23 王都最強?
「凄いね。さすがはアマツンだ。次は左ね。」
殿下が嬉しそうにアマツンに話しかけている。
騎士団の訓練場で何度も練習させて貰ったらしく、豪馬の扱いに慣れている。
ユッキ~は真剣な目で見つめている。
ユッキ~が目を離すとアマツンが拗ねるから。
ユッキ~が見てくれているからアマツンは頑張っているのだ。
豪馬の常識だが、理解できる人は意外なほど少ない。
殿下は朝早い豪馬の朝食時間に来てユッキ~と一緒にアマツンに食事を与えている。
昼もユッキ~と一緒にアマツンに昼食を上げてから時間ギリギリに食堂に駆け込む。
放課後はアマツンの運動に付き合って夕食時間ギリギリに食堂に駆け込む。
公務で来れない日もあるが、殆ど毎日アマツンに向き合っている。
今まで騎乗訓練に来た王族や貴族達とは違うようだ。
冬休み直前、“豪馬の基礎知識”の時間に生徒達を馬場に集めて豪馬を見せた。
年末年始の社交シーズンに行われるパーティーで豪馬の正しい知識を広めて貰うため。
ユッキ~が騎士の正装でアマツンに跨っている。
「まずは馬場を軽く1周走って貰います。次の1周は全力疾走です。」
進行役の私が生徒や先生方に声を掛ける。
街中で馬車を牽く豪馬は見かけているだろうが、全力疾走する豪馬は殆どの者が見た事無い。
ユッキ~がアマツンを走らせる。
背筋を伸ばしてアマツンの揺れに合わせて跨っているだけ。
「「「速い!」」」
声が上がる。
あっという間に広い馬場を回って戻って来る。そのまま全力疾走に入る。
ユッキ~が風を避ける為に前かがみになる。
「「「オオ~ッ!」」」
アマツンが猛スピードで馬場を駆け抜けた。
「腰ベルトで固定されているので、大槍や弓という両手で扱う武器が使えます。まずは大槍。」
ユッキ~が大槍を振り回す。
アマツンは実戦さながらに左右にステップを踏み、敵を弾き飛ばす動きを見せる。
「ユッキ~のイメージでアマツンが動いています。騎士は豪馬の動きに気を取られず自由に戦えるので強いのです。今使っている槍は父の作った豪馬騎士団専用大槍ですので魔鉄の鎧も1撃で両断出来ます。」
「次は弓を使います。ずっと両手を離していられるので狙いを付け易いです。」
ユッキ~が猛スピードで走りながら馬場の横に立てた的をかなり離れた位置から次々と撃ち抜いて行く。
的を撃ち抜く度に皆が大きな拍手を送っている。
ユッキ~が戻ってくるとさらに大きな拍手。
アマツンがどうだとばかりに頭を上げている。
「御覧のように豪馬が騎士の考えを感じられることで戦い方の幅が広がります。豪馬は褒められるのが大好きです、アマツンにもう1度大きな拍手をお願いします。」
皆が力一杯手を叩いてくれる。
「ガルルルル!」
アマツンが嬉しそうに嘶いた。
冬休みになった。
第1王子ともなるとさすがに社交シーズンは忙しい。
それでも結構な頻度でアマツンの朝食時間に来る。
私達は授業の間に触れ合えなかった分を補う為に朝から晩まで愛馬と一緒。
学院は王都の北門に近いのでユッキ~と一緒に何度か遠乗りにも行った。
風邪は冷たいが、嬉しそうに疾駆する愛馬に癒される。
今日も王都からかなり離れた所まで遠乗りに出た。
ふと不穏な気配を感じる。
「盗賊かな。」
兄も探知したようだ。
「多分そうね、行きましょう。」
遠乗り用の軽い鞍では有るが固定ベルトは付いている。
今日は私が得意の弓を持って来ていない。
走りながらベルトを着け、槍受けから大槍を外す。
兄は既に槍を振り回している。
いつもの準備運動。
500m程先の街道上に3台の馬車が止まり、数十人の男達が取り巻いているのが見えた。
護衛らしい7~8人の冒険者がいるが多勢に無勢。半数は深手を負っているようだ。
”ストーンバレット“”ストーンバレット“”ストーンバレット“”ストーンバレット“
走りながら魔法を連発する。
砲弾形の小さな石が高速回転しながら真っ直ぐ盗賊に向かって飛んで行く。
兄もウィンドカッターを連発している。
2人とも魔法の射程は800mを超える。
遥か彼方で盗賊達が次々と馬から落ちる。
500m以内で的を外すことはまず無い。馬を傷つけずに盗賊の胸を正確に撃ち抜く。
全力疾走する愛馬によってあっという間に馬車の所にたどり着いた。
兄は既に大槍で盗賊達を血祭りに上げている。
豪馬の扱いに関しては私よりも兄の方が遥かに凄い。
私が弟妹の世話をしていた時もずっとアマツンと一緒にいたからだ。
父と同様の豪馬好きだから仕方がないけど、もう少し弟妹の世話を手伝って欲しかった。
そんな事を思い出しながら、私も負けじと大槍を振り回す。
愛馬達も盗賊の馬を弾き飛ばし落馬した盗賊達を踏みつけている。
ほんの数分で盗賊達が逃げ始めた。
”ストーンバレット“ ”ストーンバレット“ ”ストーンバレット“ ”ストーンバレット“
ミョウコ家の人間相手に真っ直ぐ逃げるのは殺して下さいと同義。
盗賊は次々と背中を撃ち抜かれて馬から落ちる。
立っている者は誰もいなくなった。
馬車の所に戻ると、兄が冒険者らしい男と話をしている。
私は怪我人に治癒魔法を掛けて回る。
死者はいないようだ。
頑張ったトッキーに鞍の後ろに付けた食料箱のリンゴをあげる。
良い子して兄を待っているアマツンにもリンゴをあげる。
“よく頑張ったね”
“”えらい?“”
“とっても偉かったわ”
2頭から喜びの感情が伝わって来る。
私も嬉しくなった。
「盗賊の始末は冒険者に任せた。帰ろう。」
兄が王都に馬首を向ける。
跪いて敬意を示す冒険者と商人に片手を上げて私も王都に馬首を向けた。
今朝も殿下が朝食に姿を見せた。
「昨日は大活躍だったそうだな。」
「何が?」
「何がって、盗賊を退治したんだろ?」
「遠乗りに出たらたまたま盗賊がいた。」
兄がアマツンの方を向いたまま答える。
「王都最強の2人と出くわすとは、ご愁傷様としか言いようが無いな。」
「王都最強って何よ。」
妙な言い方に首を傾げながら聞いてみた。
「巷ではそう呼ばれているそうだ。」
「騎士団の方々に失礼よ。」
「1個小隊の10騎でも42人の盗賊を数分で全滅は無理だ。文句は出ないさ。」
「アマツンとトッキーが頑張ったお陰よ。私達じゃないわ。」
「まあそういう事にしておこう。」
殿下が笑っている。
自由人 座右の銘は命を大切にの連載を始めました。お時間が有りましたらご一読下さい。https://ncode.syosetu.com/n0038jn/




