22 クラスメイトは非常識です
「カスミです。馬丁の長女で、父と一緒に馬を育てています。得意は治癒魔法、馬の怪我を治すのが得意です。ついでに兄の怪我を治す時もあります。」
「兄はついでか?」
「はい、いつも治してあげると兄は安心して危険な事をしますから。」
笑顔で答える。
「では次。」
「ユッキ~です。カスミより10日先に生まれたカスミの兄です。得意は土魔法、土地を平らにしたり畑を耕すことが出来ます。」
「魔術師より農民になった方が良さそうだな。」
誰かが皮肉を言った。
「はい、作物を育てるのも好きですから農民も良いかなって思っています。」
「馬のついでに怪我を直して貰っている兄貴か。」
「うちは馬が1番、人間は後回しですから。」
「お前らは馬以下か。」
クスクスと笑い声が聞こえる。
「馬は同族で殺し合いをしませんから人間よりも偉いです。」
笑い声が止む。
「貴様、俺をバカにするのか?」
「とんでもないです。父がそう教えてくれました。」
「親がバカだから息子もバカか。」
兄に突っかかっていた生徒が吐き捨てるように言う。
「その辺でやめておけ。ユッキ~の父上は王国の英雄馬丁爵閣下。それ以上言うと、お前の家が消えてなくなるぞ。」
私達と同じ最後列の席から声が掛かった。
「馬丁爵閣下、・・・。」
粋がっていた生徒の顔が青ざめる。
「馬って、2万の軍を50騎で蹴散らしたっていう伝説の豪馬ですか?」
最前列の生徒が驚いたように聞く。
「それは父の騎士団です。俺の愛馬はアマツンって言うんですけど、とっても可愛くて賢いです。一緒に学院に来ています、カスミの愛馬トッキーも一緒です。勿論ちゃんと許可を貰いましたよ。」
王国騎士団には数頭の豪馬がいるが、将来的に学院も豪馬の飼育が出来るよう、二人の愛馬を預かることになったのだ。
「見たい。」
「俺も。」
みんなが盛り上がった。
「はいはい、豪馬との対面は後日機会を設ける。その辺で次にいくぞ。」
担任の一言で教室が静かになった。
「第1王子のタツタ=ドラゴだ。叔父の宰相が馬丁爵閣下のご学友なので俺も親しくさせて貰っている。在学中に豪馬の騎乗資格が取れるように頑張るつもりだ。」
先程最後列から発言した生徒だ。
豪馬好きの宰相に触発されて豪馬好きになったと後で聞いた。
学院が豪馬を許可したのは殿下が豪馬の騎乗訓練を受けやすくするためもあったようだ。
豪馬の騎乗資格はミョウコ家が行う資格試験で合格した者だけに与えられる。
公務で忙しい王族は豪馬と共にいる時間が持ちづらく、まだ騎乗資格を得た者はいない。
陛下と宰相は騎士団の馬場に行って豪馬を眺めるのが楽しみらしい。
時には少しだけ乗せて貰えることもあるそうで第1王子の豪馬好きを後押ししていると王都の執事から聞いている。
「在学中は王族も平民も平等、タツタと呼んでくれ。得意は火魔法と風魔法、大火事を起こすのは上手いが消すのは苦手なので使うと怒られる。」
教室の笑いを誘う。
「次。」
「ラサメです。父は王都で魔道具関係の商会を営んでいます。得意は水魔法です。」
「次。」
「◇▽侯爵家二女のウシオ=◇▽です。ウシオと呼んで下さい。得意は風魔法です。」
胸の大きなお嬢様だ。なんとなく自分の胸に視線を落とす。はぁ。
入試成績順に自己紹介が続いた。
「豪馬と言えば、強い、速いが普通の印象ですが、一番の特徴は賢いです。」
今年から始まった新講座、“豪馬の基礎知識”。
私と兄のユッキ~が担当している。
初回の今日は私の担当。
教室には10人ほどの先生方も受講している。
ミョウコ家直営の“豪馬運輸”が王国内の輸送部門を担うようになってからそこかしこで豪馬を見かける事も多くなり、豪馬の正しい知識を広める事が必要となった。
「人間の言葉がある程度判りますから悪口を言った人間をしっかり覚えます。逆に褒めてあげると凄く喜びます。それ以上に凄いのは、人間の心を感じる事です。」
一呼吸おいて教室内を見回すと生徒達も聴講している先生方も必死にノートを取っている。
大陸初の科目なので教科書も参考文献も無いのだ。
「人間には善人の振りをして人を騙す詐欺師がいます。豪馬には善人の振りが通じません。心の中にある好意や悪意を感じ取りますから、ご馳走を持って笑顔で近づいても、心の中に悪意を持っていれば一撃で吹き飛ばされます。好き嫌いは個人の感情ですから仕方ありませんが、豪馬を嫌っている人は絶対に近づかないで下さい。」
皆が驚いている。
「感情を感じ取る力は同じ人間と長く行動を共にすることで意思を感じ取る力へと発展します。大体5年寝食を共にすると、乗り手の考えを理解して、命令をしなくとも乗り手の希望通りに動いてくれます。」
「豪馬に手綱を付けないのは、手綱で命令しなくていいと言う事ですか?」
「一番の理由は豪馬が嫌うからです。父の話では、自分が信用されていないと思うらしいです。」
「手綱無しで大丈夫なのですか?」
「大丈夫になるまで1年程は馬場から外に出しません。」
「豪馬騎士団は本当に強いのですか?」
「豪馬騎士団が強いのは騎士のイメージ通りに豪馬が動くので、騎士は両手を使って戦いに専念できるからです。騎士は腰をベルトで固定しておけば安心して大槍や弓を使えます。」
「ほ~。」
先生方からも感心したような声が漏れる。
「そこまで豪馬を馴らすには毎日愛馬と過ごし、食事の世話や手入れも騎士自身でする必要があります。豪馬は心を通わせた人間としか細かな意思疎通が出来ませんから。」
今日は兄のユッキ~が講師をしている。
「豪馬で大変なのは食事です。まずは量です。馬の5倍以上食べます。父が初めて豪馬と出会った頃は、領内の食料が不足するほど食べたので、財政担当の母が頭を抱えたと聞いています。」
「今は豪馬草という栄養価が高いのに安い穀類が見つかりましたからましになりましたが、それでも王国騎士団の平騎士だと給与の半分以上を豪馬に食べられてしまいます。」
「食事の順番も豪馬が先で騎士が後。逆にすると自分が大切にされていないと豪馬が拗ねます。」
「豪馬が拗ねるとどうなるのですか?」
「手を抜きます。いつもよりゆっくり走ったり、動かなくなったり、酷い時は乗せてくれません。」
「人間みたいですね。」
「心を感じるので、ある意味では人間よりも始末に負えません。言葉や表情で誤魔化せませんから。」
「そんな時はどうするのですか?」
「ひたすら謝ります。心を込めてひたすら謝ります。ですから父は母に謝るのが上手いです。」
「「「ぷっ!」」」
生徒だけでなく先生方も噴き出した。
「父は馬丁ですから母達や子供達よりも馬を優先してしまう事が多くて、しょっちゅう謝っています。馬丁爵家の序列は、二人の母、馬、長女、次女、3女、2男、3男、そして私、父の順です。」
皆が大笑いしている。
兄の授業も好評でした。台本を書いたのは私。
兄に任せると話がぶっ飛びすぎて家族でも理解が出来ない。
「馬丁爵様は凄い魔導師って聞いたけど、本当?」
クラスメイトと昼食を摂っていたら突然聞かれた。
「凄いかどうかは判らないけど、繊細な魔力の使い方が出来るわ。」
「繊細って?」
「魔糸を使って銅貨1枚に1000文字位刻める。」
「魔糸?」
「魔力の糸。物を掴んだり細工や成形が出来る魔法?」
「カスミも使えるの?」
「コントロールが難しいから細かい事は無理。冬の寒い日にベッドに寝たまま服を手繰り寄せるくらいかな。」
「色気の無い使い方ね。」
「だって寒いのは苦手だもん。」
「馬丁爵様は攻撃魔法も凄いんでしょ?」
「父さんは攻撃魔法が嫌いだから使うのを見た事は無いわ。」
「でも皇都を魔法で壊滅させたって聞いたわ。」
「魔法で人を殺したのは馬を護る時だけだって言っていたから、きっと馬を護るために仕方なく使ったのだと思う。」
「馬を護る時だけって、・・・。」
「・・・・、なんかもったいない気がする。」
女の子達は微妙な反応。
「ミョウコ家では当たり前よ。みんな役に立つ魔法しか練習しないもの。」
「そうなんだ。」
「私も兄もまじめに練習した攻撃魔法は受験用の魔法だけよ。」
「それで二人とも満点って、・・・。」
「本気で練習したら馬丁爵様みたいに街を壊滅出来そうな気がする。」
「嫌よ、街を破壊したら馬が死ぬじゃない。」
非常識な事を言う女の子達に正論で返した。
「そう言う問題なの?」
「人じゃなくて馬?」
「なんか違うような気がする。」
この子達には常識が通じないようだ。




