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15 結婚しました

屋敷横の鍛冶場で指輪の製作に取り掛かる。

宰相からデザインの注文とサイズを聞いてある。

付与魔法はお嬢様方と同じなので考える事は無い。

ただ指輪サイズに数百の魔法陣を刻み込むので一つ一つの魔法陣がでたらめに小さい。

拡大魔法を使って点にしか見えない魔法陣を大きくし、普通に見えるよう調整する。

神経を集中して極細の魔糸を使って魔法陣を描く。

3度目だから慣れたと言えばその通りだが、繊細な仕事なので疲れる。


陛下の指輪と言う事で気合が入らない。

おっさんが喜んでも俺は全然嬉しくない。

期限は無いので無理をせず確実に作ることを優先、区切りの良い所で作業を切り上げて屋敷に戻った。

屋敷の中が何となく騒がしい。

執務室に行くとルタカがいる。

「先程王宮からマヤ様とキリシ様、ハグ様の婚約が発表されました。」

ルタカの仕事も早いが、王宮の仕事も早い。

そう言えば、キリシ様の父上は宰相だった。

「そうか。」

「式や衣装、招待客など何か指示は御座いますか?」

「任せる。」

「はい。」

俺が下手に口を出すよりルタカに任せる方が安心だ。

うん、そういう事にしておこう。決して面倒だからではない、よ。


婚約から1か月、ようやく指輪が完成した。

表に小さく王家の紋章を付けただけのシンプルな指輪。

指輪が目立ってはいけないのであえてシンプルなデザインを指定したようだ。

少し魔法陣を増やしたのでキリシ様の指輪より太いが男物としては普通サイズ。

陛下が宰相から渡された拡大鏡で指輪の内側を見ている。

「これ程精緻な魔法陣は見た事が無い。苦労を掛けたな。」

「状態異常無効に加え、感情を伝える魔法を付与してあります。外交など表情だけでは判断できない時も相手の持つ感情を陛下に伝えるように組んでみました。初めて使う魔法なので効果の程は判りませんが、間違った感情が伝わることは無い筈です。」

「感情?」

「例えば暗殺者が近寄れば、悪意や憎しみが陛下に違和感を伝えます。よほどの手練れでなければ陛下に近寄れないと思います。」

「マヤには驚かされるばかりだ。無欲なそなたに報いる術はないが、結婚の儀を盛大に祝う事でそなたへの感謝とする。」

「有り難き幸せ。」

陛下に祝って貰うと何となく面倒な事になりそうなので遠慮したいけど、言えないよね。



「結婚式は貴族の社交シーズンに合わせて来年の年末。その後3日に亘って結婚披露パーティーが開かれます。」

ルタカが説明してくれた。

1年後か。長いな。

「なんで3日もパーティーをするんだ?」

「マヤ様のパーティーに招待されるか否かは貴族の格付けに拘わります。招待状を送る貴族を宰相様に相談させて頂きましたが、王宮の大広間をお借りしても3日は必要で御座います。」

「王宮でするの?」

「諸国の王室関係者や外交官もいらっしゃいます。警備や楽団の人数も多くなるので王国で最も広い王宮の大広間が宜しいとなりました。」

俺の屋敷ですると思っていたのでびっくり仰天。

国家行事じゃないぞ。


「本日は叙爵パーティーで御座います。マヤ様はご挨拶をお願い致します。」

「叙爵? 誰の?」

「帝国戦の戦功で、私、アオバ、ハグ、ハルナの4人が先日男爵に叙せられました。」

知らなかった。

俺が公爵格となったので男爵以上の家臣が数人は必要らしい。

アオバは砦で待機していただけ、他の3人は王都の屋敷でお留守番だったけど、いいの?

出世だからいいか。

「空きとなった騎士爵には庭師長、厩舎長、増員の執事、そしてキリシ様がお連れになるキリシ様付き執事を叙して下さい。」

「判った。」

全てはルタカにお任せだ。

適材適所、俺は馬丁をしていればいい。

とりあえず寒いのでコタツでのんびりしよう。

コタツに首まで潜った。



招待状がたくさん来ていたらしいが、貴族のパーティ-は全て断った。

1回出席すると、次は断る理由が必要で面倒な事になるとルタカに教えられたから。

俺が出席したのは年末に行われた各国の来賓や大使が招かれるパーティーと全貴族が陛下に新年の挨拶をする新年の儀のみ。

全貴族が挨拶と言っても、伯爵以下は名前が読み上げられてから一斉に跪き「おめでとうございます」と唱和し、陛下が「めでたいな」の一言で終わり。その後は8侯爵家が一人ずつ同じように挨拶をする。そして俺の番。

「マヤ=ミョウコ馬丁爵閣下!」

名を呼ばれて陛下の御前に進む。

跪いて胸に拳をあてる。

「おめでとうございます。」

「めでたいな。益々励め。」

大広間が騒めいた。

新年の儀で二言目を賜るのは余程の功績を上げた場合のみ。

先代で1度あったらしいが、陛下の御代では初めての事だ。

って、控室に戻った時に侯爵様が教えてくれた。

俺は知らん。



秋の挙式まで半年。

キリシ様が打ち合わせと称して屋敷に来ることが多くなった、らしい。

厩舎の朝は早い。

俺は朝早くに馬場に出て調教を見守り、馬の健康チェック。

夕方屋敷に戻った時にキリシ様が来ていたと聞くだけ。

キリシ様、ハグちゃん、キンちゃん、シンちゃん、テンちゃんで相談しているらしい。

何やら不穏な気配がするが余計な事を言うと怒られるので賢い俺は黙っている。


侯爵領で馬神様の日を終えると、いよいよ結婚式の最終準備。

朝から晩まで働かされた。

招待状書き。文面は同じだが、自筆がマナー。

部屋一杯に羊皮紙を並べ、枚数の魔糸を伸ばして同時に書く。同じ文章なのでコントロールも簡単だ。

「魔法って便利ですわね。」

「書類書きに使うのはマヤ様だけですけどね。」

キリシ様とハグちゃんが呆れている。


俺の署名まで書き込むと、あとは2人が署名するだけ。

出来上がった書類はアオバ達が蝋封する。

連日祝いの品が届く。

贈り主の名と品目、およその価格を専用のノートに書き込み、返礼品を用意する。

結婚式の前にしておかないと結婚後すぐに発送できない。

めんどくさいし数が多いので大変だ、アオバが。

俺? 俺は馬丁。いつも通りに朝から晩まで馬丁の仕事。


流石に式の当日は朝から神殿に閉じ込められた。

体を清められ、服を着せられ、髪を整えられて、メイクまでされた。

俺は座っているか立っているだけなのに疲れた。

表が騒がしい。

聞いてみると、キンちゃん、シンちゃん、テンちゃんが王都上空を旋回しているらしい。

俺に被害は無いので問題ない。


「お迎えのお時間です。」

係りの女性に促されて花嫁の部屋に向かった。

不覚にも足が震える。

「どうぞお入り下さい。」

部屋の中には、・・・・?

見知らぬ女性がいた。

キョロキョロと周りを見る。

「どうしたのですか?」

ハグちゃんの声がする。

声はすれども姿は見えぬ、ほんにあなたは屁のような。

って、違う。


じっと目の前の女性を見る。

「ハグちゃん?」

「何で疑問形なのよ。」

「えっ、ええっ! と言うことは、こっちはキリシ様?」

ぼこっ!

殴られた。

「花嫁が判らないってどういうことよ!」

「だってどう見てもべつじ、‥綺麗すぎて。」

明らかな殺意を感じて瞬時に言い直す。

俺は空気を読める男だ。


「行きますわよ。」

俺のイメージでは両手に花でバージンロードを歩く筈だったが、現実は左右の腕を拘束されて死刑台に向かう囚人? 

ドナドナされる牛?

ともあれ神殿に集まってくれた親族や友人の祝福を受けて花嫁たちの機嫌は直った。


宣誓を終えて神殿を出ると大勢の人が集まっている。

どゆこと?

俺達の姿を見て歓声を上げるが視線は神殿の屋根。

見上げるとキンちゃん、シンちゃん、テンちゃんの3人が屋根の上に立っている。

キンちゃんは九尾をクジャクのように広げて大サービス。

神殿前の馬車に乗り込むが、・・・。

屋根が無い。

パレード用のオープンカー。

3頭の白馬に先導されて護衛の騎士10騎がゆっくりと進む。

その後ろには馬車が2台。

そしてオープンカーに乗る陛下御夫妻。

何で陛下なんだ?

そのすぐ後ろに俺達の馬車。

すぐ後ろに騎士が6騎、そして馬車が数台続く。

その後ろは見えない。行列が長すぎ。

上空をキンちゃん、シンちゃん、テンちゃんがゆっくりと旋回しながら飛んでいる。

キンちゃんの9本の尾がキラキラして綺麗。


「手を振るのよ。」

上を見ていたらハグちゃんに怒られた。

「もっと笑顔で。」

キリシ様にも怒られた。

沿道は大勢の人で埋め尽くされている。

大きな歓声と拍手。

恥ずかしい。

王都周回ドナドナの旅が終り、王宮に入ったのは2時間後。

疲れた。


僅かの休憩で披露宴会場にドナドナされる。

新郎新婦席正面のテーブルには王族達が、隣のテーブルには高位貴族。

反対側のテーブルには友人達。アタゴ様がニヤニヤしながら座っている。

最後方のテーブルは親族らしい。宰相閣下も最後方のテーブルだ。

新郎新婦席の後ろ、1段高い所に国王陛下御夫妻が座っている。

立派な服を着たルタカに先導されて俺達が席に着いた。

前世の披露宴とは違い、この世界の披露宴は殆どが自己紹介と顔つなぎ。

疲れた。



「レキュウ公爵が、皇帝が神殿を壊したから帝国が滅んだというのは間違いだ、公爵領では7年前に全ての神殿を破壊したが何の問題も起きてはいない。神殿の補助を無くして兵力の増強に振り向けるべきだ、と貴族達を説得して回っている。」

アタゴ様が困った顔。

「レキュウ公爵は王国軍団長だからね。」

キリシが呆れたように言う。

結婚後も週に1度のお菓子食べ放題お茶会は続いている。

暇なのか、アタゴ様も毎回参加だ。

「どうして神殿を壊したのに何も起こらないのですか?」

ハグちゃんがシンちゃんに聞いた。

「加護の範囲を変えるのは面倒。」

「はあ?」

「加護は誰か一人に与えるんだ。王国では国王に与えているから、国王が統治している領地全てに加護が与えられる。」

キンちゃんが教えてくれた。


「でもこのままでは神獣様の加護など無いという公爵に同調する貴族が増えるわよ。」

ハグちゃん怒ってる。

目がめっちゃ怖い。

「予算を横取りして自分の取り分を増やそうとするバカ貴族は多いからな。」

アタゴ様も凄く怒っているけど怖くない。

不思議な現象だ。

「いっそ独立させちゃえば?」

ハグちゃん過激。

「公爵領から上納されている税は殆どありません。公爵は国境を護るための領軍維持費と称して殆どの税を免除させています。さらに第3師団を駐屯させているので国が負担している経費も莫大です。」

キリシ様は貴族の内情に詳しい。


「と言う事は軍事力が大きい?」

「主力の騎士団は王家直属ですし、第3師団以外の5師団は陛下を支持するので兵力的には問題ありません。」

「公爵家が独立すればシンちゃんの加護から外れるのよね。」

ハグちゃんが悪い顔。

「翌年から収穫量が半減するな。さらに次の年はその半分かな。」

シンちゃん笑顔で言わないで。竜の笑顔って怖いんだから。

「王国の領土に戻せば収穫量も戻るの?」

「加護は積み重ねじゃ。この地で400年、ようやくここまで豊かになった。一旦加護が失われればもとに戻るには数百年掛かる。領地を見捨てて新しい土地を開墾した方が良い。」

「帝国の復興に数百年掛かるのと同じことなのね。」

「そうじゃ。」

お茶会にしては物騒な話で盛り上がった。


今日で連休が終わり。明日からは仕事?

更新が並列投稿している”竜騎士 可愛い竜と異世界を楽しみます”と交互になると思います。

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