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20 豪馬騎士団出陣

「マヤ様、出陣です。」

子供を乗せてお馬さんごっこをしていた俺にキリシが声を掛けて来た。

「どこ?」

「隣の侯爵領が大公国に攻め込まれました。」

大公国は最近勢力を伸ばしてきた軍事国家。

馬上で魔鉄の弓を使う弓騎兵で周辺国を滅ぼし、勢力を広げている。

と、キリシが教えてくれた。


「神獣様を戦場に出すことはなりません。マヤ様はロクに乗って出陣して下さい。」

「うん。で、どう戦うの?」

キリシが地図を広げた。

「伝令の話では国境の砦を落とし、領都に迫っているようです。マヤ様が到着する頃には街道がここで封鎖されているでしょう。ただ、援軍は早くて3日か4日後と思って油断している筈です。豪馬騎士団なら今日の夕刻にはこの地点に到着できます。ゆっくりと休憩を取って夜明け前に封鎖を突っ切って敵の本陣を目指して下さい。地形的に本陣はここかここ。夜明けにこの丘から確認して本陣に突撃です。」

「判った。」

騎士鎧を着て騎士団の駐屯場に行くと皆が準備を整えて待っていた。

豪馬達もミスリルの面宛てと胸鎧を装着している。


「進め!」

豪馬騎士団が出陣した。

地鳴りのような音を立てて50騎の豪馬騎士団が奔る。

山を越え川を渡り馬車を避けて突進する。

夕刻には予定の場所に到着した。


まずは馬に水と食事を与える。

豪馬の欠点は食べる量が多い事と、新鮮な野菜や果物が好きな事。

普段は乾草や雑穀が多いが、戦となれば別。

豪馬の鞍の後ろには豪馬の食料を入れる大きな箱が付いている。

水を入れた沢山の革袋がクッション代わりになるので激しく動いても野菜や果物が傷つくことは無い。

騎士達が水を飲み終わった自分の豪馬に食事を与える。

騎士は基本的に毎日自分の豪馬の世話をする。

何よりも意思疎通が大切なのだ。

豪馬の世話を終えてから携行した弁当を食べる。

常に豪馬優先。

嫁や彼女に作って貰ったお弁当、いないものは料理人に作って貰う。

俺はハグちゃんの作ったサンドウィッチ。

うん美味しい。

食べ終わった者から草の上で寝る。

豪馬がいるので魔獣に襲われる心配はない。


「時間です。」

起こされた。

まだ辺りは真っ暗。

「ロク。」

名前を呼ぶと直ぐに鼻面を押し付けて来る。

ロクに騎乗。

騎士団の点呼が終わったらすぐに出発。

殆どの兵には何も見えないが、俺と豪馬は夜目が効く。

“街道を真っ直ぐに進め”

「ブルル!」

ロクを先頭に50騎が1列縦隊でゆっくりと進む。

騎士達は前についていけと指示するだけ。

手綱を使う必要がない豪馬特有の騎乗術。

ゆっくりでも馬の全速力くらいのスピードが出ている。

「ブル!」

封鎖線が見えて来たらしい。

ロクは俺よりも遠目が効く。


「2列縦隊!」

騎士達が隊形を変えた気配がする。

空がぼんやりと青くなって来た。

俺の目にも封鎖線が見える。

「突破!」

ロクが封鎖線の柵を首で跳ね上げ、そのまま走り抜ける。

大きな柵が空高く飛んで街道脇に落ち、粉々になった。

後続は普通に走り抜ける。15分程で予定の丘に着いた。

豪馬に一息入れさせる。


前方を見ると大きな城から少し離れた所で陣を敷いている敵が見えた。

本陣らしい大きなテントの集まりを見つけた。

丘を下れば敵軍の横を突ける。

「戦闘準備。」

俺が囁くと次々と小さな声が聞こえる。

「戦闘準備。」「戦闘準備。」「戦闘準備。」

騎士達は腰ベルトで体を鞍に固定する。

手綱を持たないので戦闘中に振り落とされないためにはベルトが必要だ。

豪馬の槍受けから大きな槍を外して構える。

両手が使えるからこその大槍。

「楔陣形。」

「楔陣形。」「楔陣形。」「楔陣形。」

俺を先頭に敵陣突破の楔陣形を取る。


「突撃!」

丘の上から轟音を立てて50騎の豪馬が敵陣に突撃する。

「「「敵襲!」」」、「「「敵襲!」」」、「「「敵襲!」」」。

声が上がった頃には敵陣を抜け、本陣に突進していた。

あちこちに敵が倒れ、うめき声を上げている。

槍で倒した敵は少ない。

殆どは豪馬に跳ね飛ばされ踏みつぶされた者。

本陣のテントを引き倒すと、貴族らしい男達が数人飛び出して来た。

両手で持った大槍を振るうと鎧ごと綺麗に切れる。

ロクが槍を使い易い位置に旨く動いてくれる。

本陣とその付近を壊滅させた頃になってようやく敵の騎士団が突っ込んで来た。


「ガルル!」

ロクの1啼きで先頭の数頭が棹立ちになって騎士を振り落とす。

後ろの馬も腰を落としてしまう。そこへ後ろの騎馬が次々と突っ込んで大混乱。

その上を豪馬が次々と踏みつけていく。

自慢の鉄弓を撃つ暇も無く蹂躙される。

豪馬の戦い方はひたすら走り回ること。

主な技は体当たりと踏みつけ、時々大槍。

ミスリルの大槍は魔鉄の鎧を容易く貫く。

2万の敵軍に僅か50騎の豪馬。

一騎当千ではないが、1騎で400の敵を倒さなければならない、なんてことはない。

戦場では気力を失えば負けだ。


本陣を蹂躙され多くの貴族が戦死、騎士団の大半が踏み殺され残りは馬が怖がって近寄ってこない。

大半を占める歩兵達は巨大な豪馬を前に逃げ惑うだけだった。

「豪馬騎士団だ!」、「馬丁爵閣下だ!」「敵はひるんだぞ!」「打って出ろ!」

領都の街壁の上で大勢が叫んでいる。

大門が開き、侯爵軍が飛び出してくる。

勝敗は決まった。

攻城兵器や食料、予備の武器などを乗せた馬車を置き去りにして一斉に敵が逃げ出す。

殿軍がいない撤退戦は追う側が一方的となる。


「丘!」

俺の声に呼応してあちこちで声が上がる。

「丘!」「丘!」「丘!」「丘!」「丘!」

豪馬騎士達が戦の前に休憩した丘に集まった。

「点呼!」

「第1無し。」「第2無し。」「第3無し。」「第4無し。」「第5無し。」

「全員戻りました。」

「警戒休憩!」

「警戒休憩!」「警戒休憩!」「警戒休憩!」

各小隊で2名が騎乗のまま警戒。残りの者は下馬して豪馬に水と果物を与える。

警戒担当騎士が騎乗する豪馬にも下馬した騎士が水と果物を与える。

頑張ったらご褒美、これが豪馬と仲良くなる秘訣。

俺はロクに乗ったまま戦況を見ている。

騎士が革袋からロクの口に水を注いでやる。

大勢の捕虜が領都に引き立てられている。

まだ敵を追いかけている部隊もあるが、戦いは殆ど無い。

それぞれの部隊に所属を示す旗を掲げる兵がいるので判り易い。


「旗を掲げよ。」

俺が指示を出すと騎士がミスリルの竿を繋ぎ、ミョウコ家の大きな旗を付けて掲げた。

旗が無くても豪馬騎士団は一目で分かる。

でもキリシが旗を掲げろって言ったから。

暫くすると騎士が3騎こちらに来た。

「馬丁爵閣下とお見受けいたす。」

「いかにも。」

「それがしは侯爵家騎士団長の×××。城内までご案内いたします。」

「承知。」

豪馬騎士団を引き連れて領都の門を潜り、城へと向かった。


沿道の住民達が手を振ってくれる。

豪馬達が喜んでいる。豪馬は褒められるのが大好き。

城門を潜り、正面階段前の広場で下馬をして整列…する前に侯爵が飛んできた。

俺の前に跪く。

「援軍、感謝する。」

胸に拳を当てて上位者への礼をする。

「間に合って良かったです。どうぞお立ち下さい。」

「これ程早く来てくれるとは思わなかった、いやこれ程強いとは驚きを通り越した。」

「ミョウコ家自慢の騎士団ですから。」

「いや強いのにも程がある。閣下がお味方で良かった。」

「私もです。」

「城内でおくつろぎ下さい。」

「はい。3名以外は馬場にお願いします。豪馬から離れる事は出来ませんので。」

「承知。」

使用人らしき男達が騎士達とロクを案内していった。

俺とアタゴ、タカオが侯爵と城に入った。


連絡の兵が城内を走り回っている。

「こちらでお寛ぎ下さい。」

侯爵自らが部屋まで案内してくれた。

「侯爵殿は忙しい身、どうぞ本営にお戻り下さい。」

「ご配慮感謝する。」

侯爵が出ていくと、メイドさんがお茶を入れてくれた。

「強いとは思っていたが、ここまで強いとは。」

アタゴが呟いた。

「本人が呆れてどうする。」

タカオが笑顔で突っ込む。

「訓練と本番は違うが、本番の方がずっと楽だった。」

「今回は奇襲だからな。」

「2万の軍勢に正面から50騎で突っ込んだらただのバカだ。」

「マヤならやりかねんぞ。」

「キリシ様が止めてくれるさ。」

「それはそうだな。ハグちゃんもいるし。」

俺は何なんだ?


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