29 小さき鳥の召喚です
今年から“豪馬の基礎知識”が1年生の必修科目となり、専門の先生が着任された。
先生は去年私の授業を聴講した二人の馬丁。
父さんの下で修業したから馬丁としても1流。
私が作った教科書に沿って授業を進めている。
シコを踏むのはヨコヅナだけと言い忘れたので、豪馬は準備運動としてシコを踏むとか教えてなければいいのだけどちょっと不安。
私は卒業したらすぐに結婚式なのでドレスの採寸やアクセサリーの注文、エステに指輪の製作と忙しい。
指輪の製作?
父さんが指輪を作れと素材を送ってくれた。
指輪はめんどくさいから作るのが嫌らしい。
母さんたちの指輪を作った時、凄く魔力を使ったから2度と嫌だと言ったそうだ。
父さんと違って魔糸のコントロールが苦手な私としては、細かな魔法陣を刻む作業が辛いし注ぎ込む魔力量が大きいので少しずつしか進められない。
結婚がこんなに大変だとは思わなかった。
父さんは頑張ったんだ。
冬休みに入り社交シーズンが始まった。
地方領主達が続々と王都に集まって来る。
オボロとボノは稼ぎ時と喜んでいる。
ヨコヅナは食費が嵩むので二人は小さなころから冒険者としてアルバイトをしていた。
社交シーズンの王都郊外は盗賊シーズン。
護衛が付いた貴族を襲う盗賊は稀だが、大勢の貴族が集まるので高級食料や嗜好品、魔道具や宝石などが売れるようになる。
それらの高価な商品を運ぶ商人を盗賊が襲う。
高級品を運んでいるだけに護衛も多い。
当然盗賊の規模も大きくなる。
街道警備のアルバイトがてら盗賊退治で儲けようというのが二人の思惑。
見つけた盗賊を雷魔法で麻痺させて、重力魔法で浮かせた檻に入れて王都に運び奴隷として売る。
ギルドが出す警備料と討伐の褒賞金、それに奴隷の代金。
本拠地を見つければそこにある品物も稼ぎとなる。
領地付近ではたまにしか盗賊と遭遇出来なかったが、王都付近では毎日のように盗賊退治が出来ると喜んでいる。
オボロの探査魔法は私よりも広い範囲をカバー出来るしマーキング魔法も使える。
ヨコヅナは馬を従わせるのが得意なので盗賊達が乗った馬を自分の意のままに動かせる。
盗賊にとっては最も相性が悪い相手だろう。
オボロ達が稼いでいる間、私は地方から来た貴族夫人やお嬢様と女だけのお茶会。
女性だけの情報交換会だ。
地方のちょっとした噂が大きな収賄事件や不正摘発のきっかけとなることはよくあるし、新商品の情報や収穫量情報で商品相場を見極める事が出来る。
地方の貴族からすると、中央貴族の派閥関係や勢力変化はいざという時に家を護る大きな力となる。お互いに持ちつ持たれつだ。
「カスミ様に逆らった侯爵が処刑されたそうですね。」
「そうなの、“殺されても死なない”カスミ様を襲ったのですって。」
どこかで聞いたセリフ。嫌な予感。
「何ですの、その“殺されても死なない”って言うのは。」
「騎士団長ですら全く歯が立たない筆頭侯爵様のお言葉だそうですわ。」
兄の言葉か、殿下がチクったな。
あとでとっちめてやろう。
「兄が冗談で言っただけです。殺されたら死にますよ、多分。」
「多分ね。」
夫人達が笑い転げる。
「筆頭侯爵様はそんなにお強いのですか?」
「王宮で豪馬同士の模擬戦をしたら、騎士団長達の槍がかすりもしなかったそうです。」
「殺されても死なない方の兄上ですから当然かもしれませんね。」
お茶会は多いに盛り上がったが、その二つ名は勘弁してほしい。
私は可愛いくて優しいカスミちゃんなのだ。
「今年は王太子ご成婚で追加税が凄かったのですがカスミ様はご存じですか?」
「何それ、全然知らないわ。」
私の結婚で迷惑を掛けている? 勘弁してよ。
「うちは王国が盤石になったからと駐屯していた国境警備の1個師団が2個大隊になったわよ。」
「うちは追加税。」
「変ね。私の費用は全部ミョウコ家が払っているし、私もミョウコ家もパーティーが嫌いなので最低限のパーティーしかしない筈よ。」
「やっぱりね。」
「そうじゃないかと思ったわ。」
「聞いて良かったですわ。」
「情報網で伝わって来たカスミ様のお噂と違いすぎるので、失礼とは思いながらもお尋ねしてみたの。ごめんなさいね。」
何かと理由を付けて懐を肥やす役人は多い。
とくにこの王国は目に余る。
以前ミョウコ家が受けた横領事件での仕打ちを思い出して腹が立った。
あの時は本当にお金が無くて豪馬たちにもひもじい思いをさせた。
「とんでもない。こちらこそご迷惑をおかけしてすみません。さっそく王家に問い合わせて徹底的に調査させますわ。」
女を舐めんな!
冬休みが終わり、学院に戻った。
横綱が大きな桶に頭を突っ込んでいる。
隣ではアマツンとボルトが桶のリンゴを美味しそうに食べている。
「だいぶ儲かったみたいね。」
「やっぱり王都は稼げるわ。王都に住もうかしら。」
「盗賊喰いが住んでいたら、来るのは素人盗賊だけよ。」
2人は王都では“盗賊喰い”の二つ名で有名になっている。
「まあそうね。最後の3日はしょぼい盗賊団1つしか見つけられなかったもの。」
「オボロの探知で1つなら王都の周りにはもう盗賊団はいないわね。」
「良い儲けになるんだけどな。カスミ姉様の力で盗賊募集とか出来ない?」
ボノは残念そう。
盗賊募集って何よ。
「応募するバカがいると思う?」
「・・・・。」
ボノが考えている。
考えるな!
ふと横を見るとユッキ~兄さんも考え込んでいる。
お前もか!
うちの男どもは思考回路がおかしい。
試験も終わり、短い春休み。
ユッキ~、オボロ、ボノは騎士団で模擬戦のアルバイト。
私は王宮の監察部で不正貴族取り調べの手伝い。
財務部から押収した帳簿をチェックしている。
帳簿と担当者の説明が合わない場合は監察官の依頼で私が担当者に自白魔法を掛ける。
自白魔法を掛けられると“はい”と“いいえ”しか言えなくなるが、嘘は付けない。
帳簿は妃殿下の指示で王太子が直接押収してきた物。
帳簿が行方不明な部局は全員が自白魔法での取り調べと通告されている。
誰もが一つや二つ不正をしているので、自白魔法を掛けられて不正をしたかと問われればはいと答える事になる。
自白魔法よりはましだと自ら不正を申告して来るものもいた。
なあなあで済ましてしまう王国の貴族達に腹を立てていた妃殿下は大物の取り調べには自ら同席して監察官を監督した。
監察官の中にも賄賂を貰って目こぼしする者がいるのだ。
妃殿下の国では有り得ないレベルの腐敗ぶりらしい。
結婚行事に差しさわりが出るという意見を言う大臣もいたが、怒った妃殿下の指示で自白魔法を掛けられ、自身の不正だけでなく貴族達の不正を沢山漏らす事になった。
春休みの終わりに王都の中央広場で財務大臣、内務大臣、軍務長官が処刑され、財務次官ら多数の役人が徐爵や降格となった。
後期の授業が始まったが、私と殿下は結婚準備で公欠となり卒業が決定した。
結婚準備といっても招待状を書くくらいしかすることは無い。
王妃とお茶を飲んだり、騎士団の厩舎にトッキーの世話に行くくらい。
折角王宮にいるのだからと、陛下の許可を貰って禁書庫の魔導書を読みふけっていた。
ふと目についたのは召喚術。
殆どの魔法は父さんが教えてくれたが、召喚術は教えてくれなかった。
魔法を教えるには実際に見せるのが1番だが、父さんは3度召喚して3度とも神獣様。
召喚術を実演すると4柱目の神獣を呼び出すのではないかと恐れたらしい。
神獣様を召喚する可能性について魔導士長に聞いてみた。
「馬丁爵閣下は魔力量も魔力の波動も尋常では有りませんでした。カスミ様の魔力波動は馬丁爵閣下に比べると多少人間に近いので通常の召喚が行えると思われます。」
ちょっと待て。
父さんに比べると、って何だ?
多少人間に近い、ってことは人間とは違うのか?
思わず突っ込みたくなったがぐっと堪えた。
言えば召喚を止められそうだったから。
念のため、召喚術の発動には魔導士長と魔導士4名が付き添ってくれることになった。
私が1週間掛けて書き上げた魔法陣を王宮の練兵場に広げる。
何故か妃殿下と王太子殿下も見に来ている。
魔導書を参考に、小さな飛行系召喚獣の可能性が高くなるような魔法陣にした。
遠い所との連絡用召喚獣が欲しかった。
空を飛べても神龍様では目立ちすぎて連絡用には使えない。
小さな可愛い鳥が望み。
“小さき鳥、我の召喚に応えよ”
念じながら魔法陣に魔力を送る。
魔法陣が輝く。
良かった。
凄い光だけど、父さんのような金色の光では無い。
眩い光が収まると、魔法陣の中央には羽を広げた小さな金色の、・・・トカゲ?
体は30㎝くらい、確かに小さいけど、鳥じゃないよね。
鑑定を掛ける。
“サンダードラゴン”
やらかした?
小さいけどドラゴン種らしい。
“名を付けよ”
まさかいきなり念話が出来るとは思わない、ビックリして一瞬思考がフリーズする。
“早く名を付けよ”
“・・・サンダードラゴンだからサン。サンちゃんって何となく可愛いでしょ?”
すぐに立ち直って名前を考えた。
“サンであるか、良かろう”
サンちゃんが魔法陣から出て来た。
ヒョコヒョコと歩く姿が可愛い。
9月投稿開始の初心者ですので乱文、誤字はお許し下さい。
現在 馬丁爵 https://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/2464486/
竜騎士 https://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/2465526/
自由人 https://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/2469791/
闇と光 https://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/2473070/
以上の4作品を毎朝6時10分に投稿中です。お目汚しになるかも知れませんが一度覗いて頂ければ幸いです。
作者は主人公同様に豆腐メンタルなヘタレですので、ブックマークして頂ければ執筆のエネルギーになります。
これからも頑張って書き書きするので宜しくお願いします。




