16 領地を貰いました
公爵領の話があったことをすっかり忘れた頃、新年の儀が行われた。
貴族の挨拶が終わった後、陛下のお言葉があった。
「神龍様からお言葉があった。神龍様をないがしろにする者達にお怒りである。放置すれば王国における神龍信仰が崩壊し、加護を失って滅んだ帝国の二の舞になるは必定。よってレキュウ公爵領を王国の領土から外す。レキュウ王国として独立するが良い。希望する者はレキュウ王国への移住を許可する。駐屯中の第3師団の兵達は各自の判断を尊重する。但しどちらも半年間だけの猶予で以後は他の国同様の扱いとする。レキュウ王国が我が王国に剣を向けた時は神龍様がレキュウ城をブレスの一息をもって一瞬で灰になさるとのこと。帝国軍を一人で退けた馬丁爵も強いが、神龍様の力は遥かに偉大である。王国民は安心して暮らすが良い。」
王宮が騒然となった。
「いずれ王国に戻る事があるのでしょうか。」
貴族が発言する。
「無い。加護を外れた土地はやせ衰える。新たに加護を与えても、元に戻すには数百年の年月が必要だ。それは帝国の土地を見れば判る事。新たに森を開墾した方が費用は少なくて済む。」
宰相が答える。
「レキュウ王国が他国に侵略された場合、王国は兵を送るのでしょうか。」
「国境の砦に兵を集めて王国を護る。レキュウ王国は他国、王国が守ることは無い。」
宰相がよどみなく答える。
「もう一度この決定を考え直すべきではないか?」
「既に陛下と神龍様の話し合いで結論が出ている。レキュウ公爵およびその1派の除爵処刑案が神龍様から提示されたが、王が独立案で神龍様の了解を頂いた。」
処刑か独立の2者択一に大広間がどよめく。
「もう少し猶予を頂く事は出来ないのですか?」
「レキュウ公爵が軍勢を集めている。時間を掛ければ神龍様がレキュウ公爵配下の軍勢を領地ごと全て焼き尽くすこととなる。多くの命が失われるのは陛下も神龍様も望む所では無い。」
領地ごと焼き尽くすと聞いて貴族達の顔が青ざめた。
神龍様の力を見くびっていたようだ。
「猶予は半年。それまでに自らの進退を考えよ。万が1、それまでにレキュウ公爵が王国に弓牽くようであれば王国の総力を挙げて公爵を討ち取る。神龍様もご助力下さると明言された。公爵邸は一瞬で焼け落ちるであろう。」
宰相が一同を見回す。
これ以上の意見は無いようだった。
「皆の者、大儀であった。」
国王の締めの言葉で新年の儀が終わった。
宰相の元に多くの貴族が押し寄せる。
俺の所にも貴族達が押し寄せた。
「神龍様は本当に強いのですか?」
「凄く強い。王都を灰にするくらいは簡単だ。」
「王都には結界があります。」
「帝国の帝都にも結界があった。俺の力でも結界を壊せた。神龍様の力の前では結界など意味は無い。」
「馬丁爵閣下も出陣されるのですか?」
「神龍様が公爵邸にブレスを吐けば王城ごと灰になってしまうから、小さな場所は俺の担当かな。少しはコントロールの練習をしたから周辺の屋敷には迷惑を掛けるかも知れないが王城を吹き飛ばすことは無い、と思う。」
貴族達が震えあがった。
俺は普通の事を普通に話しただけなのに理不尽だ。
レキュウ公爵は爵位を餌に派閥の貴族や周辺に領地を持つ貴族達を味方に引き込み、3か月後に独立を宣言した。
どさくさ紛れに俺も領地を貰ったらしい。
レキュウ公爵について行った貴族は全て除爵されたので領地が空いたから。
と、キリシが言っていた。
きっと何かしたいことがあるのだろう。
王国関係のことはキリシに任せておけば間違いない。
キリシはめっちゃ忙しそう。
朝早くから夜遅くまで執務室で仕事をしている。
俺は馬丁の仕事に勤しんでいる。
半年の猶予期間が終わって国境が閉鎖された。
ここ数ヶ月は侯爵領からの移民が王国に押し寄せているそうだ。
今年の作物の生育が極端に悪く、収穫が見込めない村から住民が逃げ出しているらしい。
「マヤ様、新しい領地の視察をお願いします。」
キリシに言われて領地に向かった。
ハグちゃんは屋敷の総責任者として王都の屋敷でお留守番。
王都から馬車で4日。
険しい峠を越えると小さな町が見えて来た。
先触れを出したのか、町の門前に数人が待っている。
「代官の××でございます。代官屋敷にご案内いたします。」
代官が馬丁から手綱を受け取り、ひらりと馬に跨って先導する。
馬車の窓から眺めると、建築中の家が目立つ。
「景気が良さそうだね。」
「ここはレキュウ王国の隣なので移民が多いのです。」
代官屋敷は結構大きな屋敷。
「この地域を納めていた男爵の屋敷です。旧領主の伯爵と共に新しい領地に移りましたので代官屋敷として使っています。」
武力に自信の無い伯爵はレキュウ王国との戦を恐れて領地替えを申し出たらしい。
空いた伯爵家の領地と、伯爵同様に領地替えを許された伯爵派閥の中小貴族達の領地が丸ごと俺の領地になったらしい。
町に1泊して半日程で少し大きな街に着いた。
途中の村でも建築ラッシュ。
「逃げ出してきたのに、よく家を建てる金があるな。」
「スポンサーがいますから。」
「スポンサー?」
「だ・ん・な・さ・ま。」
「俺?」
「はい。」
「役に立つ技能を持っている者には家を建てる代わりに指定した村や町で働いて貰うのです。そうすれば各村や町に技能を持った者を振り分けられます。」
「はあ。」
それは判るが、俺はそんなにお金を持ってないぞ。
「アオバが資金を用意してくれていたので心配はありませんわ。」
「そうなの?」
「はい。それにこの辺りは大型魔獣が出るので開墾が出来なかったのですが、大型魔獣がお隣の国にお引越ししてくれたのでどんどん開墾出来るのです。」
「お引越し?」
大型魔獣がお引越しをするって?
意味が判らない。
「神獣様達にこの辺りで遊んで頂いたら、魔獣達が遠慮してお引越ししました。」
確かに神獣様がいると魔獣が逃げるけど、それってレキュウ王国への嫌がらせ?
「時々国境の稜線で遊んで頂きますから、こちらに攻めてくる恐れはありません。」
確かに巨大なドラゴンや天馬が飛んでいる所を攻めるバカはいないな。
示威行動ってやつ?
「技能の無い農民たちには長屋を建てています。開墾が進めば十分元が取れます。」
うん、キリシに任せておけば問題は無い。
夕方には次の街に着いた。
少し大きな街。
子爵家の領都だったらしい。
この街で1泊、翌日夕方に領都のミョウコに到着した。
マヤが生れた侯爵家の領都とほぼ同じ大きな街。
街壁が高いのは大型魔獣が多かったためらしい。
出迎えてくれたのは先日男爵に叙爵された執事のなんちゃら。
領地全体の代官に任命したらしい、キリシが。
地元料理でもてなしてくれた。
翌日からキリシは代官と打ち合わせ。
俺はテンちゃんに跨って国境近くの山を飛んでいる。
キリシの調査では山脈のレキュウ王国側にいくつか小さなミスリル鉱山があるらしい。
こちら側は大型魔獣のせいで探査が出来ずに放置されていたので、調査すればミスリル鉱山が見つかる、かもしれないとのこと。
領都にいても俺は単なるお邪魔虫。
打ち合わせに同席しても詰まらないだろうとキリシが気を使って遊びに出した?
キンちゃんに教えて貰って多少は飛べるようになったが、飛びながらの探査はまだ難しい。
テンちゃんに乗っていれば探査に集中できるし、テンちゃんは俺を乗せて飛ぶのが好き。
と言う訳でお昼はお弁当を持ってテンちゃんと空のお散歩。
夜になると地元の有力者たちと晩餐会。
俺は挨拶を受けて頷くだけ。
空から眺めると、領地の状況が良く判る。
国境の山脈から流れる川が集まって大きな川になっている。
その川が作った広大な扇状地に領都がある。
領都の向こうには大きな湖。
水は豊かな土地。
山脈の麓には広大な森が広がっている。
大型魔獣にとっては住みやすい場所。
魔力探査を掛けるが大型魔獣の反応は無い。
魔獣も大型になると賢いので自分よりも強いものには敏感に反応する。
神獣たちの力を感じて安全なレキュウ王国に避難したらしい。
見晴らしの良い山頂でお弁当。
テンちゃん用にお菓子も付けてくれた、キリシが。
空中散歩で感じたのは領地が思っていたよりもずっと広い事。
伯爵家を筆頭に2子爵家と男爵家数家の領地が丸ごと俺の領地になったのだから当然と言えば当然。
レキュウ王国軍からの侵略を防ぎ、強い魔獣から民を護る。他国で言うところの辺境伯家だ。
魔獣はお引越ししたし、国境付近では神獣たちが遊んでいるから侵略は無いけど。
空のお散歩5日目にミスリルの反応を見つけた。
小さな反応に惑わされないように高い所を飛んでいたのでかなり大きな鉱脈の筈。
高度を下げると次々と小さな反応も見つかる。
ひときわ大きな反応に向かって降りていく。
レキュウ王国からは少し離れた山脈。その山脈でひときわ目立つ大きな山の中腹から麓に掛けて強いミスリル反応がある。
テンちゃんに乗ったまま山を一回りする。
崩れた崖を見つけて降りると、足元にはミスリル鉱石が沢山転がっていた。
やった~。
これでキリシに膝枕して貰える。
喜び勇んで屋敷に帰った。




