13 お引越し
今日は週に1度のお茶会。
山と積まれたお菓子を神獣様達が頬張っている。
王家から神獣様達の茶菓子代が支給されることになったので週に1回お菓子の大人買い。
神獣様達が太らないように週に1度にした。
毎日だとさすがに贅沢すぎる。
馬丁の仕事は5日働いて2日の休み。
休みの日は神獣様達と遊んで午後はお茶会。
お陰で色々と判った。
帝国はキンちゃんが加護を与えていた国だった。
300年かけて土地を豊かにし、魔獣を減らしたらしい。
ところが10年前に今の皇帝が父を殺して即位。
キンちゃんの神殿も神座も壊してキンちゃんを追い出した。
キンちゃんの加護を失った国は土地がやせて収穫が減り洪水や干ばつの被害も増加した。
慌てた皇帝は、収穫量の減少を補う為に隣国を攻め滅ぼし、その勢いで侯爵領まで進軍してきたらしい。
「キンちゃんの民を殺しちゃってごめん。」
「帝都の住民が俺の神殿を壊した、神へのお供えなど無駄だと叫びながらね。」
「そうなんだ。」
「もう未練は無いし、マヤが死んだら新しい土地を育てるよ。」
「俺まだ16歳なんだけど。」
俺が死んだらって、当分死ぬ気は無いぞ。
「100年なんてあっという間だからな。」
「「そうそう。」」
シンちゃんとテンちゃんが頷いている。
確かに100年後には死んでる。
神獣様から見れば100年なんて一瞬らしい。
とにかく馬達を護れたし、陛下からお菓子代をふんだくれたし結果オーライ。
と思えたのは1か月程だけだった。
陛下から呼び出しが来た。
曰く、「王国騎士団の馬は殆どが侯爵領で育った馬で馬神様の眷属である。マヤ=ミョウコ馬丁爵を王都郊外に設置した騎士団駐屯地の厩舎長に任ずる。」
アタゴ様によると、侯爵家が強大な力を持った神獣を囲い込んで王国に背こうとしていると主張する貴族がいたらしい。
要は侯爵家から神獣を取り上げて自分に管理させろと言う事だった。
「バカなの?」
「うん、バカ。即刻除爵されて国外追放になった。だが、そんなバカげた主張でも信じる貴族がいたらしいから誤解を招かない為に王都の近くに住め、って言う事だ。神龍様が普通の大きさに戻っても騒ぎにならない放牧地を用意したらしいな。」
「はぁ。」
お引越し。
案内されたところは王都の北門からすぐの所にある騎士団駐屯地の隣。
以前下賜された屋敷より2回りは大きな屋敷。
屋敷の周りには広大な放牧地と競馬場並みの馬場。
要するに騎士団の訓練場に俺の屋敷を建てた?
屋敷の前にはルタカを先頭に家臣や使用人達が並んでいた。
「馬丁爵閣下のご帰還である!」
案内してくれたおっさんが声を張り上げる。
「「「お帰りなさいませ。」」」
「ただいま? って閣下じゃないし。」
「先の戦における戦功で陛下より公爵格を賜っております。」
公爵って王家を離れた王族じゃん。
「聞いてない。」
「今お知らせ致しました。」
しれっと言うな。
「はぁ。」
3日で屋敷から逃亡しました。
引っ越しした翌日から屋敷の門前には馬車の行列。
馬車の中には立派な服を着た貴族と貴族夫人、そして着飾ったお嬢様。
執務室の机は釣書の山。
引っ越しの疲れで寝込んでいることにした。
諦めるかと思いきや、翌日は馬車列が倍に伸びていた。
王都の侯爵邸に逃げ込みました。
「マヤは何をさせても凄いが、ダンスと女はダメだな。」
「笑い事じゃない。屋敷に戻ることも出来ないんだぞ。」
「結婚すればいい。」
「結婚って俺はまだ16だぞ。」
「婚約すれば騒動は収まる。」
「側室希望も結構来ているぞ。」
「側室も決めればいい。」
自慢じゃないが前世では享年=彼女いない歴だ。
「簡単に言うな。俺が貴族の生活をしていると思っているから押し掛けているだけだ。俺は馬丁を辞める気は無い。馬丁の所に来る嫁なんかおらん。」
「いるぞ。」
いるの?
「紹介してくれ。」
「正室は美人で賢い令嬢。側室は優しくて気遣いの出来る平民。二人は知り合いで仲が良いから納得してくれる筈。二人と婚約すれば側室問題も解決だ。」
アタゴ様が笑顔で話している。
「そんな都合の良い話があるか?」
はなはだ怪しい。
「マヤも気に入っている筈だし、俺の見た目では二人ともマヤが好きだ。」
明らかに面白がっている顔だ。
「その笑顔が気になるな。」
どう見ても悪い笑顔だ。
「いやマヤの鈍感さに呆れているだけだ。」
「誰だ?」
「キリシ嬢とハグ。」
「結婚する!」
俺が知っている中では最高の女性だ。
「即断かよ。」
アタゴ様が呆れている。
「二人が承知してくれたらすぐにでも結婚する。」
思わず前のめりになった。
「慌てるな、まずは女性に結婚の申し込みだ。多分大丈夫だから自信を持ってぶち当たれ。承知してくれたら両家に行って両親の許可を得る。旨く行ったら次に陛下の許可だ。」
「陛下の許可がいるのか?」
「貴族の結婚には陛下の許可がいる。政治的な問題が多いからな。」
「陛下の許可は貰えそうなのか?」
「両家が承知していれば問題は無い。それよりも今はお嬢様達への結婚申し込みだ。指輪を用意して申し込みに行け。」
「おう。」
「まずは婚約だ。式は早くて半年、いや1年後だな。」
「何でそんなに遅いんだ?」
「貴族は色々と準備がいるんだ。式場の手配も必要だし招待客も考えなくてはならん。陛下のご都合も伺わなくてはならん。」
「何で陛下なんだ?」
「マヤは公爵格だぞ。陛下に出席して頂かねば格好が付かん。」
貴族は色々と面倒なようだ。
家に帰れない俺は侯爵家の鍛冶場を借りて指輪作りに没頭した。
キンちゃんとシンちゃんが素材を提供してくれた。
あれやこれやと試しているうちに付与する魔法陣が複雑になってめっちゃめんどくさい。
魔力もでたらめに吸い取られてフラフラ。
頑張った甲斐があって2週間後にようやく完成した。
出来た、自分でも納得のいく自信作だ。
キリシの家に二日後の訪問を伝えると、すぐに了承の返事が来た。
「で、なんと言えばいいんだ?」
挨拶以外で女性と話したことなど殆ど無い。
どう切り出せばいいのか、想像すら出来なかった。
ましてや貴族家の訪問は初めて。挨拶の仕方すら判らない。
困った時はアタゴ様。
「・・・、おまえなあ。」
「いや、初めてだから。」
「結婚の申し込みなんて普通はみんな初めてだ。」
「考えてくれてもいいじゃないか。」
「はぁ。」
ため息をつかれてしまった




