の為に全ての部署及び部屋の随時査察及び必要書類押収の権限を与えた。この者達の言葉はこの王妃の言葉と心得よ。」

一目で直属隊と判る青い制服に身を包んだ直属隊を紹介した。

交代で侍従や侍女の役割をさせるのも王宮に出入りする者達に顔を売る為。

表の部隊が目立てば裏の情報部が動きやすくなる。

直属隊には暗殺の危険があるので諜報部が影から見張っている。

4人一組で各部署の実情調査をさせた。

不正ではなく正当な手段で不当な事をしている役人の調査。

その為には正当な手段での帳簿の押収が必要。

裏の存在である情報部からの情報に基づいて、表部隊の直属隊が乗り込んで役人達の前で堂々と押収するというパフォーマンス。



1番先に査察させたのは軍令部。

軍事予算は抑えているのに軍令部の経費のみが増えている。

特に幹部の給与が他の部局に比べて異様に高い。

その分が軍の装備費と騎士団の厩舎経費から捻出されていた。

厩舎経費削減で馬丁が減り、飼葉の質も落とされたことが調査で発覚した。

糞参謀達が馬に迷惑を掛けている、許せん!


軍令部で役職に就いている120人について、不正事件前の役職と給与、不正事件後の役職と給与の一覧表を提出させた。

先の戦争で本営にいた者達があまりにも無能だったからだ。

彼らは全員軍令部の幹部だった。

案の定、不正事件後に出世したのは貴族家の者ばかり。

貴族には家名が付いているので一目瞭然。

しかも異様に給与が高い。殆どの者が師団長並みかそれ以上。

同じ役職でも貴族家の者の給与が高い。平民には役職も給与も上限があるようだ。

軍の予算を算定するのが軍令部。

その力を悪用したのが前回の不正事件だ。

上層部が全て処刑されたのに全く懲りてない。

調査では新人貴族ですら千人隊長並みの給与、お手盛りの給与体系がまかり通っていた。

給与の増額は財務部が承認しているので不正ではない。

正当な手続きで不当な事をしていた。


不正事件以前も以後も同じ役職にある平民出身の係長7人と下級貴族出身の課長3人を残し、不自然な出世をした幹部86人全員に軍の10人隊長を命ずる辞令を出した。

軍令部幹部職員の7割。普通なら幹部の7割がいなくなれば大混乱だが、事前の調査で碌に仕事をしていないどころか殆ど出勤すらしていない事が判明している。

実務は全て下級役人が担っているので問題ない。

優秀な参謀であればすぐに10人隊長としての結果を出し、再出世出来る筈。

出世したら軍令部に戻せば良い。

10人隊長すら務まらない者に軍の参謀などが務まる筈は無い。


すぐに戦後の戦闘報告で私を怒鳴った貴族っぽいおっさんが来た。

「妃殿下、これはどういう訳ですか? 陛下はご存じなのですか?」

何で陛下なのだ? 

陛下なら見逃すという事か?

「私の職務権限で出した。内容は書いてある通り。拒否する者は罷免する、以上。下がれ。」

退職の場合はさほど多くは無いが功労金が出る。罷免されると一切ない。

好きな方を選べばよいが私とすれば拒否してくれる方が経費を削減出来るので有難い。

「私の父は財務部の部長ですぞ。」

おっさんが胸を張る。

役人の給与を決めるのは財務部だ。

財務部の決めた給与表で給料が決まる、なるほどね。

「判った、財務部の部長を自白魔法審問に掛ける。良い情報をくれた、他に知り合いがいたら名をあげろ。」

「やかましい、父上に言いつけてお前なんか首にしてやる。覚悟しておけ。」

おっさんが怒鳴った。


唖然として一瞬思考が停止した。

目を何度も瞬かせる。

財務部の部長が王妃を首にする? 

訳が判らない。

「こいつはバカか?」

少し離れた所で執務をしている宰相に聞いてみた。

「バカですな。」

「いや、大バカです。」

宰相の答えをテンリュ殿下が訂正した。

「こういう場合はどうしたらいい?」

これ程のバカは前例が無い。

宰相に聞いてみた。

「財務部部長の審問が終わるまで、牢にぶち込んでおきましょう。」

おっさんは護衛の兵士に引きずられて行った。

86人は6割が辞令を拒否したので罷免、残りは10人隊長となった。

プライドが許さなかったのか、10人隊長の過酷な任務をこなす自信が無かったのかは不明。


軍令部長には平民の主任を抜擢し、各騎士団、師団から参謀として相応しい能力がある者を師団長の責任で推薦させた。

推薦した者が無能であった場合には師団長を降格するという脅し付き。

幸いなことに騎士団や軍はほぼ実力主義。

1か月後には60人の優秀な参謀候補が集まった。

60人を参謀見習いとして出身の部署以外に配置。訓練や模擬戦闘の指揮を取らせた。

いくつかの騎士団や師団を経験させ、結果次第で配属を決定すればよい。

予算の算定は新軍令部長が滞りなくやってくれた。

不当な給与分を必要な所に回せたと新軍令部長が喜んでいた。

勿論装備や厩舎の費用も以前に戻された。

辞めさせた参謀達は予算の算定には邪魔なだけだったらしい。



次に呼び出したのは財務部。

ここも軍令部と同様の給与体系で、貴族家の者だけが優遇されていた。

主犯は財務部長。除爵の上私財没収。

本人は処刑され一族が国外追放、その他の幹部職員も7割が処分され財務大臣は降爵のうえ隠居謹慎となった。

軍務部と財務部の処分を知り、慌てて給与体系を見直す役所が続出。

殆どの役所が家柄では無く、勤続年数と役職による給与体系となった。

浮いた経費で領地を持たない法衣貴族の年金を増額、領地を持つ貴族は国に納める税を下げた。

勿論陞爵した貴族や新たに叙爵した貴族もいる。信賞必罰が基本。



情報部により不当行為で処分された軍令部と財務部の役人は殆どが騎士学院出身と判明した。

本来は魔法学院と同額の予算なのに騎士学院には魔法学院の倍額が支出されている。

直属隊に騎士学院出身者がいたので聞いてみた。

「160人の定員ですが、平民は40名前後。平民の殆どが大商人や大工房の息子です。」

「ヤハギはどうやって入ったの?」

「王国の4地区で剣の大会があって、決勝に残った者は騎士学院に推薦で入学出来るという制度が騎士学院創立の時に作られました。8年前からは優勝者だけになりましたが、幸い優勝できたので騎士学院に入りました。」

「優秀なのね。」

「恐れ入ります。」

「優秀な剣士のあなたが何で料理人なの?」

「役所への推薦枠が毎年100人分あるのですが、騎士学院は数年前から財務部50人、軍令部50人で推薦枠が埋まります。」

「ずいぶん偏っているのね。」

「昔は役所ごとに5名~10名だったらしいですが、俺の時は50、50でした。」

「推薦が取れなかったのね。成績が悪かったの?」

「一応次席です。主席は最上位貴族と決まっていましたから。推薦は学院長推薦で公募はされません。学院長と数名の理事が決めてから決定者に希望を聞くらしいです。私には声が掛かりませんでしたので、騎士団か軍に応募しようと思いましたが、新人採用がありませんでした。たまたま土木局の街道部が料理人を募集していたので料理人になりました。」

「・・・・。」

何とも言いようがない。

恐らく入試の時から賄賂を取って学院長権限で合格させたのだろう。

軍令部の貴族がバカばっかりだった理由が良く判った。

直属隊に帳簿や成績書類の押収を命じ、ヤハギと共に騎士学院の視察に行った。


魔法学院の倍も予算があるのに校舎も施設も魔法学院と大差ない。

廊下を歩いていると正面から5~6人の集団が廊下の真ん中を歩いて来た。

王宮では皆が避けるのでいつものようにそのまま歩き続けるとぶつかりそうになる。

「こらぁ、××=▽▽様である。壁に寄れ!」

先頭の生徒の後ろから現れた生徒が私を壁に押しやろうと手を伸ばし、壁にへばりついて逆立ちした。

舐めんな。私は生まれた時からずっと護身術を練習させられたんだ。

「生意気な奴だ、焼きを入れてやれ。」

先頭の男が後ろの男達をけしかける。

3人目にいた男が剣を抜いた。

後ろにいたヤハギが前に出ようとするのを手で制す。

”カウンターバリア“

剣で切りかかって来た男が弾き飛ばされる。

「なんだ、何が起こった。」

「剣筋がぶれていたわ。騎士学院なのに剣を扱えない生徒がいるのね。」

「ふざけるな。俺達は軍令部に推薦が決まっているのだぞ。逆らえばどんなことになるか判っているのか? 騎士団も軍も軍令部の命令一つでどうにでもなるんだからな。」

「はぁ。」

ため息しか出ない。参謀が無能だった理由が判った。

「どうだ、恐れ入ったか。」

「ヤハギ、このバカはどうすればいいと思う?」

「殿下の御心のままに。」

廊下の窓から放り出してやった。


騒ぎを聞きつけて警備兵や生徒達が集まって来た。

「王妃殿下の御前である。静まれ、静まれ~。」

ヤハギ、グッドジョブ。

昔、父さんとやったスケさんごっこみたい。

王国にも仕事が出来る男のいると判って安心した。

「カスミ=ドラゴである。無礼を働いた者を懲らしめた。学院長に用がある、案内いたせ。」

警備員が慌てて生徒達を追い払い、学院長室に案内してくれた。

学院長室では直属隊が書類の確認をしていた。

「まともな生徒は何人だ?」

「1年6名、2年8名、3年7名です。」

「その21名を明朝王宮に出頭させろ。他の生徒は全員退学、騎士学院は廃校とする。学院長と理事は自白魔法による審問。他の教師は沙汰があるまで謹慎。警備兵、騎士学院を封鎖しろ。」

「「はっ。」」

警備兵達が出て行った。

「後の始末は直属隊に任せる。」

「「「はい。」」」


翌朝、騎士学院の生徒達が王宮に来た。

私が入っていくと慌てて直立不動になる。

厩舎に通されて戸惑っていたようだ。

「知っての通り、騎士学院は廃校となった。学問途中の諸君には申し訳ないと思っている。3年生で進路の決まっている者は卒業資格を与えるのでそのまま進むが良い。決まっていない者と、1年生2年生は軍の見習い参謀としての道がある。また、王城に希望する部署があれば見習いとして勤務する道がある。」

“終わった”

厩舎に集めたのはトッキ~に人物鑑定をして貰うため。

“有難う“

「あなたとあなた、そしてあなた。それからあなた。以上の4人は希望があれば私の直属隊に採用する。どの道を選ぶのも自由。5日以内に直属隊に申し出なさい。」

トッキ~が推薦してくれた4人に申し渡した。


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