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10 シンちゃんが来た

ようやく暗殺の危険が収まったと判断され、前期の試験から出席を許可された。

幸いなことに家臣たちが休学中のノートを見せてくれたので問題は無い。

学院内の安全確保の為に登校禁止になったので休学中も出席扱いにしてくれた。

久しぶりの教室、早速殿下が絡んで来た。

「貴族になった気分はどうだ?」

「めんどくさい。」

思っていた反応と違ったのか、殿下が一瞬固まった。

「・・・、ルタカ達を家臣にしたそうだな。」

「毎日助けて貰っている。俺一人ならとうに逃げ出してた。」

「卒業後は王都に住むのだろ?」

「俺は馬丁だから侯爵領に帰って馬丁をする。」

何を当然な事を聞くんだ、ちょっと不機嫌になった。

「屋敷はどうするんだ?」

どうするも何も陛下に貰ったのだから処分は出来ないと侯爵様が言っていた。

「ルタカが何とかしてくれる。」

「時々は王都に戻るのだろう?」

「王都に用は無いから来ないと思うぞ。」

「・・・、馬丁爵の仕事は無いのか?」

「馬丁爵だから馬丁が仕事だ。馬神様から血筋の馬達を頼まれているし、俺は馬神様の神殿長だ。出来るだけ神殿の近くにいたい。」

「侯爵領に家があるのか?」

「馬丁は結婚するまで厩舎で寝泊まりをする。厩舎が俺の家だ。」

「家臣は?」

「陛下に頂いた屋敷を護るのが家臣の仕事だ。」

判らん奴だ。

「判らぬ。」

判らんのはお前じゃ! 

思わず叫びそうになった。

前期試験も家臣たちのノートにおかげで及第点。

実技科目の点数は後期で取り返せば卒業出来そうだ。



王都最後の長期休み。

図書館に籠って面白そうな魔法書を探そうと思っていたら剣の注文が来た。

注文主は王太子殿下。

王家の紋章である神龍を彫り込んだ強化魔法付与のミスリル剣。

王太子殿下なんて会ったことも無い。

何で? と思ったらルタカの父上が王太子殿下の部下というか近衛騎士団長。

王太子殿下に俺の剣を見せたらしい。

「はぁ。」

試験休みが飛んだ。


見本の紋章を横に置いて剣に刻み込む。

柄も龍の文様。

王太子は火属性なので火魔法の魔法陣を組み込んだ。

刀身には武器強化と自動修復。

多少の傷や刃こぼれは自動的に修復される。

何度か振ってみて、バランスや刀身の調整をする。

後は本人に使って貰って微調整すれば良い。


王太子殿下の所に行った。

「おう、さすがは馬丁爵殿。素晴らしい出来だ。」

「恐れ入りますが、殿下に合わせたバランス調整を致します。いつもの感じで何度か振って下さい。」

「そうか。」

王太子殿下が剣を振る。

剣の初速や振り方の癖を見極めて調整する。

「おう、凄いな。あんな調整でここまで変わるか。」

刃筋が綺麗になった。

「柄に少しだけ魔力を注いで下さい。」

「こうか?」

王太子殿下が魔力を注ぐと刀身が炎に包まれる。

「な、なんだ?」

「刀身が火魔法を纏っていますので、魔獣戦での威力が増します。振って見て下さい。」

剣を振ると1m程剣先が伸びた。

「切っ先が伸びます。不意打ち程度ですが相手は間合いを取り難くなります。」

「・・・・、凄いとしか言えぬな。王家の専属鍛冶師になる気は無いか?」

「ありません。侯爵領で馬丁をします。今回は学院で学んだ鍛冶魔法の集大成として作りましたが、今後は馬具と農具を作ります。」

「・・・、いやいやこの剣は国宝級以上だぞ。」

「剣はあくまでも道具。殿下の身を護れれば剣も本望でしょう。折れるまで使ってやって下さい。」

「お、おう。・・・大儀であった。」



卒業研究として転移魔法の研究を選んだ。

物質を転移させることは出来るが、俺自身が転移したことは無い。

キンちゃんがしょっちゅう転移を使うので大体のイメージはある。

視覚共有を使えば離れた場所でも召喚獣が見えている場所になら転移出来るとキンちゃんが教えてくれ、飛行系の魔獣を召喚することになった。

放課後にキンちゃんに連れられて王都郊外の草原に行った。

何かのはずみで危険な魔獣が召喚された時の被害を防ぐためとキンちゃんに言われたから。

2週間掛かって描いた魔法陣の巻布を広げる。

キンちゃんに教わりながら描いた巨大な魔法陣。飛行系魔獣の召喚魔法陣だそうだ。

魔法陣に魔力を注ぎ込む。

“速き鳥よ、我の願いを叶えたまえ”

キンちゃんに教わった呪文を唱える。

魔法陣から金色の眩い光が放たれる。


「・・・・。」

なんでこうなった。

「はぁ。」

「早く名を付けろ。」

「・・・・、シン。」

「良かろう。」

シンちゃんが魔法陣から出て来た?

というよりシンちゃんがどいたから魔法陣が見えるようになった?

目の前には巨大な神龍様。

確かに空を飛ぶし、めっちゃ早いのは認める。

でも目立ちすぎ,こっそり転移は無理。

キンちゃんの言う通りに魔法陣を描いた俺がバカだった。


「九尾から聞いてはおったが、マヤの魔力は旨いのう。」

体の中から大量の魔力が吸い出される。

眩暈がする。

「バカ、少しは遠慮しろ。いきなり吸ったらマヤが倒れるぞ。」

「すまぬ、つい夢中になった。」

魔力の流れが止まった。

急速に魔力が回復していくのが判る。

召喚中でも魔力が回復していると言う事は神龍様をずっと召喚状態にしていても魔力は大丈夫と言う事。だがデカすぎるし目立ちすぎる。

「送還は好まぬ。」

先手を取られた。

神獣だけあって俺の心が読めるらしい。


「シンちゃんは何かしたい事ってある?」

「甘い物を所望じゃ。」

「体が大きすぎるからお菓子を食べても味が判らないと思うよ。」

「なら小さくなれば良い。」

シンちゃんの体がどんどん小さくなってキンちゃんと同じ位まで縮んだ。

ビックリして固まってしまう。

「これなら九尾のように菓子を楽しめるか?」

「・・ま、まあ楽しめるね。」

周りの人がどう思うかは別として。

考えるのは止めた。

とりあえず王都に帰ろう。


王都に向かって歩いていると、シンちゃんが俺の肩に飛び乗った。

「歩くのは苦手じゃ。」

反対側の肩にはキンちゃんがいるので俺の顔が二匹に挟まれて埋もれた。

「これじゃ前が見えないよ。」

「九尾は我の頭に乗れ。」

キンちゃんが肩から離れる。

「・・・・。」

これって何かの罰ゲーム?

俺はシンちゃんを肩車、シンちゃんの頭にキンちゃん。

身長が3m。

背の高い男はモテていたな、ってそんな場合じゃない。


「そのドラゴンは召喚獣か?」

大門で訊かれる。

「はい。神龍様・・・のお孫さん?」

神龍様本人、いや本龍とは言えなかった。

お菓子屋さんに行って大量に菓子を買い込んで屋敷に行った。

寮に戻ったら大騒ぎになるのが目に見えている。

屋敷に戻っても大騒ぎにはなったが俺の屋敷だから問題は無い。

お茶を用意させてシンちゃん、キンちゃんと三人でお茶会。

なんでこうなった。


翌朝、屋敷から登校して教室に入ると殿下に捕まった。

「神龍様と一緒にいたそうだな。」

「神龍様のお孫さん?」

「外の草原で神龍様を見た者がおる。」

「お孫さんを紹介してくれた?」

「狐と龍の三段重ねを目撃したものが多数おる。」

「両肩に乗ると顔が埋もれて前が見えないから。」

「そうではない。なぜ龍がいるんだ?」

「召喚したら来ちゃった?」

「来ちゃった、って龍だぞ、しかも神龍様。」

「キンちゃんの友達だから問題は無い?」

「神龍様は今どこにいる?」

「俺の屋敷?」

「何をしている?」

「キンちゃんとお茶会? お菓子を食べすぎると太るって言っておいたから大丈夫?」

「マヤは何で疑問形ばかりなんだ?」

「俺の事じゃないからはっきりとは判らないし。」

「危険は無いんだな。」

「無い。」

これははっきりと言える。

シンちゃんは人間が好きだから。

先生が入って来たので助かった。



昼休み、食堂で昼食を摂っていたら立派な服を着たおっさんが来た。

嫌な予感しかしない。

「馬車を用意いたしました、至急お屋敷にお戻りください。」

おっさんに乗せられた馬車には見慣れた紋章が付いていた。

屋敷に戻ると玄関横に同じ紋章の馬車が止まっている。

そう、王太子殿下の剣に刻んだ紋章。

「はぁ。」

ため息しか出ない。

客間に行くと何度か見たおっさん達がいた。

陛下と確か宰相?、そして王太子殿下。

「馬丁爵殿、留守の間に押しかけて申し訳ない。」

「いえ、陛下に頂いたお屋敷です。いつでもご自由にお入り下さい。」

どうせもうすぐ侯爵領に帰るから陛下が好きに使っても問題ない。

「神龍様が心から王国の事を考えてくれていた事を知って感激した。これからも何かと相談させて貰う事となった。そなたの屋敷じゃ、余に気を使わんでよいぞ。」

いやいや気を使うなって無理でしょ。

シンちゃん陛下に何を話したの?

早く侯爵領に帰る事しか頭に浮かばない。

「九尾様に聞いたが、馬丁爵殿は魔術に精通しておるとの事。王宮魔導士長に任じようと陛下がおっしゃっておる、どうじゃ。」

キンちゃん余計な事を言わないで。

「有り難いお話ながら私は馬丁の道を究める所存、遠慮させて頂きます。」

「侯爵から聞いてはおったが、本当に馬以外の欲が無いな。」

「私が王宮鍛冶師に任じようとしたら断られましたから。」

陛下の横で王太子殿下が笑っている。

「馬丁爵を縛るつもりは無い。だがそなたは王国にとって重要な存在だ、警備だけはさせてもらうぞ。」

「はあ。」

「神龍様は当分この屋敷に滞在するそうじゃ。余も祖先の事も知りたいので屋敷を訪れるが、今日と同じく忍びで参る。気遣いは無用にいたせ。」

忍びって、王家の紋章が付いた豪華な馬車で?

護衛の騎士も2~30騎はいたような気がするけど忍びなの?

「はぁ。」



使用人の数が増えた。

門番はどう見ても騎士だし、庭師は暗部? 目の配り方や身のこなしが違う。時々隠蔽魔法も使っている。

屋敷の中で魔法を使うと簡単に探知されるって知らないの?

ルタカ達が張り切りだした。

陛下がいつ来ても良いよう使用人達に庭や屋敷の手入れを指示している。

学院のお勉強は大丈夫?

俺?

警護の関係で寮を追い出されたから屋敷にいるけど、陛下の気配がしたら即逃走。

転移魔法で逃走するので警護のおっさんに何度も怒られている。


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