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19 初めてのお使い

巨大な豪馬30頭に跨った騎士達が隣国王都の大門前に整列している。

うん、カッコイイ。

騎士団の上空を1周した俺は大門前に降り立った。

俺の愛馬は勿論テンちゃん。

騎士団に先行させ、大門前に勢揃いしたのを空から確認して降り立った。


真っ黒な豪馬に跨る白銀の騎士30騎、その先頭に立つ真っ白な天馬に騎乗した俺。

あらかじめ先触れしてあるのですぐに立派な服を着たおっさん達が現われた。

「ドラゴ王国馬丁爵マヤ=ミョウコ、国王陛下の名代として参上した。」

名乗りを上げたが、ちょっと不安。

キリシもハグちゃんも産後で来られなかったから。

「お役目ご苦労様です。どうぞお入りください。」

豪馬騎士団におっさんがビビってる。

俺も豪馬騎士団の初舞台だからビビってる。

キリシに言われたのは堂々と胸を張れ。

王都の大通りを天馬がゆっくりと歩く。俺は天馬の上で胸を張る。

その後ろを2列縦隊となった豪馬騎士団が続く。

ドラゴの王都並みに広い通りだが、巨大な豪馬が2頭並ぶと住民は壁に張り付くようにしている。

王城の門を潜り、王宮の正面広場に整列、下馬して王の出座を待つ。

王が王宮正面の階段上に立つと、俺以外が一斉に跪く。

王はテンちゃんと豪馬騎士団を見て一瞬驚いた顔をしたが、すぐに無表情に戻った。

キリシからは、“マヤ様は陛下の名代、隣国の王とは同格です。同格らしく堂々と振る舞いなさい“と言われている。


「ドラゴ王国馬丁爵マヤ=ミョウコ、国王陛下の名代として参上した。」

「承った、ご同道下され。」

王が奥に歩き宰相と執事長らしき2人が続く。

その後を俺とアタゴ、タカオの3人が歩いた。

謁見の間に入ると、王が玉座に座る。

両脇には大勢の貴族が整列している。

俺は王の正面に立ち、口上を述べる。

「ドラゴ王国貴族序列第3位馬丁爵マヤ=ミョウコ、ドラゴ国王名代として参上した。貴国より申し出ありき友好の儀、承服致しかねる。」

友好の儀と称して毎年貢物を差し出す属国になれと脅して来たのだ。

「断るか。」

「我が王国は神龍様と天馬様の加護を頂く強国。よもや帝都を一瞬で壊滅させ、帝国軍を一蹴したことをお忘れか。」

「それは昔の話。今は国土の4分の1を失った弱小国である。」

王が玉座から俺を見下ろして強弁した。

「笑止。我がミョウコ家だけでも貴国など一捻り、神龍様の一息で国土は灰燼と帰す。」

「神獣伝説でこけおどしか。」

貴族達の最前列にいた男がバカにしたようにほざいた。

「外を見られよ。私の合図一つで王宮は灰燼と帰す。」

バルコニーの向こうに王都を悠然と飛ぶ巨大なシンちゃんの姿がある。

王がたじろいだ。


「・・・、王都を灰にすればそなたも死ぬぞ。」

「何の、我が結界は神龍のブレスでも破れぬ。」

「王宮内には魔力封印が施されておる。この場では魔法を使えぬ。」

杖を持ったおっさんが背筋を反らせて自慢げに言った。

「子供だましの魔力封印など我には通じぬ。そこの騎士殿、槍を頭上に掲げよ。」

入り口の脇にいる騎士が槍を掲げた。

“ウィンドカッター”

風の刃が飛び、騎士の槍を二つに切ると、後ろの壁を突き抜けて消えて行った。

居並ぶ貴族達が崩れた壁を見て呆然とする。


「無詠唱だと。」

魔導士長らしいおっさんが声を上げた。

「魔力封印とやらは我には効果が無い、いかが。」

「・・・・。」

王が固まったので更に追い打ちを掛ける。

「そこな騎士、剣を抜いて前に差し出せ。」

騎士が剣を俺に向ける。

「ミョウコ家の剣をお目に掛ける。」

腰の剣を抜いて構える事も無く騎士の剣に刃を合わせる。

騎士の剣が音も無く二つに切れた。

「我が豪馬騎士団の剣は全てこの剣と同じ。貴国の騎士は鎧ごと紙のように切り刻まれるであろう。」

「・・・・。」

王が更に固まった。


「神龍様のブレスもお目に掛けようか。但し神龍様は手加減が出来ぬ。豪馬騎士団に当たらぬように王宮を外して撃つので王都の半分は灰燼と帰すであろう。我が国王陛下からは国土の半分までなら灰にしても良いと許可を頂いておる。ご覧になりたいか? いつでも見せる事が出来るぞ。」

「い、いやそれは無用。友好の儀については取り下げる。国王陛下にそう伝えよ。追って正式な書状を届ける。」

「書状の内容によっては、マヤ=ミョウコが貴国を灰にする。帝国を我一人で壊滅させたことが嘘偽りでないと他国にも知らしめねばならぬからな。心して置け。」

「しかと承った。」

「帰るぞ。」

アタゴとタカオに声を掛け謁見の間を後にした。


豪馬騎士団と合流して王城を出る。

堂々と胸を張れ、キリシの言葉を繰り返し自分に言い聞かせる。

王都の門を出るともうフラフラだった。

「これで良かったのかぁ?」

アタゴに聞いた。

「おう、立派な使者だったぞ。」

「大したもんだ。驚いたぞ。」

タカオも褒めてくれた。

出発直前までキリシとハグちゃんにセリフを直して貰った甲斐があったようだ。

「キリシとハグちゃんがいないから不安で不安で倒れそうだった。」

「倒れそうだったのはバカ王だ。顔が真っ青だったぞ。」

「そうか、王の顔を見る余裕なんて全然無かった。」

キリシの書いた台本を頭の中で反芻するだけで精一杯だった。

「とてもそうは思えなかったが、うまく行ったんだから良い。帰ろう。」

「うん。」

一人でお使いが出来た。



豪馬騎士団とともに領地に戻り、ハグちゃんに“よしよし”して貰った。

少し落ち着いた俺はアタゴとタカオを連れて王都に向かう。

王都の屋敷でキリシに“なぜなぜ”して貰い、少し落ち着いたので王宮に向かった。


謁見の間には大勢の貴族が集まっている。

大勢の前でしゃべるのは苦手、正面の王に跪いたまま短く報告した。

「友好の儀については取り下げる、追って正式な書状を届けるとのことです。」

「貴族達の反応はどうであった?」

宰相から問われた。

「交渉の詳細につきましては、同席したアタゴ子爵、タカオ男爵より報告致します。」

叙爵したての2人に振った。

名前を売る良い機会なので二人に説明させなさいとキリシに言われたから。

もっともこんな大勢の前で俺が説明するのは絶対に無理。

アタゴが王の反応を、タカオが列席した貴族達の反応を報告すると謁見の間が大騒ぎ。

歓声やら大笑いで大いに盛り上がった。



使者が来るまで王都で待機することになった。

キリシも仕事を執事長のルタカに任せてずっと俺の傍にいてくれた。

先方の返答次第で俺の役目の成否が決まる。

不安な俺をキリシが慰めてくれた。


2日後、使者の先触れがあったので王宮に向かった。

謁見の間で待っていると、使者ではなく隣国の王が現われた。

陛下も宰相も驚いている。

国王の訪問であれば陛下が王宮の前で出迎えるのが同格の作法だ。

「我が家臣が独断で無作法を働いた事、王として謝罪する。外務卿と貴族2名の首を持参した。お納め下され。」

居並ぶ貴族達が驚いている。俺も驚いた。

「検分致しました。外務卿と公爵、魔導士長に間違いございません。」

騎士団長が陛下に報告する。

この世界は首を飛ばすのが好きなの? そんなの漬物石の代わりにもならないぞ。

バカな事を考えていると陛下が口を開いた。

「謝罪を受け入れる。王自らの来訪、誠意と認める。」

「寛大なるお言葉、感謝する。」


あとは隣国の大臣が今回の経緯、まあ言い訳をだらだらと宰相に話していた。

大広間での謁見が終わり、別室に移って国王同士のトップ会談、って何で俺?

何故か俺も同席させられた。

「先日は失礼した。帝国との戦は知っておったが、噂に尾鰭が付いてさらに分厚い衣で包まれた戯言という外務卿の言を信じた我の不徳、真実のマヤ殿は噂以上の傑物と理解して愕然とした。」

「我が国にもマヤの力を信じず、マヤを排除しようとするものがおった。余は国土の4分の1を切り捨ててその者を排除した。」

「目の当たりにした者にしか信じられぬ程の力ですからな。マヤ殿の力を見抜いた陛下の慧眼、余も見習いたく存じます。」

「マヤを信じられるのは権力欲が全くないからだ。馬丁に誇りを持ち、伯爵や侯爵への昇爵も全て断りおった。領地も嫁達の為に受けただけで本人は朝から晩まで厩舎で馬の世話をしている。」

「馬の世話でございますか。」

「馬丁としても大陸1だ。野生の豪馬を見つけ出し騎士団に育て上げた力量は並外れておる。」

「豪馬騎士団が王宮前に整列した時、我が国の精鋭第1騎士団の馬がみな後ずさりして収拾が付かなかったと後で聞かされた。戦場で合わなくて良かった。」

「余も豪馬騎士団とは戦いたくはない。献上された豪馬を見たが、早い、強い、賢い。暫く呆然としておったわ。」

「馬丁が出自の魔術師と聞いておったが、いまだに馬の飼育をしておるとは驚いた。」

「魔術師としても大陸1だが、鍛冶師としても大陸1だ。マヤの鍛えし剣は魔鉄の大盾を紙のように切り裂く。」

「余が見た剣はマヤ殿の剣であったか。」

「謁見の折に披露したそうじゃな。豪馬騎士団の鎧はマヤ殿の剣をも弾くぞ。」

「もしや、鎧もマヤ殿の作であるか。」

「さよう。同道した30騎で余の騎士団200騎を壊滅出来る。まあマヤ一人で王都を壊滅できるので護衛の意味はないがな。」

「確かに。」

横で聞いている俺はケツがこそばゆいだけだった。

ともあれ二人の王は気が合ったようで対等な友好国として条約を結ぶことが決まった。



ミョウコ家は使節の役割を十二分に果たした事で貴族の間でも成り上がりなどの陰口は無くなったらしい。

それよりもミスリルや武器、豪馬など貴族にとっては喉から手が出る程欲しい物ばかり。

少しでも関係を築こうとする貴族の来訪が絶えず、キリシは3人の子供達を連れて王都を逃げ出し領都に住むことになった。


親子9人が水入らず。めでたしめでたし、・・では終わらなかった。

友好の証として隣国王女殿下と王太子殿下の婚約が決まったのだ。

両国の交通が頻繁になる。

隣国からドラゴ王都に向かうには俺の領地を通るしかない。

両国の外交団や王太子殿下、王女殿下を王都まで運ぶ役割が俺に命じられた。

豪馬タクシー?

速いし安全、豪馬の宣伝にもなる。

それは良い。それは良いが、何で通る度に俺の所へ挨拶に来るの?

しょっちゅう厩舎から呼び出され領都の屋敷で接待する羽目になった。

「外交問題です。暫くの間なので我慢して下さい。」

キリシに言われては仕方がない。


まあ最初と最後の挨拶だけで、合間の時間は子供達と遊んでいるからいいけど。

厩舎の方は任せられる馬丁が数人育ったので俺がいなくても大丈夫。

子守をしているうちに豪馬よりも子供達といる時間の方が長くなった。

何よりもキリシとハグちゃんがいる。

子供は可愛いし、お嫁さんは心を落ち着かせてくれる。

うん、幸せだ。


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