12 馬丁爵軍出陣
馬丁の仕事に戻った。
今年の馬神様の日には馬神様は現れなかった。
毎年姿を現すと有難みが薄れると言っていた。
今はシンちゃん、キンちゃんと3人、いや3神獣で先週からどこかに出かけたまま。
王都から騎士団がやって来た。
兵もたくさんやって来て国境の砦に集結している。
馬丁たちも不安そうにしている。
王太子がやって来て陛下の書状を差し出した。
馬丁爵軍を率いて参軍せよ?
首を傾げていたらアオバが王都屋敷の庭師長と厩舎長を連れてやって来た。
「馬丁爵軍ただいま到着致しました。」
我が軍勢は一気に4倍に増えた、って俺を入れて4人。
どうしろって言うんだ?
「馬丁爵軍は游軍として臨機応変に戦え。」
「はあ?」
王太子は将軍として砦で指揮を取ると言って出かけて行った。
遊軍だから遊んでいて良い訳じゃないよな。
考えていたらキンちゃんが戻って来た。
凄く慌てている。
「戦だ、空を飛ぶ必要がある。この魔法陣に魔力を流せ。」
広げられたのは召喚の魔法陣。
言われるままに魔力を流すと魔法陣が金色の光に覆われた。
光が消えると、・・・。
どゆこと?
“早く名を付けろ“
魔法陣の中央に現れたのは馬神様。
「え~っと、天馬だからテン?」
「テン、うむ良き名じゃ。」
馬神様が魔法陣から出て来た。
「何で?」
「神獣は人間の争いに介入できぬ。」
「そうなの?」
「神獣仲間でのルールだ。だが、召喚獣の契約をしている間は主の意思で介入出来る。」
「そうなんだ。」
「帝国軍の主力は騎士団。王国も騎士団で迎え撃つ。馬達がたくさん死ぬ。」
「それはダメだ。」
俺は即答した。馬を守らなければならない。
「そうであろう。帝国は神獣の加護を失っているからいずれは滅びる。だがそれまで待つことは出来なくなった。馬達を救うためにはマヤの力が必要だ。」
「俺に出来る事なら何でもやるぞ。」
馬達の命が掛かっている。俺は自分に気合を入れた。
「ならば乗れ。」
テンちゃんが乗りやすいように屈んでくれた。
俺を乗せるとテンちゃんは国境砦に飛んだ。
砦の兵がテンちゃんを見上げて騒いでいる。
砦の500m程向こうに集結している敵兵も騒ぎ始めた。
砦の石壁の上に着陸すると王太子が走って来た。
「どうした。」
「敵の本営はどこですか?」
テンちゃんに乗ったまま聞いた。
「向こうの丘の上に見える大型のテントだ。」
遥か彼方の丘を指さした。
確かにテントらしいものが並んでいる。
「燃やしてきます。」
「なんだと!」
騒いでいる王太子を置き去りにして飛び立った。
真っ直ぐに敵の本営に向かう。
テンちゃんの馬上で魔法を練る。練る。練る。
“火焔地獄”
昔キンちゃんに教わった上級魔法。
・・・、失敗した。
久しぶりだったのでちょっと多めに魔力を注ぎ込んだら、気合が入っていたせいか大きな丘ごと炎に包まれている。
一番前にいた騎士団は無事だが、その後ろにいた歩兵や本営、さらに後ろの兵站を積んだ馬車が全て炎に包まれている。
馬車の横にいた数頭の馬も炎の中だ。
「あれは我が眷属では無い。気にするな。」
良かった。
「皇帝の城に行くぞ。」
「おう。」
ほんの10分程で帝都の皇帝城が見えて来た。
「結界がある。大岩で結界ごと潰せ。」
テンちゃんが指示を出す。
魔力を練る。練る。練る。練る。練る。
“隕石”
天空から真っ赤に焼けた隕石が落ちてくる。
結構でかい。
めっちゃ高い所に作ったから最初は点にしか見えなかったが、近づくにつれて大きさが判るようになった。
デカすぎた?
いや、バリアがあるから重くないと弾かれる。
ドガ~~ン!
バリアは全然関係が無かった。
隕石が城を押しつぶし盛大に土煙を上げる。
土煙に飲み込まれそうになって慌てて離れた。
火山の噴火よりも空高くまで舞い上がった土煙はドラゴの王都からも見えそうだ。
1時間ほどして薄くなった煙の中を見ると、城だけでなく帝都の半分がクレーターの中に消えていた。
「心配ない。消えた所は貴族や軍人の居住区だ。残っていたらもう1度攻撃して貰うつもりだったので手間が省けた。」
テンちゃんが納得しているから良しとしよう。
砦に戻った。
眼下で敵の騎士団が撤退している。他に撤退する兵はいない。
騎士団以外は全滅したようで、砦の前にはもう敵の姿は無かった。
城壁の上に着地すると王太子が迎えてくれた。
「馬を護りました。」
「はあ?」
「だから、帝国騎士団を撤退させて馬を護りました。」
「・・・、それよりもあそこに見える煙は何だ?」
遥か彼方に空を覆うほどの煙が立ち上っている。
「砂ぼこり。」
「砂ぼこり?」
「皇帝の城に岩を落としたら砂ぼこりが上がった。」
「城を潰したのか?」
「帝都が半分潰れた?」
「何でそうなった?」
「岩が大きすぎた?」
「・・・・。」
「貴族街も軍の駐屯地も奇麗に消えた。安心するが良い。」
テンちゃんが補足してくれた。
「馬神様のご助力、心より感謝いたします。」
殿下が跪き頭を下げる。
「われはマヤを乗せて飛んだだけじゃ。乗馬料として菓子を供えればそれでよい。マヤ、厩舎に帰るぞ。」
菓子はいるんか。
俺達は何か言いたげな王太子を城壁の上に置き去りにして飛び立った。




