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21 隠居します

もう昼時間を過ぎているが誰も何も言ってこない。

メイドさんが申し訳なさそうな顔で立っている。

豪馬達が心配になったので、メイドさんに声を掛けて馬場に向かった。

騎士達は鎧を脱いでくつろいでいる。

俺達も鎧を脱いだ。

「昼食は貰ったか?」

「いえ、誰も来ないので携行食を食べようと思っていました。」

「豪馬にはちゃんと上げましたよ。おやつ程度ですけど。」

豪馬の食事は最優先、食料箱に入れて持参した食料を食べさせたらしい。

本来豪馬は1日中食べ物を食べているが、野生で見つけられる食べ物の量は知れている。

色々と研究した結果、1日2食で十分と判ったが厩舎ではお昼におやつを上げている。

何も食べていない豪馬の前で昼食を食べるのは気が引けるから。


「よし、みんな並べ。」

騎士達にウェストポーチからサンドウィッチを出して渡してやる。

豪馬の食糧は持って来ているが騎士達の食糧は僅かな保存食しか運ぶ余裕が無い。

俺のウェストポーチは空間魔法で広げてある、事になっている。

亜空間倉庫の存在は秘密だ。

「さすがにマヤ様のポーチは収納量が多いよな。」

「空間魔法ってやつらしいけど、大陸でも数人しか使えないらしいぞ。」

「おかげで旨い食事が食える。有り難い事だ。」

騎士達に食事が行き渡ったので俺達も食事にした。

「キリシ様に可能性があるとは聞いていたが、本当に食事も用意しないとはな。」

アタゴがブツブツ言っている。

「まあいいさ。暇だからぶらぶらしてみるか。」

俺達は城内を散策した。


城壁に登ると眼下には領都の街並み、街壁の向こうには戦場となった草原が一望出来た。

あちこちで死体を焼く煙が上がっている。

死体から剥ぎ取ったらしい鎧や武器を両手で抱えて運んでいる者もいる。

あちこちに旗が立っているのは縄張りを主張しているようだ。

もう伝令の姿は無い。

街を歩いてみた。

戦の直後には大勢の人がいたが、今は殆ど人気が無い。

歩いているのは武器や防具を抱えた男達くらいだ。


「おい若造。」

嫌な予感。振り返るとガラの悪そうな男が5人。

「良い剣を持っているじゃねえか。俺によこしな。」

「はぁ。」

ため息しか出ない。

「あ~あ。俺知~らない。」

「ご愁傷さまです。」

アタゴとタカオが一歩下がった。

「早くよこすんだよ。」

男が殴りかかって来て、空を飛んだ。

ゴワ~ン。

どこかの屋根に落ちたらしい。

「なんだ?」

「お前、何をした。」

「空から見る景色も良いかなって思った?」

「ふざけるな!」

別の男が剣を抜く。

“ウィンドカッター”

剣が根元から切れた。

「てめえ!」

握っていた柄を投げ捨てて殴りかかって来て、空を飛んだ。

残った3人が警戒して1歩下がる。

「てめえ何もんだ。」

「何もんだ、と聞かれたら何と答えればいいの?」

アタゴに聞いてみた。

「・・・、このお方は貴族序列第3位、馬丁爵閣下である。頭が高い、控えおろう!」

アタゴが声を張り上げる。

時々遊びでやっているスケさんごっこのセリフ。

どうなるのかと思ったら、男達は後ろを向いて逃げちゃった。


夕方になったので馬場に帰った。

騎士達が豪馬に食事を与えている。

俺達も自分の豪馬に食事させた。

「誰も来なかったか?」

「来ていません。」

「食事を配るから並べ。」

騎士達に食事を配り、俺達も食事した。

豪馬は地面に蹲って寝る。

騎士達は豪馬に寄りかかって寝始めた。

俺もロクに背中を預けて寝た。


周囲の物音で目が覚めた。

騎士達が豪馬に食事を与えている。

夜が明けている。

俺もロクに食事をあげた。

騎士達に朝食を配り食事にする。

「騎乗用意。」

騎士達が豪馬に鎧を着け、自分達も鎧を着ける。

「騎乗。」

全員が豪馬に跨り、正面階段前に行って整列した。

階段下の衛兵が驚いている。

「侯爵殿に馬丁爵は帰ったとお伝え下さい。」

それだけを言い残して城を出る。

領都の大門を出た所で馬を飛ばして騎士が追いかけて来た。

「お待ちくだされ。」

「何か用か?」

「急な出立、いかなる訳でしょうか。」

「昨日は、何の連絡も無かった。昼食も夕食も、馬の食事さえなかった。今朝も誰も何も言ってこない。勿論朝食も無い。我々がいるのが邪魔なようなので帰る。」

「今しばらくお待ち下さい。」

「今出立せねば今日中に帰れぬ。明日になれば腹が減って倒れる者が出るかもしれぬ。侯爵には二度と援軍には来ぬとお伝えくだされ。」

「いや、し・・」

「出発!」

慌てる騎士を置き去りにして領地に向かった。


「キリシ様のおすすめコースでしたな。」

アタゴが笑っている。

「他のは変化が色々あってややこしいから助かった。」

「しかし、援軍をほったらかしで食事も出さないとは。」

タカオが呆れている。

「だから首にしたいんだろうな。」

アタゴは納得しているようだ。


侯爵は国境の砦を無策によって失い領都まで敵に囲まれた。

援軍に救われたにも関わらずに、来てくれた援軍に食事すら与えず放置した。

捕獲品の分配ばかりに係わり治安が乱れた、という理由で除爵、領地は召し上げ。

同様に捕獲品の分配争いをしていた3子爵、5男爵も除爵の上で領地召し上げになった。

砦の戦い前から王宮の監察官が何人も侯爵領で徹底的に調査、監視をしていたそうだ。

豪馬騎士団には2万の軍をわずか50騎で打ち破った事まことにあっぱれ、という陛下のお言葉と共に多額の報奨金が送られてきた。

召し上げられた公爵達の領地は代官が統治して、来年結婚する第2王子の公爵領となる。

と、キリシが教えてくれた。



豪馬騎士団の名声が上がったせいか、豪馬を手に入れようと領内に潜入する者が増えた。

中には家族を人質にして豪馬と交換しようとして子供達を狙う者もいる。

厳重に警戒しているにも関わらず、長女のカスミはもう3度も襲われた。

キリシは他国の情報部に属する暗部と言われる裏の工作員の仕業と言っていたがプロだけに証拠が無く追及は出来ない。

スラム街などに根拠地を置く裏組織も豪馬入手を請け負っているらしく、何度も厩舎を襲われた。


家族と豪馬を守る為に俺は全力を挙げた。

特に先の長い子供達には徹底的に防御系の魔法を教え込んだ。

俺や母親達に万が1の事があった時の備えまでした。

領地で育った長女のカスミには生まれた直後から念話を教え、ロクの子供の中でも特に優秀なトッキーを護衛馬にした。

バリアや隠遁、身体強化や縮地。

思いつく限りの身を護る術を教え込む。

体術や剣術は信頼できる指導者を護衛として雇い、毎日指導して貰った。

二女のオボロも同様だ。逃げ足の速いボルトを護衛馬にして、俺がいない時はカスミに防御魔法を教えさせた。

特に探知魔法が得意なオボロは広域探査で領地内にいる不穏分子をことごとく見つけ出してくれた。

王都からキリシが領都に来ると、子供達は6人。

カスミが一生懸命に念話と魔法を教えてくれた。

今では全員が豪馬を愛馬とし、全員が様々な防御魔法を使いこなせるようになっている。

俺は子供達をカスミに任せ、豪馬の習性や交配の研究に没頭した。


長男のユッキ~が8歳になった。

俺が馬丁見習いとして働き始めた歳。

キリシに頼んで隠居願いとユッキ~の家督相続願いを出した。

何でかって?

“馬丁爵閣下”が嫌だから。

何年経っても閣下と呼ばれるとケツがこそばゆい。

王宮からは保留としか言ってこない。


2年が経ち、王が退位されて王太子が即位した。

同時に義父のコンゴ公爵も宰相を公爵となった第2王子に譲った。

この機会にと思って馬丁爵の隠居願いを再度出した。

保留された。


「自分だけ隠居して俺の隠居を認めないってずるいよな。」

「マヤが隠居すると、外交上色々と都合が悪いの。」

キリシが説明してくれるが納得がいかない。

「とにかく馬丁爵閣下って呼ばれるのが嫌。」

駄々を捏ねた。

嫁達の合議でミョウコ家では俺のことをお館様と呼ぶことになった。

爵も閣下も無くなったからまあいいか。


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