32 ミョウコ家の4兄妹
って、のんびり眺めている場合では無い。戦闘に集中だ。
こちらが豪馬騎士団を投入するのを見て敵軍も騎士団を前面に出してきた、その数200騎。
騎士団には騎士団、大規模戦闘の常識。
両者の距離は400m。
豪馬騎士団がゆっくり歩き出すと、敵の騎士団が全速力で突っ込んで来る。
距離を測りながらそのままゆっくりと進む。
「ヨコヅナ!」
今この時と大きな声を出す。
豪馬騎士団が歩みを止め、ヨコヅナが反応した。
「ガゥルゥルルルルゥ!」
全速で突っ込んで来た敵の騎士団が、歩みを止めた豪馬騎士団の目の前で急停止。
止まった衝撃で落馬した騎士がかなりいる。
敵の騎士達が必死になって手綱を動かしたり首を押したりしているが馬は全く動かない。
“ストーンバレット““ストーンバレット““ストーンバレット““ストーンバレット“
魔法を連発する。
兄妹達も魔法を連発。
敵の騎士達が次々と胸を撃ち抜かれて落馬。
馬を傷付けないよう騎士だけを狙った魔法攻撃。
この距離で私達兄妹が的を外すことなどあり得ない。
敵の騎士達が鞭を当てても拍車を駆けても馬は動かない。
ボノがヨコヅナの特技“馬を操る能力”で敵騎士団の馬を止まらせている。
“ストーンバレット““ストーンバレット““ストーンバレット““ストーンバレット“
止まった馬の上に乗ったままの騎士は絶好の的、200人の騎士があっという間に全員落馬した。
「ヨコヅナ!」
声を掛けるとヨコヅナが嘶く。
「ガゥルルル!」
騎士を失った馬が一斉に砦に向かって歩き出す。
馬をじっと見る。うん、1頭も怪我をしていない。
作戦通り後ろに控えている兵達が馬を確保する。
馬が砦の中に消えた。
敵騎士団の後ろで待機していた歩兵が騎士団の壊滅を見て一斉に突進を始めた。
“サンダーレイン!“
あっという間に空が雲に覆われる。
真っ黒になった空から数えきれないほどの小さな雷が轟音と共に敵兵に降り注ぐ。
殺すほどの威力は無いが、兵が次々と意識を失うか体が麻痺するかで倒れていく。
倒れなかった兵も兄妹の麻痺魔法で次々と倒れていく。
僅か数分で2万の兵が地上に伏した。
立っているのは遥か後方の兵站部隊数十人のみ。
「突撃!」
号令を掛けると、倒れた兵を踏み潰して豪馬騎士団が突進する。
倒れた人間だらけの不安定な足場でも6本脚の豪馬には平地同様。
馬は全て救ったので倒れているのは人間だけ、踏み殺しても問題無いので安心して突進できる。
目指すは敵の本陣。
右側の森を回り込むと大きなテントがいくつも並んでいた。
サンちゃんの目で確認した敵の本陣。
13騎の豪馬騎士団が大槍を振り回しながら本陣に突入。
テントを引き倒し、出て来た指揮官達を蹂躙する。
あっという間に勝負はついた。
オボロとボノは本陣の後方にいる兵站を積んだ馬車の確保に向かう。
オボロとボノが兵を気絶させ、ヨコヅナが馬を制御する。
私達は全体の確認。立ち上がった兵は再び気絶させる。
勝ったと思った直後が一番危ない、父の教えだ。
サンちゃんの目で確認すると、倒れた敵兵は砦の兵達により次々と武装解除され縛られている。
倒れている兵は2万、戦場に出ている砦の兵は3000だから死者を差し引いても一人で6~7人を武装解除して縛らなければならない。
うん、みんな忙しそう。
その時、突然日が陰った。
空を見ると遥か彼方で天まで届くような土煙が上がっている。
「なんだ?」
兄も首を傾げる。
その瞬間、ゴォ~という大きな音と共に大地が揺れた。
揺れはすぐに収まったが兵達が混乱している。
拡声魔法を使った。
「安心しろ、敵の王城が破壊された音だ。父の元馬丁爵閣下が敵の王城を破壊した。安心しろ、敵の王城は破壊されたぞ。」
「「「「おおお~!」」」」
歓声が上がる。
「多分そうよね。」
既に兵達に伝えた後だが、一応兄に聞いてみた。
「あの土煙だと特大の“隕石”だな。」
やはり父さんの大魔法らしい。
何故王城を破壊したかは判らないけど、よその国だからどうでもいい。
あとの始末を兵達に任せて砦に引き上げた。
砦の指揮官に戦闘報告の手紙を書かせ、サンちゃん便で王宮と他の国境砦に配達して貰う。
サンちゃんはめっちゃ早いのですぐに届く。
ついでにサンちゃんの目で国境を確認する。
敵の兵が動いている様子は無い。
増援に送った部隊は指示通りに旗を掲げて威圧している。
うん、大丈夫。
サンちゃんに帰って来るように伝えた。
敵国の王城が壊滅したので、捕虜の返還交渉は出来ない筈。
私と砦の指揮官を務める大隊長2人、この地の領主である伯爵の話し合いで、捕虜は戦争奴隷として雇える分は雇い、残りは奴隷商人に売る事になった。
砦の領主である伯爵に2000人を譲り、残りは砦兵と伯爵領兵で王都に輸送する事にした。
奴隷は需要の多い王都の方が高く売れる。
砦の指揮権を大隊長に返し、捕虜の輸送を頼んで王都に戻る。
手伝ってくれた豪馬輸送の騎士達は仕事があるからと店に戻って行った。
私達兄妹と王太子の5人が王城に入る。
目的は勿論、王宮のリンゴ。
食糧庫に行き、将軍権限で大量のリンゴをせしめた。
豪馬達が嬉しそうにリンゴを食べている。
1番手柄のヨコヅナは沢山のリンゴを貰って嬉しそう。
私も一緒に食べる。
うん、やっぱり王宮のリンゴは美味しい。
「何をしている、王妃殿下が本営でお待ちだ。すぐに報告に向かえ。」
ちらっと振り向くと軍令部の制服を着た参謀らしいおっさん。
今回の横領事件で軍令部は殆どの幹部が処刑された。
ミョウコ家が領地を貰った時にも軍令部幹部は大勢処刑されたのでかなり入れ替わっている。
この男は出陣前の緊急招集にもいなかった筈。
王太子を知らないのだから相当低い地位?
その割に態度がデカい。
「働いてくれた豪馬を労うのが先です。報告は既に届いている筈、豪馬が満足したら報告に行きますので待たせて下さい。」
トッキ~の方を見た儘、参謀には背中を向けて答える。
「はあ? 王妃殿下よりも馬を優先するというのか?」
あんた、言っちゃいけないことを言ったわね。
報告より馬が優先に決まっているでしょ!
参謀の見下したような言い方にカチンっときた。
世間の常識すら知らない奴が偉そうに言うな。
人間よりも馬が優先、これは世界の常識だ。
「当然です!」
「ふざけるな、子供だからと容赦はしないぞ。」
男の言葉に振り向いて背筋を伸ばした。
食べかけのリンゴは背中に隠したよ。
「ずいぶんお偉い方のようですが、お名前を伺っても宜しいですか。」
「本官は軍令部所属、第1師団師団長参謀×××である。」
参謀が偉そうに胸を張って名乗った。
「第1師団の師団長参謀ですか。おみそれしました。こちらに居られるのは王太子殿下。あちらに居られるのはミョウコ筆頭侯爵閣下。閣下のお隣は閣下の妹君と弟君。私は将軍を拝命し、ドラゴ国の全軍を統括している王太子妃のカスミです。」
「・・・・。」
口を閉じろ。
「新任でご存じないかも知れませんが、詳細報告は豪馬への褒美ほど重要ではありません。そもそも今回の戦乱は腐った軍令部がまじめな騎士団長達を騙した結果起こった事。上層部は処刑しましたが、反省すらせずに威張り腐っている軍令部の指揮官や、豪馬の重要性すら理解していない無能な参謀が未だに残っていると聞いております。軍令部という制度自体を考えねばなりませんね。」
冷たく言い放った。
「し、失礼致しました。豪馬の褒美が終わってから本営に来られると報告します。」
参謀は直立不動となって答えると逃げるように走り去って行った。
全くこの国の男どもは・・・。
兄達はもうすぐ試験だからと学院に帰って行った。
王太子と二人で本営にしている客間に入る。
妙に静まりかえっている。
「お2人だけですか?」
入り口にいた参謀が私達の後ろを見ながら不思議そうに聞く。
「兄達は試験が始まるので魔法学院に帰りました。豪馬運輸の騎士達も仕事があるそうで、店に戻りました。私達は暇なので報告?」
部屋にいる指揮官や参謀たちがポカンと口を開ける。
戦の決着が付いたのだから、詳細報告なんて暇な人間がすればいい。
重要な結果報告はとっくに済ませているのだ。
無能な参謀達はそれすら判っていないらしい。
「・・・、戦に勝ったという報告は受けました。詳しい状況と死者、負傷者の数を報告して下さい。」
「敵騎士団の馬200頭は全馬保護して無事です、怪我もありません。兵站部隊の馬も馬車ごと確保しました。怪我をしている馬は1頭もおりません。敵の騎士200人は全員倒しました。敵の本営にいた50人程も全員倒しました。」
あとは何だっけ。
「え~っと、兵の大部分は気絶させて捕虜? 少し踏み殺したから1万9千? 2000を伯爵領に残して、残りは王都に護送中? ・・・、多分敵国の王城が潰れた? 以上?」
これで全部だよね。
ちらっと王太子を見ると頷いている。
「他にもあるだろう。」
何故か貴族ぽいおっさんが怒っている。新しい軍令部の長官?
「・・・あっ、忘れていた。王宮のリンゴを褒美として豪馬に食べさせた。」
将軍権限で勝手に食べさせたからね。報告は大事。
「そうではない、こちらの死者と負傷者の数だ。」
何で怒っているのか判らないが、額に青筋を立てている。
「こちらの? ・・・多分ゼロ?」
「何だと?」
「豪馬騎士団は損害ゼロ、砦の兵は馬の保護と気絶した敵を縛り上げただけなので多分ゼロ?」
「・・・・。」
王妃殿下も参謀達も固まっている。
「お、王城が潰れたというのは何だ?」
参謀の一人が聞いてきた
「父さんが馬神様に乗って敵国の王城方向に飛んで行った。その後で巨大な土煙が上がり、轟音とともに大地が揺れたので、多分そうではないかと。」
「・・・・。」
部屋中が沈黙している。
「王城を一人で・・・。」
誰かが呟いた。
「騎士団200騎と2万の兵をたった13騎で・・・」
他の誰かが呟く。
「私と豪馬運輸の騎士が働いたのは本営に突入してからだけだ。200騎の騎士団と2万の兵を倒したのはミョウコ家の4兄妹である。」
王太子が言わなくても良い事を言う。
王妃殿下も参謀達も一斉に私を見る。
なんで私の顔を見るんだ?
読んでくれてありがとうございます。
拙い作品ですが、継続して読んで下さっている方がいるという事が凄く作者の励みになっています。
投稿中の4作品はこれからも毎日更新する予定です。
見捨てずに読んで下されば嬉しいです。




