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馬丁爵 我が家はお馬さん優先です  作者: 免独斎頼運
第2章 男どもは・・・
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25  まさかの婚約?

夏休みも半ばに差し掛かった頃、殿下が王宮に呼ばれた。

さぼりにさぼった公務が山積みらしい。

まあそうなるな。

食事を自分で与えたいからとドランも王宮に連れて行き騎士団の厩舎に預ける事になった。

王宮騎士団にはミョウコ家の馬丁がいるので安心。



私達は学院でのんびり。

気さくな殿下とはいえ連日だと肩が凝る。

図書館に行ったり、実家に帰らなかったお嬢さん達とお茶したりの毎日。

お嬢さん達からは色々と話が聞けた。

殿下の倒した盗賊が200人を超える大盗賊団になっていたのにはびっくり。

そんなに大規模な盗賊団が王都近くにいたら陛下の権威にかかわるよ。

殿下が大魔法で炎の雨を降らせた?

初級のファイアーボール3発だよ。

2本の大槍を両手に1本ずつ持って振り回した?

あの槍は重いから1本しか持てない、2本は無理。

王子が一人で盗賊を蹂躙し、護衛の2人はただ茫然と見守るだけだった?

護衛の2人は厩舎で寂しく待っていたよ。

噂には尾鰭が付くというのは本当だった。


夏休みが終わりドランも学院に帰って来た。

念話で聞いてみたら、王宮では毎日美味しい果物が食べられたそうだ。

王宮の方が良かったのかと聞くと、殿下の愚痴を聞かされるので・・・だった。

久しぶりに会った殿下は少し痩せたみたい。

うん、王族は大変だ。



私達は2年生に進級、新入生が入って来た。

昨年同様1年と3年の授業、“豪馬の基礎知識”を担当した。

来年からは正式科目として騎士団の馬丁が担当することに決まり、担当する2人の馬丁と昨年来れなかった教師10人程が授業を見学している。

1年生に問題児がいた。

「カスミお姉様・・・・。」

「カスミお姉様・・・・。」

お前は金魚の糞か、怒鳴りたくなるほど私の後を付いて回る。

それ以前に私はお前の姉ではない。

怒鳴りたくなるのをぐっと堪える。

殿下の腹違いの弟、第2王子テンリュ殿下。

母親は違うが二人は仲良し。

関係者以外立ち入り禁止の厩舎でも第2王子ならフリーパス。 

殿下がドランに夢中なので、私の後をついて回っている?

豪馬が欲しいのなら私よりも兄さんに頼め。

あんな兄でも一応はミョウコ家の嫡男だ、一応だけど。

私について回る理由が判らない。



秋も深まったある日、魔糸を使って新しい細かな魔法陣を描く事にチャレンジした私は、父のようにすらすらと描けないことにイライラしていた。

トッキーに慰めて貰おう、そう思って厩舎に行くと殿下兄弟がいた。

「カスミお姉様、・・」

「私はあなたのお姉さまでは有りません。」

弟殿下に八つ当たりした。

「兄上と結婚なさるのですから、いずれお姉様になります。」

弟殿下が当然のように答える。

「テ、テンリュ!」

タツタ殿下が真っ赤になって怒ってい・・・ない?

「いつも言っているじゃないですか。俺はカスミと結婚するって。」

「待て、ちょっと待て。」

殿下が焦っている。

「言いましたよね。」

「・・・言った。だがまだカスミには言っていない。」

「今言えばいいじゃないですか。」

「お、おう。カスミ、俺と結婚してくれ。」

「はいぃ?」

何がどうしてそんな話になったんだ?

予想外の展開に思わず首を傾げて聞き返す。


「やった~、カスミお姉様が“はい”って言ってくれた。」

「お、おう。」

いや、聞き返しただけだから。

ちゃんと疑問符も付けたぞ。

承知はしてない、否定しようと口を開きかけた。

「兄さん、陛下に報告しよう。」

「お、おう。」

兄弟が走り去った。

口を開けかけたまま後に取り残された私。

兄が腹を抱えて笑っている。

ムカつく。

「兄さん!」

「いや、ハハハ、おめでと、ふふふ。」

拳で兄の頭を張り倒した。



兄と二人で王都屋敷に行ってルタカに相談した。

「よろしいと思います。」

「はあぁ?」

予想外の反応にビックリ。

「このような事でも無ければカスミ様は結婚出来ません。」

「何で?」

「お館様が全て断ってしまわれます。今までも多くの婚約話がありましたが、まだ早いとお館様が全てお断りになりました。学院卒業までに婚約が決まらない女性は行き遅れと陰口されるのが王国の常識。キリシ様もハグ様も心配されておりました。良い機会です、婚約の話を進めましょう。」

何となく納得が出来ないままに屋敷を後にした。



社交シーズンに先立って王家から第1王子の立太子と私の婚約が発表された。

同時に馬丁爵の引退とユッキ~の侯爵叙爵が発表された。

「へっ?」

これが婚約を知らされた時の私の反応。

昨日の今日だぞ。

“はいぃ?“からだとまだ1日経って無いぞ。

いくら何でも早すぎるだろうに。

お祖母様が訪ねて来て説明してくれた。

お祖母様はキリシ母様のお母様、前宰相の夫人。

「お父様は自己評価が低いので気軽に引退願いを出したが、馬丁爵引退とは馬丁爵が王家から距離を置くと言う事。王国最大の戦力である馬丁爵が王家を見放したとなれば周辺諸国は好機とばかりに戦争を仕掛けてくる。だから王家としては引退を認められないの。」

ここまでは私も知っている。

「王太子と馬丁爵長女の婚約は両家の結びつきの強さを諸外国に知らしめる最善の手段。王太子がカスミと結婚できるよう王家は全力を挙げのよ。騎士学院志望の第1王子を魔法学院に入学させたのもその一環。キリシとハグもカスミを行き遅れにしたくないから王家に協力する事にしたの。」。

「はあ。」

「最大の障害は娘を猫可愛がりしている馬丁爵閣下。あとは判るわね」

「はあ。」

カスミが承知したと聞いた王家は馬丁爵の横やりが入る前に即行で立太子との婚約を発表、馬丁爵の引退を認め、馬丁としてのんびり過ごすという長年の望みを叶えることで馬丁爵の怒りを躱す。

後は母達がなんとかするという筋書き。

弟妹達はいつも通り母達から説明されている筈。

知らないのは父と兄と私の3人だけなのだろう。

ミョウコ家ではよくある方針決定手続き。

結婚はあくまでも本人の自由意思という母達の姿勢は確固たるものなので、私には知らせなかったとお祖母様が説明してくれた。

「はぁ。」

政治的な判断は納得いくが、私自身としては何となく納得出来ない。

だいたい私が結婚を承諾したと殿下達が勝手に判断しただけだ。

ちゃんと首を傾げたし、疑問符もしっかり付けたぞ。

ぐぬぬ。



翌日王宮に呼び出された。

王妃教育の内容を決める審査の為である。

小さな事にでも時間を掛ける貴族社会なのに手際が良すぎ。

“はいぃ?”からまだ二日だ。

通常は10歳で王子の婚約者候補を決め、王妃教育を始める。

12歳で候補を5~6人絞り込み、15歳の成人と同時に婚約者を決めて立太子。

この時点で王妃候補は既に5年の王妃教育を受けている。

王妃教育を受けていない私にどのレベルから王妃教育を受けさせるかを判断するのだ。

要するにペーパー試験と口頭試問。

ペーパー試験は学院の試験レベル。問題なく満点クリア。

問題は社交界や貴族関係の口頭試問、と思っていた。

まだ社交界にデビューしていない。当然社交界や貴族には疎い。

蓋を開けてみれば知っていることばかり。

思わず裏事情まで説明したくなるレベル。

思い当たるのは母達の教育。

馬丁から公爵格まで出世したミョウコ家は周囲からの妬みや恨みを買う事が多かった。

母達は万が1の場合には子供達の誰かが引き継げるようにと領地の方針や政策を決める時には子供達を呼んで判り易く説明してくれた。

王国だけでなく、他国の情報も子供達に教えてくれた。

元公爵令嬢の情報網は伊達ではない。

先代の王妃殿下をはじめ、先代の宰相夫人、高位貴族の夫人達。

女の情報網は恐ろしい。

母達が呼ばなかったのは政治に不向きな父と長男だけ。

向いていないと本人も自覚しているので問題は無い。

兄弟で助け合えば良い事。

その代わり父と兄は豪馬は勿論、魔獣や土壌、気候の知識まで卓越している。

餅は餅屋。万能である必要は無い。

お陰で社交界デビューしていない私も弟妹も社交界の裏事情まで詳しくなった。

学院に入学後も時々総支配のルタカから最新情報の説明を受けたので問題は無かった。


数多い科目の中で唯一問題ありとされたのはダンス。

ミョウコ家にはダンスホールも無ければ専属の楽団もいない。

ありていに言えばダンスをしたことのある子供は一人もいない。

学院卒業まで週に3回、放課後にダンスの先生の所に通う事になった。

学生時代から父を知っている陛下と宰相は、“馬丁爵は何をやらせても抜きんでた力を持っていた。ダメなのはダンスと女だけ”と口を揃えて教えてくれた。

やばいじゃん。

私も男には自信が無い。殿下の目的にも全く気付かなかった。

お父さんの血?

不安の中でダンスの練習が始まった。

3回目のレッスン、合格を頂き、ダンスの特訓は1週間で終わった。

うん、私はハグお母さんに似ているって言われていたのだ。

良かった。


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