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馬丁爵 我が家はお馬さん優先です  作者: 免独斎頼運
第2章 男どもは・・・
27/48

27 襲われました

“カウンターバリア”

“麻痺“

ドド~ン!

”結界“

厩舎に向かおうと歩いていたら黒装束の男達に襲われた。

少し前から悪意と殺気を感じていたので余裕。

そう言えば父も魔法学院で何度か襲われたって言っていたと思い出す。

ドサッ。

木の上から弓を持った男が落ちて来た。

カウンターバリアで衝撃を食った男。

周囲には5人の男が倒れている。

雷を落とされて体が痺れている男達。

結界を張ったまま周囲を探知する。

倒したと思った瞬間が油断となる、ミョウコ家の子供達は幼い時から教え込まれている。

屋根の上に伏せている男を見つけてマーキングをした。

「どうした!」

雷の大きな音が聞こえたらしく2人の警備員が駆け付けてくる。

「暗殺者です。矢にもナイフにも毒が塗ってあります。気を付けて下さい。」

警備員が笛を吹いて仲間を呼び集める。

屋根の上の男は既に消えていた。

防御系の魔法は小さな時から何度も何度も練習させられている。

“自分を護れ、馬を護れ“

ミョウコ家の家訓は伊達ではない。それだけの訓練はさせられた。

「無事か!」

兄と王太子殿下も駆けつけてくれた。

王太子が焦っている。

「カスミは殺されても死にません。」

兄が平然と言い放つ。

兄さん、それは無い。

私だって殺されたら死ぬ、と思う。多分。

信頼しているのか判っていないのか、兄は不思議な人間だ。


マーキングの説明をすると、王太子がすぐに近衛騎士団を呼んだ。

近衛騎士団と共に向かったのは大きな屋敷。

「侯爵家か。」

王太子が呟いた。

「何の用だ。」

門番が居丈高に誰何する。

「王太子のタツタ=ドラゴである。道を空けよ。」

「しばし、しばしお待ちを。」

近衛騎士が門番を脇に押しやり、王太子に道を空ける。

屋敷のエントランスでも同様のやり取りをして屋敷に押し入った。

打ち合わせ通り王太子は侯爵の執務室に、私はマーキングした男の確保に向かう。

方向が一緒だった。

マーキングした男がいる部屋に押し入った。

「侯爵、久しぶりだな。」

「たとえ王太子と言えどもこのような無礼は許せませぬぞ。」

「その男です。」

私がマーキングした男を指さすと、騎士が男を捉えて縛り上げる。

「無礼だぞ!」

「全員を王宮に連行しろ。」

侯爵と執務室にいた執事らしい男、2人の護衛が王宮に連行された。



王太子は忙しいのでトッキーとドランに食事をあげる。

「「グルルルル~。」」

王宮から貰って来た大きなリンゴ。

2頭は目を細めて喜んでいる。

隣では兄がアマツンにリンゴをあげている。

「王宮のリンゴは旨いな。」

「ほんと。」

私達もリンゴを齧っている。

「カスミを殺そうとするとは相当なバカだな。」

「どういう意味よ。」

兄の言葉にむっとした。

「そのまんま。」

「・・・・。」

兄には何を言っても無駄だと悟った。



学年末の試験が終わり、学院内が寂しくなった。

長い夏休み、学院に残っているのは領地が遠い生徒か旅費を節約したい生徒。

私たち兄弟はどちらでもないけど残っている。

帰ったら父の仕事を手伝わされるだけだから。

父の仕事を手伝うのは親孝行にもなるから不満は無い。

ただ、私達に仕事を丸投げした父が母達に膝枕を強請って母達の邪魔するのが困るのだ。

本来は父がするべき仕事を全て引き受けている母達は忙しい。

昼間は領主の仕事、夕食後は膝枕で父の耳掃除。

夜は夜で・・・。

もう何年も同じ生活リズム。

私達が帰ればまっ昼間から膝枕、そしてまっ昼間から・・・。

仲が良いのは嬉しいが、いささか目に余る。

弟妹達も迷惑する。

領地を出る時に長期休暇にも帰らなくていいと母達が言ったのはそんな理由だ。

今日は王国騎士団との模擬戦。

王国騎士団には8頭の豪馬がいるが、職務の都合でなかなか模擬戦が組めないらしい。

そこで、私達3人が王宮の厩舎で待機して時間の空いた騎士との模擬戦をすることになった。

豪馬騎士のレベルを上げる為、決してリンゴで釣られたわけでは無い、多分。


要は王太子の仕事が滞って来たので、授業の無い夏休みに王太子を王宮に閉じ込めて仕事をさせようという王妃殿下の采配。

私の部屋は王妃殿下の隣。

最初は気まずかった。

王妃殿下は隣国の王女。

王国に脅され、家臣の首を持って謝罪に来た王が前国王と意気投合して婚約に至ったことは有名な話。

妃殿下の父を脅したのは私の父。

まあお母様達の筋書き通りに演じただけだが、家臣の首を差し出さざるを得ない状況に追い込んだミョウコ家に良い思いを持っているとは思えなかった。

ところが朝、昼、晩と私が豪馬に食事を与え終わるまで待って、一緒に食事してくれた。

自然に色々と話すようになり、たまたま首を切られた家臣の話になると妃殿下とは思えないような悪口の連発。

「最初に陛下を焚きつけたのは弟の公爵。一撃で帝都を破壊など有り得ない。下賤な生まれの馬丁に箔を付けるために作りだされたおとぎ話と断言したの。国土の4分の1を失って弱体化した今こそ従属国にする絶好の機会だと言ってね。」

「はあ。」

「それに乗ったのが外務担当の大臣。あのバカ大臣は馬丁爵など口が上手いだけで何の能力も無い。馬好きの国王を上手く垂らし込んで出世しただけだ。とか下賤の輩だから少し脅せばビビリ上がって何でも言う事を聞くって言っていたのよ。」

「まあ、そうですの?」

確かに平民出身だけど、お父さんの口下手は尋常のレベルでは無いぞ。

「馬丁爵閣下の迫力に陛下の前でおしっこちびって引っ繰り返ったけどね。」

「あはははは。」

「魔導師長なんか馬丁の魔法など生活魔法程度。魔法無効の謁見場に誘い込めば赤子の手を捻るように取り押さえられる。馬丁爵を捕らえれば馬丁爵領を堂々と通り抜けて王都まで進軍出来る。我が国の精鋭軍の前では弱小ドラゴ国などあっという間に滅亡だ、って言っていたのよ。」

「はあ。」

「何が生活魔法程度よ。魔導師長でも出来ない無詠唱魔法で謁見室の壁どころか王宮の壁を幾つも突き破って王城の城壁まで壊したんだから。大陸中探しても無詠唱で壁を壊せる魔導師なんていないわ。」

お父さん、魔力を抑えたって言っていたよね。

やっぱりやらかしていたじゃん。

「はあ。」

「馬丁爵閣下が冷静な方で良かったって心から思ったわ。大臣や魔導師長が失礼な言葉を浴びせたのに初級魔法だけで済ませてくれたのですもの。上級魔法なら王城は消し飛んでいたし、神龍様にブレスを吐かれたら王国の半分が吹き飛んでいたわ。」

いやいや、あの時のお父さんは緊張でガチガチ。

お母さんに教えられたセリフを言うだけで精一杯だったよ。

「はあ。」

「だからミョウコ家には感謝しか無いの。カスミが娘になってくれた事を嬉しく思っているのよ。」

「有難う御座います。私も王妃殿下の娘になれて嬉しいです。」

「ほんとう? それなら良かったわ。」

王妃殿下が父さんを持ち上げすぎるので、家での姿を話したらめっちゃ受けた。

恐ろしい大魔法使いどころか、領地経営を嫁達に丸投げして馬と子守に夢中、嫁達には全く頭が上がらない気の弱い父など想像もしなかったらしい。


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