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2 馬神様

クロと話せるようになって半年、クロのおかげで馬の友達、馬友?が増えた。

何故か俺は動物と心を通わせることが出来るらしい。

クロに乗って馬達の不満を聞き、さりげなく係りの人に伝えるのが俺の役割となった。

馬達の希望をそれとなく人間に伝えるようクロに頼まれたのだ。

体調が悪い馬には、どう悪いのか、どこが痛いかを聞いて係りの人間に伝える

「クロならマヤの馬だから判るが、何で他の馬まで体調が判るんだ?」

「クロが体調の悪い馬を教えてくれるんだ。」

「クロがか?」

「うん、クロは賢いから。」

人間の言葉が判るクロは世渡りが上手い。

担当している人間の性格によって伝えて欲しい内容まで指示してくれる。

前世で人づきあいが苦手だった俺とは大違い。

クロのおかげで厩舎では色々な人に話し掛けられるようになった。



今日は馬神様の日。

良馬の産地として名高い侯爵領では毎年夏の盛りに山麓にある神殿に行き、領主様が山頂まで登って馬神様の神座に供え物をして祈りを捧げる。

領都や支配下の街では住民総出で盛大なお祭りが行われる。

今年も侯爵様と厩舎長である父が供え物を持って神殿に入って行った。

神殿横から神官と共に山道を登り、山頂の神座に供え物をして領地の発展を祈るのだ。

父の供として参加を許された俺は護衛の騎士達と一緒に神殿の周りを見回っていた。

神座に行けるのは特に偉い人だけ。俺は警備の人達と麓の神殿で見回り。

「ちょっとおしっこして来ます。」

「この辺りは安全な筈だが、魔獣が出ないとは限らん。警戒は緩めるな。」

「はい。」

神殿裏の林に入った。


用を足してズボンの紐を締めていると、どこからともなく声が聞こえた。

“珍しき魂なり”

「誰?」

“木の上じゃ”

見上げると木の枝からフサフサの毛皮が沢山ぶら下がっている。

これって首に巻いたら絶対暖かい。

思わず手を伸ばしかけたが、もう少しと言うところでマフラーが逃げた。

“馬鹿者! マフラーと一緒にするでない。我は九尾の狐なり”

沢山のマフラーはお狐様の尻尾だった。

よく見ると沢山の尻尾の先には金色に光る胴体と小さな頭がある。

お稲荷様? 前世には狐を祀る神社が沢山あった。


“ふむ、40年女体に接さず、穢れの無きままこの世に転生したか”

お狐様が一人で納得している。

ぐぬぬ、前世の事まで判るのか。

「確かに前世では女性には全く縁が無かったけど、・・・。」

でもネットで画像は見たぞ。

モザイクなしで見たぞ、どうや。

ちゃんと穢れているぞ。

画像は穢れにはならないらしく、お狐様にスルーされた。

“永く穢れ無き前世を送った転生者には大きな魔力が与えられる、我が眠っているそなたの魔力を覚醒させてやろう”

言葉と共にお狐様から光が走り、俺を包んだ。

俺の体に次々と何かが流れ込んで体内を走り回る。

俺の視界がグルグルと回り始めた。

”イメージを描けば魔力が魔法となる。魔法を学べ“

お狐様のお言葉が遠くに聞こえ、俺は意識を失った。



「マヤ、しっかりしろ。」

「あ、あ、・・・・。」

「大丈夫か?」

目を開けると父さんに抱かれていた。

「・・、ええっと、神様の声が聞こえた?」

「何だって、馬神様のお声を聞いたのか?」

いや、馬神様ではなくてお狐様だったけど。

「・・・、たぶん。」

「馬神様は山頂に降臨する。ここは拝殿の真裏、馬神様の神座と拝殿の間だ。神がお言葉を賜っても不思議ではない。」

屈んで俺の背を支えていた父さんの後ろから声を掛けてくれたのは侯爵様だった。

「神はどのような声だ?」

「・・・頭に言葉が浮かぶ? ・・・、 魔法を学べって言われた。」

魔法のあるこの世界でも、実際に魔法を使えるのはほんの一握り。

魔法が使えればそれだけで生活が成り立つ程稀な能力だ。

「そうか、馬神様が魔法を学べとおっしゃったか。」

父さんは嬉しそう。

馬神様ではなくお狐様だけど。


「マヤは何歳になる。」

侯爵様に聞かれた。

「10歳です。」

ぐったりしている俺に代わって父さんが答えてくれた。

「10歳か。よし、魔法学院の入学試験を受けさせよう。受験まで1年少々しかないが、ある程度の学力を付ければアタゴの従者として学院に入ることが出来る。魔法学院ならば存分に魔法を学ぶことが出来る。」

俺の意見は聞かず、父さんと侯爵様で俺の魔法学院受験が決まった。



侯爵様の3男アタゴ様は騎士見習いのタカオと一緒に魔法学院を目指して受験勉強中。

俺は二人と一緒に受験に必要な教養や剣術、魔術をみっちりと仕込まれる事となった。

受験勉強と言っても前世に比べれば集中度も低いし、時間も短い。

朝早くと夕方からはクロと一緒に過ごすことが出来た。

魔法の教師からは魔法の基礎である魔力循環から丁寧に教えて貰った。

お狐様の光を浴びて以来、何となく感じていた違和感が魔力の流れだと気が付いた。

先生の言う通りに体の中を意識すると、魔力が体中を循環しているのが判る。

魔力の流れを速くするように言われ、頑張って魔力の流れに意識を向ける。

“速くなれ、速くなれ、と念じながら魔力の流れに意識を集中する。

魔力の流れがどんどん速くなるのが判る。

「そう、そうだ。そのまま続けろ。」

魔力の流れがどんどん速くなる。魔力が体中を凄い高速で循環しているのが判る。

魔力の流れを意識しながら何気なく窓の外に意識を向けた。

風が強いのか、遠くで木の枝が大きく揺れている。

折れる?

ふと思った瞬間、俺の体から何かが飛び出した。

殆ど透明な薄い何かが高速で飛んで行き、揺れていた木の枝が落ちた。


「無詠唱だと!」

魔術の先生が驚いている。

いや、先生以上に驚いたのは俺。

自分の体から突然何かが飛び出したのだ。

「今の、何?」

「ウィンドカッターだ。魔力が風の刃となって飛び出す攻撃魔法だ。」

そういえばアタゴ様が練習していたのも薄い何かが飛び出す魔法だった。

無意識に真似をしていたのかもしれない。

「攻撃魔法?」

「敵を倒す魔法だ。普通は難しい呪文を覚え、何度も何度も練習してようやく小さなウィンドカッターを発動出来る。」

そう言えばアタゴ様も長くて難しい言葉を叫んでいた。

「そうなの?」

「呪文を唱えずにこれ程の魔法を発動出来る者は大陸にも数人しかいない。」

先生が風魔法について詳しく説明してくれ、どれ程の事が出来るかを確かめるために先程のウィンドカッターを練習することになった。

屋敷の外に出ると、先生に教えて貰った通りに頭の中で魔法のイメージを作る。

魔法名を頭の中で唱えると発動しやすいとも教えて貰った。

“ウィンドカッター!”

半透明の薄い刃が林に向かって飛んで木の幹に小さな傷を付けた。

「先程のように魔力循環の速度を上げ、1呼吸おいてから撃ってみろ。」

体内の魔力を高速で循環させる。一瞬の間を取った。

“ウィンドカッター!”

先程より大きな刃が林に向かう。大きな木が倒れ、そのまま後ろの木も倒れた。

先生と一緒に切り口を見に行った。

切り口は2本ともツルツル。

「凄いな。」

その後魔力循環の速度を変えたり、“溜め”の時間を変えて何度も練習した。

「疲れていないか?」

「少しだるい感じ? まだまだ出来そうだけど、何となく攻撃魔法は好きじゃない感じ。」

何度も練習しているうちに感じたのは、馬の世話に役立つ魔法ならともかく、意味も無く木を切る事への違和感。

「そうか、攻撃魔法は好きではないか。しかしこれだけ連発してもまだ撃てるとは、とんでもない魔力量だ。馬神様に認められただけのことはある。」

先生が驚いている。

魔力量の事は判らないが、まだまだ撃てる感じ。ただ全然楽しく無かった。

「マヤは魔力が多いから威力が大きい。くれぐれも人に向けて撃つな。」

「はい。」


その日の午後、侯爵様が直々に俺の魔法を見に来た。

午前中に練習した林に行って倒れた木を調べている。

「あそこの木を撃ってみろ。」

30m程離れている木を侯爵様が指で示す。

“ウィンドカッター。”

木がゆっくりと倒れた。

侯爵様が木を調べる。

「今度は向こうの木だ。」

50m程離れた所にある大木。

“ウィンドカッター!”

大木がゆっくりと倒れた。

切り口を調べるとやはりツルツル。

「攻撃魔法は嫌いと聞いたが誠か?」

「はい。将来は父さんの跡を継いで厩舎で働きたいです。厩舎で役に立つ魔法を学んで父さんの手伝いがしたいと思っています。」

「攻撃魔法を極めれば貴族も夢ではないぞ。」

「俺は人が苦手なので貴族様は無理です。馬がいいです。」

侯爵様と魔術の先生が話し合って、俺の攻撃魔法については他言無用となり、厩舎で役に立つ魔法と受験用の初期魔法だけを学ぶことになった。

目の前にニンジンがぶら下げられる。

「40位以内で合格したら、クロをお前にやろう。」

侯爵様の一言で俄然やる気が出る。

今までは手を抜いていた座学も必死に勉強した。


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