14 結婚を申し込みます
「よし。」
教えて貰った言葉はしっかり覚えた。
後は頑張るだけ。
キリシ様の屋敷に向かった。
嘘だろ?
馬車を降りて愕然とした。
俺の屋敷の倍以上ある大きなお屋敷。
そう言えばキリシ様が公爵令嬢っていう事を忘れていた。
執事らしいおっさんに案内された客間は広いし、見るからに高そうな家具や装飾品。
キリシさんが侍女と共に現れた。
凄いドレス。
めっちゃ奇麗。
あまりの美しさに頭の中が真っ白になった。
言葉が出ない。さっきまで覚えていたのに。
キリシ様の前に跪き、指輪を差し出して叫んだ。
「・・・、結婚して下さい!」
「はい、喜んで。」
キリシ様が指輪を受け取ってくれ、俺は気を失った。
「気が付いたか。」
目を開けると見知らぬ天井。
じゃなくてここはキリシ様のお屋敷。
慌てて飛び起きた。
「失礼致しました。」
どうやら客間のソファーに寝かされていたらしい。
前のソファーではおっさんとおばさんに挟まれてキリシ様が微笑んでいる。
「一人で帝国を倒した英雄が結婚申し込みで気を失うか?」
どこかで見たおっさんが笑っている。
えっと、確か・・・宰相?
「マヤ様ですから。」
キリシ様、全然フォローになっていない気がします。
「アタゴにダンスと女はからきしダメと聞いてはいたが、これほどとはな。」
「良いでは有りませんか。ダンスと女性以外にはめっぽう強いのですから。」
おばさ、お母様?がフォローしてくれた。
「そ、それで。・・・そ、側室に・・」
「ハグの事はキリシから聞いておる。良い女性だ。明日申し込みに行きなさい。但し、申し込みで気絶はするなよ。」
お父上に笑われてしまった。
「ありがとうございます。頑張ります。」
「ところで娘の指輪だが、・・。」
お父上が真剣な顔をしている。高級品でないので怒ってる?
「自作の指輪でお恥ずかしい限りです。」
「鑑定師に見て貰ったが見た事も聞いた事も無い魔法が付与されていると言われた。状態異常無効とはどのような魔法だ?」
「え~っと、眠り、毒、麻痺、魅了、幻惑、あと、・・・とにかく普通でない状態を全て排除する魔法です。」
「なんだと!」
「いえ、全部では無く、泥酔はしませんがちょっぴり酔いますし、普通に眠れます。魔法で眠らされるのを防ぐだけですので生活に支障は無い、と思います。初めて作った魔法なのですみません。」
色々付けているうちに全部纏めてしまえと思って作った魔法だ。
「すまぬが陛下にも作って貰えぬか?」
「陛下とは結婚しませんよ。」
「「プッ!」」
キリシ様とお母様が噴き出した。
「当たり前だ。陛下には長生きをして貰わねば国民が困る。周辺諸国が暗殺者を送って来る事もある。それを防ぐ為にこの指輪を役立てたい。」
「少し時間が掛かります。魔力の消費量が半端ではないので暫くは無理です。」
「魔力量か。帝国の城を潰すよりも大きな魔力が必要なのか?」
「帝国の城20個分くらいですね。」
「・・・・。」
宰相が口を開けたまま固まった。
いやそれくらいは使ったから。
「大切にします。」
キリシ様が左手の指輪を眺めて言ってくれた。
「気を失ったのはそのせいね。」
「いえ、嬉しすぎたからです。キリシ様が綺麗すぎたし、・・・。」
「女性に弱いって言うのは嘘ね。」
お義母様に笑われた。
「期間は気にしなくてよいが、なるべく早く頼む。」
「承知しました。」
って、何かおかしい。
「あっ、忘れていました。父上、母上、お嬢様との結婚をお認め下さい。」
ご両親の承諾を貰うのを忘れていた。
「「「ぷっ!」」」
3人が同時に吹き出した。
あれ? 何か変な事を言った?
「まあマヤさんですから。」
「やはりマヤだな。」
「はい、マヤ様ですから。」
「あのぅ、・・お認め下さいますか?」
「とうに認めておる。娘を頼むぞ。」
「はい、絶対幸せにします。」
翌日ハグちゃんの家に行った。
あれ?
以前と場所が違う。
でも店の名前は前と一緒。
中に入るとすぐに2階に案内された。
ハグちゃんがご両親と一緒に待っていた。
困った。
ハグちゃんに結婚の申し込みをして、承諾を貰ってからご両親の順番だった。
毎日世話をして貰っているのでハグちゃんに結婚の申し込みするのを忘れていた。
ご両親の前でも良いのかはアタゴに聞かなかった。
ままよ。
「ハグちゃん、俺と結婚して下さい。」
跪いて指輪を差し出した。
「はい。嬉しいです。」
ハグちゃんが指輪を受け取ってくれた。
やった~!
「それはキリシ様と同じ指輪ですか?」
お父さんが聞いてきた。
「いいえ。キリシ様は瞳が緑なのでエメラルド、ハグちゃんは青なのでブルーサファイアです。」
「いや宝石では無く、付与魔法のことです。」
「・・・・。」
「付与魔法については絶対に秘密にするようにと公爵家から連絡が来ています、勿論誰にも話しません。」
「そうですか。付与魔法は同じです。毒も麻痺も全て排除します。」
「大陸1の魔術師と聞いてはおりましたが、娘の為にそのような大魔法を使って下さり本当に有難うございます。」
「ご両親様は俺とハグちゃんとの結婚を認めて下さいますか。」
「勿論です。ハグは昔からマヤ様を慕っておりましたし、今や国を救った英雄で公爵格の大貴族様。結婚して下さると聞けば私達は勿論一族や使用人達も喜びます。」
「ありがとうございます。」
よかった。
「店もマヤ様のおかげで大きくなりました。ウェストポーチやガマグチバッグが大人気で3か月先まで予約が入っています。ドレスやメイド服も沢山の貴族様から注文を頂いております。」
「お役に立てたなら幸いです。これからは家族としてお付き合いして下さい。」
「有り難きお言葉、こちらこそ宜しくお願い致します。」
色々と失敗もあったが、第2関門もクリアできた。
あとはルタカに丸投げして馬丁の仕事に戻った。
基本的な馬の世話は騎士団の厩舎長が今まで通りにやってくれる。
俺は時々見回りをすれば良いらしい。
放牧場を散歩しながら目についた馬の健康診断をする。
放牧場の四阿では神獣様達がお茶会をしている。
食べ放題は週に1回なのでお菓子をちびちびと食べながら何やら盛り上がっている。
俺が近づくとピタッと話を止めた。
キンちゃんがあさっての方向を見上げて口笛を吹いている。
嫌な予感がした。
「何か企んでる?」
「ナニモタクランデナイヨ。」
シンちゃんを見ると、いない?
テンちゃんもいない。
キンちゃんに視線を戻すと、いない。
全員逃走した。




